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マッチングアプリでマッチした相手は異世界の第三王女でした。〜召喚された最強クラフトマンは、崖っぷち小国を立て直して無双する〜  作者: 富益 啓


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第30話 小国に灯る初めての希望

視察を終えて王都へ戻る道中、湊は馬車の窓から外を眺めていた。


行きには沈んで見えた村々が、帰りには少し違って見える。

もちろん劇的に豊かになったわけじゃない。

だが、水路に水が走り、関所の門が開き、荷車が以前より早く動き、夜の防柵が立つ。


「小さい勝ちでも、積めば景色は変わるんだな」


「小さくはありません」

リゼリアが向かいで言う。

「この短期間で、軍事、物流、農業が同時に上向き始めたのです。王国にとっては大きな変化です」


たしかに、その通りだった。


兵装庫の規格見直しで兵の装備が持ち直す。

穀倉と水車で食糧のロスと生産が変わる。

橋と荷車で物資の流れが太くなる。


一つ一つは地味でも、全部つながれば国力になる。


王都へ戻ると、その変化は数字でも出始めていた。


「東街道の通行量、先月比で一割八分増」

「南穀倉の損耗率、半減見込み」

「地方兵の補給遅延、改善」

「第一王女殿下付きの書記官から、東街道改善の数字を北方使節対応に回したいとの照会も来ています」


執務室で報告を聞く役人たちの声は、以前より明るい。

リゼリア派へ鞍替えし始めた者も増え、工務局の若手技師たちは自発的に地方規格の図面整理を進めていた。


カナンが窓辺で言う。


「王都の空気が変わったな」


「悪い方に?」

湊が訊く。


「半分はな。いい方へ変わると、困る奴も増える」


その言葉どおり、全員が希望を見ているわけではなかった。


夜。

王城の一角、灯りを落とした私室で、ガルドは静かに報告書を読んでいた。


扉の外から合図がある。

入ってきたのは、商人風の男だった。だがその歩き方は軽すぎる。荷を運ぶ人間の足ではない。


「東街道の動きが想定以上です」

男が言う。

「第三王女派の支持も、地方で広がっています」


ガルドは書類を閉じた。


「異邦人一人で、ここまで変わるものか」


「技術だけではありません。民心も動いています」


「面倒だな」


淡々とした声だった。

怒鳴りもしないし、机を叩きもしない。

だが、その静けさの方がよほど冷たかった。


「青い鷹の印を使う連中――青鷹には伝えてあるか」


「はい」


「では、予定を早めろ」


商人風の男がわずかに顔を上げる。


「よろしいので?」


「このまま育てるのはまずい。妹も、異邦人も」


ガルドは窓の外、王都の明かりを見た。


「希望というやつは、芽のうちに踏んでおく方が楽だ」


男は深く一礼し、音もなく去っていく。


一方その頃、何も知らない湊は工房で図面を広げていた。

東街道視察で得たデータをまとめ、次に必要な改善を洗い出している。


ふと、日本で請けていた仕事先へ何も伝えられていないことを思い出す。

胸の奥が少しだけ引っかかったが、目の前の地図から視線を外す余裕はまだなかった。


「まだ足りないな」


「何がです?」

リゼリアが覗き込む。


「通信と補給の中継拠点。あと、地方ごとの職人育成。王都地下で不安定なまま運用されている転移炉も、いつかは手を入れないといけない」


「もう次を見ているのですね」


「見てる。だって、直し始めたら止まれないでしょ」


リゼリアは微笑み、湊の隣に立った。

机の上には、王都と地方を結ぶ線が何本も引かれている。


それはまだ細い。

けれど、たしかに以前より増えていた。


「この国は、まだ終わらない」


リゼリアがそう言う。


湊は頷いた。


「うん。むしろ、やっと始まった感じ」


王城の窓の外、夜の王都にはまだ不穏も多い。

第二王子も、強国の影も、消えてはいない。


それでも。


崖っぷちの小国ルーメリアには、その夜、確かに初めての希望が灯っていた。


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