第3話 マッチした相手は第三王女
『やはり……繋がったのですね』
意味深すぎる返答に、湊はスマホを持ったまま工房の椅子へ座りこんだ。
深呼吸を一つ。
冷静になれ、と自分に言い聞かせる。
相手は祖父の名前を知っている。だが、それだけで信用するほど湊は甘くない。
『悪いけど、状況が分からないです。祖父の知り合いですか?』
すぐに返事が来た。
『直接お会いしたことはありません。ですが、源蔵殿の記録は残っています』
『記録?』
『はい。王城の禁書庫に』
「禁書庫」
湊は思わず声に出した。
言葉選びのセンスが徹底している。ふざけているなら凝りすぎだし、本気なら危なすぎる。
しばらくやり取りを続けるうちに、リゼリアという相手の文章には妙な癖があることに気づいた。古風で、丁寧で、ときどきこちらの言い回しをそのまま真似する。ネット慣れしていない人間が、必死に合わせてきている感じだ。
試しに、湊は半分冗談で送ってみた。
『第三王女って、本物の王女ってことですか?』
少し間が空いたあと、返事が来る。
『はい。ルーメリア王国第三王女、リゼリア・ルーメリアです』
『じゃあ俺は今、異世界の王女とマッチしてるってことになりますけど』
『異世界、という表現は近いです』
「近い、って」
否定しないらしい。
湊は額を押さえた。
朝から情報量が多すぎる。だが、相手の文章には薄っぺらい芝居っぽさがなかった。むしろ、説明する余裕がない焦りの方が強い。
さらに追撃するように、リゼリアから一枚の画像が送られてきた。
石造りの高い窓辺から見下ろした町並み。
赤茶の屋根が連なり、その向こうには二重の城壁、さらに遠くには川と山脈。空には、見慣れた月とは別に、淡く小さな光の輪が浮かんでいる。
合成、と言われたらそう見えなくもない。
だが、写真として妙に自然だった。
コスプレイベント会場やテーマパークの類では、たぶんない。
『これが、あなたのいる場所?』
『はい。王都です』
『じいちゃんは、そこにいたことがあるんですか』
返事はすぐには来なかった。
長い沈黙のあと、表示された文章は短かった。
『源蔵殿は、わたくしたちの国にとって、希望だった方の名です』
胸の奥が、ひとつ強く鳴った。
祖父が、希望。
古道具を黙々と直していたあの老人と、その言葉はどうしても結びつかない。
けれど、湊には思い当たることが一つだけあった。
子どものころ、工房で見たことのある奇妙な図面だ。
歯車にも見え、紋章にも見える線がびっしり描かれた紙。木工でも金工でもない何かの設計図だった。尋ねても祖父は「昔の仕事だ」で済ませたが、あの紙に描かれていた線の雰囲気は、いまスマホ画面の中にある紋章とどこか似ていた。
『祖父は何をしてたんですか』
湊がそう打つと、相手は珍しく迷うように間を置いた。
『その答えを、わたくしはまだ全部知りません』
『ただ、あなたが源蔵殿のご血縁なら』
『もしかすると、わたくしたちの国を救えるかもしれないのです』
さすがに笑うところだ。
そう思ったのに、湊は笑えなかった。
画面の向こうの第三王女は、冗談で国を背負っているようには見えなかったからだ。
そして、次に届いた一文が、その空気を決定的なものにした。
『もう、あまり時間がありません』
毎日21時更新予定。お気に入り登録ぜひよろしくお願いします。




