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マッチングアプリでマッチした相手は異世界の第三王女でした。〜召喚された最強クラフトマンは、崖っぷち小国を立て直して無双する〜  作者: 富益 啓


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第24話 盗賊になった元兵士

ロド村を出た翌日、一行は東街道脇の林道で襲撃を受けた。


最初に飛んできたのは、粗雑な矢だった。

狙いは甘いが、数は多い。


「伏せろ!」


カナンが即座に馬車の前へ出て、大剣で矢を弾く。護衛兵たちも応戦するが、賊の動きは妙に統制されていた。

ただの食い詰めた盗賊ではない。


湊は馬車の陰から周囲を見た。

賊の装備はばらばらだが、剣帯の位置や盾の構えに妙な癖がある。さらに、使っている槍と短剣の一部は、ルーメリア正規兵の旧式品だった。


「あれ、元兵士だ」


「分かるのか?」

カナンが前を見たまま問う。


「装備もだけど、動きがそう」


襲撃は短時間で終わった。

カナンが前衛を崩し、護衛兵が包囲を狭める。逃げ遅れた賊を数人捕え、残りは森へ散った。


縛り上げられた賊の一人は、まだ若い男だった。

頬はこけ、腕だけがやけに太い。


「お前ら、どこの兵だった」


湊がそう訊くと、男は最初は黙っていた。

だが、リゼリアが前へ出た瞬間、目を見開く。


「……第三王女」


「ええ。答えなさい」


男は唇を噛み、やがて絞り出すように言った。


「東辺境守備隊だ」


その場の空気が重くなる。

守備隊といえば、正規の地方兵だ。盗賊ではなく、国を守る側だった者たち。


「なぜこんな真似を」

リゼリアの声が低い。


男は笑った。

乾いた、ひび割れた笑いだった。


「なぜ? 給金が止まったからだよ。配給も減った。隊は解かれた。剣だけ残して、あとは各自で生きろと言われた」


「そんな命令、正式には――」


「正式じゃなきゃ、腹は膨れねえ」


痛いほど真っ当な返しだった。


捕えた者たちを連れて、近くの廃村跡へ行くと、そこには女や子ども、年寄りまでいた。逃げ場を失った兵士とその家族だ。盗賊団というより、見捨てられた集団だった。


カナンが低く舌打ちする。


「最悪だな」


リゼリアは少し青ざめた顔で辺りを見回していた。

自分の国の現実を、また一つ突きつけられたのだろう。


湊は男たちの武器へ近づいた。

どれも手入れが不十分で、刃こぼれし、柄巻きが緩んでいる。食うにも困る状況で武器の整備どころではなかったはずだ。


「これじゃ、略奪だって長く持たない」


「なんだと」

年長の男が睨む。


「武器が死んでる。使ってるお前らも死ぬ」


湊は一本の槍を持ち上げ、石へ軽く当てた。

穂先の留めがゆるく、嫌な揺れが出る。


「直せるのか」


「直せる。でも条件がある」


男たちが黙る。

リゼリアもこちらを見る。


湊ははっきり言った。


「盗賊やめろ。代わりに、村と街道を守る側へ戻れ」


「戻れるわけが――」


「戻すんだよ」


リゼリアが続いた。


「東街道の再建には、土地勘のある戦力が必要です。正式な復隊ではなくとも、治安維持兵として雇用する道はあります」


「金は?」

男が吐き捨てるように言う。

「また口約束じゃないのか」


そこでリゼリアは、王家の印章札を外して男へ見せた。


「わたくし名義で保証します」


沈黙。


その重みは、ここにいる全員が分かっていた。

王女個人が責任を負うと言っているのだ。


「……なぜだ」

男が掠れた声で問う。


「あなたたちがいま盗賊になっている理由が、怠惰ではなく、切り捨てられた結果だからです」

リゼリアは言う。

「ならば、切り捨てたままにしてはいけない」


湊はその横で、武器の簡易修理を始めた。

刃の芯を整え、柄を締め直し、革帯を結び直す。


「ほら」


最初に若い男へ短剣を返す。

握った途端、その顔色が変わる。


「……軽い」


「違う。仕事してないブレが減っただけ」


一人、また一人と武器を差し出してくる。

敵意は簡単には消えない。だが、飢えた人間にも“まともに扱われる感覚”は伝わる。


交渉は夕方まで続いた。

最終的に、元兵士たちは武装解除ではなく登録制の臨時治安維持兵として雇用されることになった。監督役はカナン、装備整備は湊、王女名義での補給保証付き。

ただし日々の指揮は最寄りの東街道守備司令へ順次引き継ぎ、カナンは名簿と規律だけを残して一行に同行し続ける形だ。


馬車へ戻る頃、若い元兵士が小さく言った。


「……姫様」


リゼリアが振り返る。


「今度こそ、見捨てませんか」


彼女は少しだけ目を伏せ、それから真っ直ぐ答えた。


「見捨てません」


短い言葉だった。

けれど、その約束は、壊れた武器を直すよりずっと重い。


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