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マッチングアプリでマッチした相手は異世界の第三王女でした。〜召喚された最強クラフトマンは、崖っぷち小国を立て直して無双する〜  作者: 富益 啓


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第42話 仕組まれた爆発

転移炉の異常から半日後。

軍務局は“安全確認のため”として、限定的な再起動試験を強行することを決めた。


「馬鹿だろ」


書状を見た瞬間、湊は本気でそう言った。

隣でカナンが珍しくすぐ同意する。


「馬鹿だな」


「同じ感想なの嫌だな」


リゼリアは笑わなかった。

笑える状況ではない。


「拒否はできません。兄上は“王都の物流を止める方が混乱を招く”と主張しています」


「止めなきゃ爆ぜるって言ってるのに」


「だからこそ、こちらの記録を残したのでしょう」


王女の視線は冷静だった。

だが、その下にある焦りは隠しきれていない。


結局、湊は“技術顧問としての意見提示役”という半端な立場で試験に立ち会うことになった。

触れる権限はほとんどない。

だが、何かあったとき責任だけは近くへ落ちてくる。

嫌になるくらい綺麗な配置だった。


中枢室には前日より多くの人間がいた。

軍務局の記録官、工務監、警備兵、技師、そして第二王子派の役人。

全員が「公正な確認」であるような顔をしている。


炉の脈は、朝の時点でもう一段悪化していた。

外周第三支持環だけでなく、戻り流路の逃がし先にまで細い逆流が走っている。


「おかしい」


湊は床の補助盤へしゃがみ込み、指先で刻線をなぞった。


「昨日から増えてる」


「当然だろう。劣化は進む」

工務監が言う。


「進み方が自然じゃない」


視界に浮かぶ線は、もう“壊れかけ”ではなく“壊す順番に揃えられている”形だった。

どこかに起点がある。

しかも炉そのものではない。


「上だ」

湊が呟く。


「何?」

リゼリアが反応する。


「炉の中じゃない。座標指定側の入力盤、誰か遠隔で揺らしてる」


だが、そのとき既に試験開始の号令が出ていた。

補助環が回り始める。

床の紋が青白く光る。


「止めろ!」


湊が叫んだ瞬間、視界の中で一本の線が跳ねた。

見えたのは、ありえない位置に差し込まれた微細な銀片。

人の目ではただの留め具にしか見えない。

だが湊には、それが負荷を一拍だけ遅らせるための異物だと分かった。


「カナン、右! 第三柱の根元!」


言われる前にカナンが飛ぶ。

柱を蹴り、留め金を叩き落とす。


その一瞬だけ、炉の流れが戻りかけた。

だが遅い。

誰かが別の入力盤を起動した。


ごう、と低い唸り。

次の瞬間、外周環が白く弾けた。


湊は反射で足元の補助盤を蹴り、負荷の向きを床側へ逃がす。

完全には止められない。

でも、人のいる方向からだけは逸らせる。


爆音。

熱。

砕けた光の破片。


中枢室の半分が煙に呑まれた。


転げたまま、湊は耳鳴りの中で咳き込む。

熱い。だが生きている。

周囲からもうめき声が上がっていた。

直撃を受けたはずの中央部より、外周壁の損壊が大きい。

さっき負荷を床へ逃がしたおかげで、死者は出ていない。

少なくとも、今見える範囲では。


「リゼリア!」


煙の向こうから、カナンが王女を庇って立ち上がる。

無事だ。

そのことに一瞬だけ心底安堵した。


だが、完全に無傷ではなかった。

カナンの左脇腹の革鎧が裂け、赤い線が一筋、腰布へ落ちている。

利き腕ではない。

立てない傷でもない。

それでも、彼女が呼吸を一拍だけ浅くしたのを湊は見逃さなかった。


戦闘には勝てる。

でも、代償は残る。


けれど、次に飛んできた声が最悪だった。


「ミナトが炉へ細工をしたぞ!」


誰かが叫んでいる。

しかも一人ではない。


「爆発前、異邦人が補助盤へ触れていた!」

「見た、あの銀の杭を差し込んでいた!」


湊は顔を上げた。

確かに触れた。逃がした。だが、それは爆発を逸らすためだ。

しかも銀杭は使っていない。


「違う!」


言い返そうとした瞬間、煙の中から記録官が何かを拾い上げた。

祖父の工具箱に入っているものとよく似た、細い銀杭だ。


喉が冷えた。


そんなものは使っていない。

つまり、置かれた。


工務監が血相を変えた顔で叫ぶ。


「やはり禁じられた異邦の術具ではないか!」


「ふざけんな、それ」


だが場の空気はもう論理で動いていなかった。

爆発の直後だ。煙があり、悲鳴があり、恐怖がある。

そこに“分かりやすい犯人像”を投げ込まれれば、人はそちらを見る。


湊が最後に近くにいた。

異世界の道具を持っている。

理解できない理屈で設備を触れる。


条件が揃いすぎていた。


リゼリアが前へ出ようとする。

だがカナンが一瞬だけ腕を掴んだ。


「今は駄目だ」


「しかし」


「ここで殿下まで熱くなったら、向こうの思う壺だ」


正しかった。

正しいから、余計に苦い。


その日のうちに王宮中へ噂が走る。


異邦人の工房職人が、王都の要である転移炉へ禁術を使った。

事故か故意かは分からない。

だが、少なくとも“最後に触れていた”のは確からしい。


夕方、工房へ戻る道すがら、すれ違う使用人たちの目がもう違っていた。

昨日までの好奇や敬意ではない。

恐れと、疑いだ。


湊は黙ったまま歩く。

隣のリゼリアも、何も言わない。


ただ一つだけ、はっきりしていた。


これは事故じゃない。

しかも設備を壊すためだけの罠でもない。


湊という異物を、王都の中で危険なものとして固定するための爆発だ。


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