表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マッチングアプリでマッチした相手は異世界の第三王女でした。〜召喚された最強クラフトマンは、崖っぷち小国を立て直して無双する〜  作者: 富益 啓


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/27

第17話 舞踏会のエスコート

偽恋人契約の効き目は、驚くほど早かった。


翌々日に開かれる秋季舞踏会で、リゼリアは公の場に湊を伴うと宣言したのだ。


王宮中がざわついた。


「いや待って、そんな大舞台で初公開?」


衣装係に採寸されながら、湊は情けなく呻いた。


「最初が肝心です」

リゼリアは鏡越しに平然と言う。

「曖昧に出すと、余計に好き勝手書かれます」


「もう十分好き勝手書かれてる気がするけど」


「それはそうです」


開き直りが早い。


湊に用意された礼装は、黒を基調にした簡素な上着だった。王侯貴族のような過剰な刺繍はないが、仕立てはいい。客人でありながら王女の隣に立つ男として、浮きすぎず、埋もれすぎない絶妙なラインを狙ったらしい。


「これ考えた人、相当性格いいな」


「わたくしです」


「王女様、けっこう容赦ないね」


「必要なところにはあります」


準備の間、カナンは完全に付き添い兼監視役だった。

壁際で腕を組みながら、時々こちらを見ては鼻を鳴らす。


「転ぶなよ」


「踊らない予定なんだけど」


「予定で済まないのが王宮だ」


その忠告は正しかった。


夜。

大広間は、湊が現代で見てきたどの式典会場より豪奢だった。

高い天井から無数の照明石が吊られ、磨かれた床には光が溶けている。絹、宝石、香水、ワイン、笑い声。全てがきらびやかで、全てが作られた場だ。


その入口で、湊は一度だけ深呼吸した。


「逃げてもいい?」


「駄目です」

リゼリアが即答する。


「せめて三秒迷って」


「では、二秒だけ」


そう言いながら、彼女は自然な動作で湊へ手を差し出した。


白い手袋越しの細い指。


「エスコートを」


その一言で、湊の腹は決まった。


現代でイベント設営やセレモニー補助をしてきた経験が、こんなところで生きるとは思わなかった。姿勢を整え、歩幅を合わせ、視線を泳がせない。舞台に立つ側ではなく、支える側として覚えた動きが、そのまま礼法の代わりになる。


「……意外と様になっています」

隣でリゼリアが小さく言う。


「職業柄ね。人前で恥かかない立ち回りだけは覚える」


扉が開く。


「第三王女リゼリア・ルーメリア殿下、ご入場!」


視線が一斉に集まった。


湊は肌で分かった。

好奇、嘲り、値踏み、敵意。歓迎などほとんど混じっていない。


それでも、リゼリアは一歩も怯まなかった。

湊も合わせて前へ出る。


ひそひそ声が飛ぶ。


「あれが異邦人か」

「本当に男を連れてきたぞ」

「後援者、ではなく恋人だと?」


全部聞こえている。

聞こえているが、無視した。


大広間の中央まで進んだところで、数人の令嬢がわざとらしく扇を口元に当てて笑う。貴族の若者たちはあからさまに見下した目を向けてきた。


その中を、リゼリアは堂々と抜ける。

湊はその横で、彼女の手を離さなかった。


「緊張してますか」

リゼリアが囁く。


「してる」


「わたくしもです」


「王女でも?」


「王女だから、です」


その返答に、少しだけ肩の力が抜けた。


やがて音楽が変わり、最初の挨拶の時間になる。

ガルドが遠くからこちらを見ていた。笑ってはいるが、目は冷え切っている。


近くの貴族が、わざと聞こえる声で言った。


「どこの馬の骨かと思えば、職人風情とは」


湊はそちらを見た。

男は鼻で笑う。


「殿下も酔狂ですな。恋人役なら、もう少し飾り映えのする男をお選びになればよかった」


リゼリアが口を開く前に、湊が一歩出た。


「飾り映えで国が直るなら、たしかに俺はいらないですね」


一瞬、周囲の空気が止まる。


「ですが残念ながら、結界も穀倉も槍も、見た目じゃ直らないんで」


令息の笑みが引きつった。

周囲から小さな失笑が漏れる。


リゼリアは横で涼しい顔をしながら、ほんの少しだけ指先に力を込めた。

よくやった、という合図みたいだった。


その後の挨拶回りでも、湊は必要以上に卑屈にならなかった。

持ち上げもしないが、引きもしない。

その立ち方が、かえって周囲をざわつかせる。


舞踏会の終盤、ついにガルドが近づいてきた。


「なかなか堂に入っているじゃないか、異邦人」


「ありがとうございます」


「妹の隣に立つのは重荷ではないか?」


「軽くはないですね」


「ほう」


「でも、似合わないとは思ってません」


その返答に、ガルドの笑みがわずかに細くなる。

リゼリアは何も言わず、ただ湊の腕に自分の手を重ねた。


公の場でのその仕草は、何より強い宣言だった。


舞踏会が終わる頃には、宮廷中の認識は書き換わっていた。


異邦人の職人。

王女が連れ込んだよく分からない男。


その曖昧な存在は、今夜を境に、第三王女の隣へ立つ男として刻まれたのだ。


廊下へ出たあと、湊はようやく息を吐いた。


「寿命縮んだ」


「よく耐えました」


「王女様、たまに褒め方が上司」


カナンが横から鼻を鳴らす。


「あれで転ばなかっただけ上出来だ」


「評価基準低くない?」


だが彼女の口元も、ほんの少しだけ緩んでいた。


その晩、王都の貴族たちは皆同じ噂を口にした。


第三王女の隣には、見慣れぬ異邦人がいた。

そしてあの男は、少なくとも飾りではないらしい、と。


毎日21時更新予定。お気に入り登録ぜひよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ