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マッチングアプリでマッチした相手は異世界の第三王女でした。〜召喚された最強クラフトマンは、崖っぷち小国を立て直して無双する〜  作者: 富益 啓


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第129話 飲み込めない国

査察十日目、最終日。


セヴェリンは、最終日の査察として四か所の同時確認を求めていた。


北倉庫。

南河水門。

王都財務局。

北方中継所。


帝国の四班は前日までに、それぞれの現地へ入っていた。


「意地が悪いな」


北方中継所と結んだ通話板の向こうで、カナンが予定表を見て言った。


「褒め言葉として頂戴しましょう」


セヴェリンは穏やかに返した。


同じ時刻に負荷をかければ、誰が本当の責任者か分かる。

湊が走る場所だけが正しく動くなら、その国はまだ一人の職人を抱えただけだ。


リゼリアは担当を変えなかった。


北倉庫は現地の倉庫長。

南河はローデンと水門番。

財務局はユスト。

北方中継所は若い守備隊長。


湊は王城作戦室に残る。


『本当に行かなくていいのか』


北境に残るカナンが通話板越しに尋ねた。


「行ったら、相手の聞きたい答えになる」


自分がいなければ止まる国か。


それを否定する一番の方法は、自分が動かないことだった。


とはいえ、何もしないのとは違う。

四か所の予備要員と補助回線の一覧は、前夜のうちに各所へ配ってある。

任せるための準備だけは、全部やった。

あとは現場が証明する番だった。


正午、通話板の時刻合わせを合図に、四か所の査察が一斉に始まった。


操作するのは各施設の王国側責任者だ。

帝国査察官は試験条件を提示できるが、水量の変動幅と遮断時間には事前に合意した上限があり、現地責任者が危険と判断すれば即時中止できる。


北倉庫では、倉庫長を別室へ移し、副長の指揮で見習いたちに緊急出庫を行わせる。


南河では、帝国査察官が第一水門の流量を短時間だけ半分まで落とす試験を求める。


財務局では、復興基金の支出原票を抜き打ちで照合。


北方中継所では、通話板の主回線を一時遮断する。


通話板へ最初の報告が入った。


『北倉庫、予備責任者へ移行。出庫継続』


次。


『南河、支流側の貯水池で調整。村落配水に影響なし』


『財務局、原票差異なし』


最後の北方中継所だけが遅れた。


数十秒。


作戦室の誰も喋らない。


湊は机の下で、指を一本ずつ折って秒を数えた。

旧烽火線への切替手順は、若い隊長と三回さらった。

三回で足りたか。

それとも三十回やるべきだったか。

任せるというのは、この数十秒を黙って座っていることだった。


やがて補助回線が光る。


『中継所、旧烽火線へ切替完了。通信再開』


すべて動いた。


完璧ではない。

北倉庫の出庫は通常より遅れ、南河では一つの貯水池が下限近くまで下がった。

旧烽火線の通信は、一度に送れる文字数が半分しかない。


それでも止まってはいない。


報告の文面も変わった。

以前なら「問題発生」とだけ届いた場所から、今は何が起き、誰がどう対処したかまで一枚で届く。

数字の裏に、育った人間の顔が見える。


湊は一度も席を立たなかった。


午後、セヴェリンは四か所から通話板で届いた結果を、書記に一枚ずつ書き取らせた。

四枚の記録を机へ重ねる。


外部技術者依存。

指揮継承。

代替経路。


査定表の右端に並んでいた短い日数が、一つずつ消されている。


「ご満足いただけましたか」


リゼリアが問う。


「査察官は、満足を基準に仕事をいたしません」


「では、結果を」


セヴェリンは紙を閉じた。


その時、北境から号笛が鳴ったとの報告が届いた。


帝国軍三千が、三つの隊へ分かれたという。


中央の本隊は動かない。

騎兵は西の尾根へ、工兵隊は東の浅瀬へ走り、三か所を同時に揺さぶった。

どの隊も国境は越えないが、一人の指揮官が順番に判断していては間に合わない。


北方中継所からの報告は、遮断試験を終えたばかりの補助回線で届いた。


王国側の兵は増援を求めなかった。


西の守備隊は結界板を展開し、東の巡回隊は浅瀬を塞ぎ、後方隊は中央の予備位置へ入る。

各隊長が事前に決めた範囲を処理し、カナンは指示を差し挟まなかった。


作戦室で、リゼリアは玉座の間へ続く扉を一度も見なかった。

判断を仰ぐ相手を探さない。

それ自体が、この国の答えだった。


半刻後、帝国の騎兵と工兵隊は境界線を踏まず、中央の本隊へ戻った。

王国側は、どの持ち場も空けていなかった。


セヴェリンはその報告を最後まで聞き、査定表に残っていた「三十日」へ線を引いた。


「三十日ではなくなったんですか」


湊が尋ねる。


「ええ。帝国の保証制度へ全面移行する場合の、適合予測期間です」


公爵は修正の意味を隠さなかった。


「当初は三十日と見積もっておりました」


「今は、どうなりました?」


「現行の尺度では、算定不能です」


勝った、とは言わない。


帝国が諦めたわけでもない。


ただ、ルーメリアは一人を外し、一か所を止めれば崩れる国ではなくなった。


飲み込もうとすれば、喉に引っかかる。


統治機構を外から置き換える計算が崩れたことを、帝国自身の査定表へ書かせたのだった。


だが、セヴェリンは査察終了を告げなかった。


「正式な判定は、明朝お伝えします」


公爵は「算定不能」と記した査定表を、最終報告書の束へ重ねた。


毎日21時更新予定。お気に入り登録ぜひよろしくお願いします。

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