表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マッチングアプリでマッチした相手は異世界の第三王女でした。〜召喚された最強クラフトマンは、崖っぷち小国を立て直して無双する〜  作者: 富益 啓


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/29

第13話 兵装庫の錆びた槍

北兵装庫は、王城の外縁に近い古い石倉だった。


扉を開けた瞬間、湊は顔をしかめた。


「うわ。湿気すごい」


金属と埃と古い油の匂いが混ざっている。武器庫というより、使われなくなった倉庫だ。


壁際に立てかけられた槍は、長さも太さもばらばらだった。柄の木材も種類が混在し、穂先の付け根には青錆が浮いている。よく見ると、同じ部隊用の束でさえ規格が揃っていない。


兵務官の男が苦い顔をした。


「予算の都合で、修理と流用を繰り返しておりまして」


「繰り返した結果、何がどこの部隊用か分からなくなってる、と」


「耳が痛いですな」


リゼリアは槍を一本手に取り、重さに眉をひそめた。


「これを実戦で?」


「新兵には特に不評です」

兵務官が答える。

「重い、折れる、扱いづらい、と」


カナンが一本を軽く振って、即座に顔をしかめた。


「遅いな。これでは突きより戻しの方で死ぬ」


湊は一本一本手に取り、床へ並べ始めた。

長さ、重心、木目、金具の留め方。頭の中で勝手に整理されていく。

魔力の流れを視る時とは違う。これは、現物を触ってきた職人の目だ。


「……三世代混ざってる」


「分かるのか?」

カナンが横から覗く。


「この古いのは柄が太い。腕力前提。こっちは軽量化狙ってるけど、接合が弱い。で、今納品されてる新しいやつは見た目だけ揃えて中身がダメ」


穂先の差し込み部を示す。


「ここ薄すぎる。突いた時の衝撃が一点に集まるから、柄の付け根から折れる」


兵務官が思わずうめいた。


「まさに、その壊れ方をしております……」


「誰が納品してる?」


男は言い淀み、リゼリアの顔色を見てから答えた。


「第二王子殿下寄りの工房です」


なるほど、と湊は思った。

安物を回して差額で抜いているか、わざと弱い規格を流しているか。その両方かもしれない。


「直せますか」

リゼリアが問う。


「全部は無理。でも、規格は切れる」


湊は床へ膝をつき、数本を並べ替えた。


「まず長さを二種に絞る。前列兵用と後列兵用。柄の太さも統一。重心は穂先寄りすぎるから、石突き側に少し戻す」


「そんなことで変わるのか」

兵務官が疑う。


「じゃあ試そう」


城内訓練場へ場所を移すことになった。


古びた槍を持った兵士三人と、湊が即席で手を入れた槍を持った兵士三人。湊がしたことは、壊れた柄を規格の近いものに揃え、穂先の差し込みを深くし、余分な飾り金具を外しただけだ。


見た目は地味だ。

だが、差はすぐ出た。


「構え!」


兵務官の号令で、一斉に突きが繰り出される。

従来槍の列は、戻しで穂先がぶれた。

改修槍の列は、二撃目への移行が明らかに早い。


「もう一度!」


今度は踏み込み付き。

古い槍の一つが、付け根から嫌な音を立てた。

改修槍はぶれず、兵士の手元だけが軽くなっている。


「うわ、全然違う」

若い兵士が声を上げた。

「重いのに振り回されない」


「違う。軽くしたんじゃなく、仕事してない重さを消した」

湊が言う。


兵務官が槍を受け取り、自分でも数度振った。

やがて、信じられないものを見る顔で呟く。


「同じ人数でも、前線の保ち方が変わる……」


「槍って数揃える武器だから。一本だけ強くても意味ない。揃ってる方が強い」


ただ、湊はそこで一度だけ槍の付け根を見直した。


「でも、これは試運転です」


兵務官が顔を上げる。


「実戦でどれくらい保つかは、素材と使い方を見ないと分からない。この国の鋼の粘りとか、兵士がどれくらい無理な突き方をするかとか、俺はまだ全部知らないので」


「慎重ですな」


「展示物なら、初日の客入りで壊れ方が変わるんです。武器なら、もっと変わるでしょ」


リゼリアはその言葉を聞き逃さなかった。


「では、試験記録を残します。改修は進めますが、使用報告を必ず戻してください」


兵務官は少し驚き、それから深く頷いた。


カナンが横でニヤリと笑う。


「お前、武器を作るというより、軍を作る気か」


「結果そうなるなら、まあ」


その言葉に、リゼリアの瞳が強く光った。

彼女には見えたのだろう。槍一本の改良が、兵の生存率と国の防衛線へ直結する未来が。


その場で、兵務官が頭を下げた。


「殿下。兵装庫の優先改修、正式に申請します」


「必要予算は?」

リゼリアが即座に返す。


「新規大量発注より安く済みます。既存資材の流用が利くので」


「ならば通します」


やり取りが早い。

王女と官僚が、現場で数字を見ながら即決していく。

それを見て湊は、なるほどこの国は、正しく回ればまだ立ち直れるのかもしれないと思い始めた。


だが、その日の終わり。


兵装庫を出たところで、湊は倉庫の柱に小さく刻まれた青い鷹の印を見つけた。

落書きにしか見えない程度の、細い線。


「どうした」

カナンが問う。


「いや……気のせいかも」


そう答えたものの、心のどこかが引っかかった。


ただの工房印にしては、妙に隠すように刻まれていたからだ。


毎日21時更新予定。ブックマークもぜひよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ