第18話 職人風情と笑うな
舞踏会から二日後、王宮の訓練場で小規模な武芸披露会が開かれた。
表向きは秋季祭礼の余興。
実際には、貴族たちが自分の家の武力と装備を見せびらかす場だ。
湊としては行きたくなかったが、リゼリアに言われた。
「あなたを侮っている方々は、技術の話だけでは理解しません」
「つまり見せしめ?」
「少し語気が強いですが、概ねそうです」
潔い。
会場の中央では、第二王子派の若い伯爵家当主、ルドヴァンが得意げに新型の魔剣を披露していた。黒光りする刀身に青い魔石が埋め込まれ、見た目だけは派手だ。
「これは我が家お抱え工房の最高傑作! 魔力伝導率は従来品の三倍、切れ味は鋼壁をも断つ!」
観客席から歓声が上がる。
湊は剣を一目見た瞬間、ため息をつきたくなった。
「あれ、危ないな」
隣のカナンが眉を上げる。
「分かるのか」
「分かる。出力だけ盛って、逃がしが死んでる」
刀身内部の工式流路が細すぎるのだ。魔力を無理やり通すぶん、負荷が根元に集中する。演出用の一撃は派手でも、実戦で連続使用したらまず保たない。
ちょうどそのとき、ルドヴァンがこちらへ気づいた。
「おやおや、王女殿下の異邦人ではありませんか」
声がでかい。
見せ場を作りたいのが見え見えだ。
「どうです? 職人殿にも、この魔剣の素晴らしさは分かりますかな」
周囲が面白がる空気になる。
湊は正直に答えた。
「素晴らしいのは見た目だけですね」
一瞬でざわめきが大きくなった。
ルドヴァンの顔が引きつる。
「なに?」
「出力の見せ方はうまい。でも、流路設計が雑。三撃目くらいで根元が悲鳴上げる」
「素人が知ったような口を!」
「じゃあ振れば分かる」
ルドヴァンは顔を真っ赤にし、鼻で笑った。
「よろしい。では、そこの傭兵に相手をさせよう」
だが、それより先にカナンが一歩前へ出た。
「私がやる」
「S級冒険者殿?」
ルドヴァンが一瞬たじろぐ。
「不満か」
「い、いや、ないとも」
不満はありありだが引っ込めるしかないらしい。
模擬戦用の木盾と鈍剣が用意された。ルドヴァンは魔剣を持ち、カナンは自前の大剣ではなく訓練用の剣を手に取る。条件は対等、という体裁だ。
開始前、湊はカナンのそばへ寄った。
「三撃目で、上から受けるな。流して、最後だけ正面」
「折る気か」
「向こうが勝手に折れる」
カナンの口元がわずかに上がった。
合図と同時に、模擬戦が始まる。
一撃目。
ルドヴァンの魔剣が青白く光り、過剰な魔力をまとって振り下ろされる。
カナンは半歩引いて流す。
二撃目。
横薙ぎ。これも受けずに逸らす。
「逃げるだけか!」
ルドヴァンが叫ぶ。
三撃目。
踏み込みと同時に、魔剣の光がさらに強くなる。
その瞬間、湊には刀身内部の流路が真っ赤に焼きつくように見えた。
「今」
カナンが真正面から打ち合わせる。
甲高い破裂音。
次の瞬間、ルドヴァンの魔剣は、根元から見事に折れた。
会場が静まり返る。
折れた刀身が石畳へ転がり、からん、と虚しい音を立てた。
「……は?」
一番間抜けな声を出したのは、持ち主本人だった。
カナンは剣を下ろし、平然と言い放つ。
「三撃目で死ぬ武器だ」
湊が追い打ちをかける。
「あれだけ魔力盛れば、そりゃ派手にはなる。でも逃がしがない。飾りの武器としては立派かも」
観客席のあちこちから、笑いを堪えきれない気配が漏れる。
ルドヴァンの取り巻きたちですら、顔を伏せていた。
「き、貴様……!」
「職人風情、って笑ったのそっちでしょ」
湊は折れた刀身を拾い上げ、断面を皆へ見せた。
「ほら。ここ、流路が一か所に寄ってる。見栄え優先でこういう設計すると、実戦で死ぬのは使う側だよ」
言葉が、その場にいた若い騎士たちへ刺さる。
彼らは見栄えではなく、生き残るために武器を使う側だからだ。
リゼリアは一歩前へ出て、澄んだ声で言う。
「ルーメリアに必要なのは、見た目だけの武威ではありません。現場で折れない武具です」
王女のその言葉で、空気は完全に決まった。
ルドヴァンは折れた魔剣を握りしめたまま、顔を真っ赤にして立ち尽くす。
笑い者だ。
しかも自分から舞台を作って、その上で転んだ。
披露会の終わり際、若い兵士が湊へおずおずと声をかけてきた。
「あの……本当に、折れない武器を作れるんですか」
湊は少しだけ笑う。
「折れないは無理。でも、無駄に折れる武器は減らせる」
その返事に、兵士は目を輝かせた。
会場の遠くで、それを見ていたガルドの目がすっと細くなる。
湊が潰したのは一本の魔剣だけではない。
第二王子派の“派手さ”で押すやり方そのものだった。
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