第44話 裏切りの証言
工房が封鎖された翌日、湊は王城の審問室へ呼ばれた。
名目は、転移炉事故と工房荒らしに関する事情聴取。
実態は、吊るし上げに近い。
長机の向こうには軍務局の審問官、工務監、財務局から一人、そして王家付きの記録官。
第二王子ガルドの姿こそなかったが、席の並び方だけで十分に分かった。
ここは向こうの場だ。
リゼリアも同席を求めていた。
王女として当然の権利だ。
だがそれすら、相手は歓迎していない。
「では始めます」
審問官が無機質な声で言う。
最初の問いは、まだまともだった。
転移炉へいつ入ったか。
何を見たか。
なぜ第三支持環の封鎖を提案したか。
湊は一つずつ答えた。
見えた構造も、遠隔入力の疑いも、銀杭が後から置かれた可能性も全部話す。
だが審問官は、必要なところだけ拾って別の形に直していく。
「つまり、通常の技師には見えないものが“あなたには見えた”と」
「はい」
「そして王国の主要設備へ独自判断で手を加えることが可能だった」
「爆発を逸らすために」
「可能だった、という点だけを確認しています」
嫌な切り取り方だ。
さらに扉が開き、二人の証人が入ってきた。
一人は工房に補助で出入りしていた若い助手。
もう一人は転移炉中枢室へ配置されていた門兵の一人だった。
助手の顔を見た瞬間、湊は奥歯を噛んだ。
昨日から消えていたやつだ。
「ミナトは、普段から見慣れぬ銀の杭や異国の道具を用いていた」
助手の声は震えている。
けれど、暗記してきた言葉を吐く声だった。
「転移炉の前夜には、“この国の古い仕組みは外から触らないと直らない”と言っておりました」
「言ってない」
と湊。
「黙ってください。証言中です」
審問官が遮る。
続いて門兵が口を開く。
「爆発の直前、ミナト殿が補助盤へ何かを差し込むのを見ました」
「床への逃がしを掛けただけだ」
「見たのは銀色の細い杭でした」
「だから、それは」
「さらに彼は、“これで分かるはずだ”とも」
言っていない。
でも、爆発直後の混乱で誰も正確には覚えていない。
そこへそれらしい台詞を置かれたら、十分“ありそう”に見える。
リゼリアが口を開いた。
「ミナトのこれまでの実績を考えれば、彼がわざと王国設備を壊す理由はありません」
審問官は穏やかな顔で頷く。
「殿下のお心は理解します」
この返し方が、最悪だった。
理解はする。
だが客観性はない。
そういう含みを持たせる言い方。
「理解ではなく、事実です」
リゼリアの声が冷える。
「王宮結界、水利盤、穀倉、兵装規格、地方視察。彼の改善で救われた現場は多い」
「だからこそ、影響も大きい」
別の役人が口を挟む。
「異邦の知識は有益でしょう。ですが王国中枢へ過剰に入り込みすぎたのではありませんか」
「入り込ませたのは、わたくしです」
その言葉の直後、リゼリアの睫毛がわずかに揺れた。
ほんの一瞬だけ、自分が湊をこの場へ引きずり込んだのではないかと疑う顔だった。
「ええ。そこも問題視されています」
沈黙が落ちた。
それはつまり、湊個人では終わらないということだ。
リゼリアの判断力そのものへ疑いを刺しにきている。
「王女殿下が、異邦人に惑わされているのではないか」
とうとう、その言葉がはっきり出た。
湊は拳を握った。
自分に何を言われるより、それがいちばん腹立たしい。
だがここで感情的になったら、本当に向こうの思う壺だ。
「……俺を危険人物にしたいのは分かった」
審問官が目を細める。
「何のことです」
「転移炉事故、工房荒らし、証人、噂。全部タイミングが良すぎる」
「被告人が陰謀を主張するのは、よくあることです」
被告人。
その単語が、じわりと重く落ちた。
もう“事情聴取”ですらない。
審問の終盤、審問官は結論めいたことを言った。
「現時点で故意は断定できません。しかし王都中枢設備へ再び近づけるのは危険と判断します」
予想していた。
していたが、実際に聞くと腹の底が冷える。
リゼリアは最後まで表情を崩さなかった。
ただ机の下で握られた手だけが、白くなるほど強い。
審問室を出たあと、廊下に出てすぐ、湊は息を吐いた。
「俺、思ったより詰んでる?」
カナンが短く返す。
「かなりだな」
リゼリアは数歩先で立ち止まり、振り返る。
顔色は悪い。
けれど視線は真っすぐだった。
「まだ終わっていません」
その一言だけで、かろうじて踏みとどまれる。
だが、次に来る処分が軽くないことも、もう三人とも分かっていた。
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