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マッチングアプリでマッチした相手は異世界の第三王女でした。〜召喚された最強クラフトマンは、崖っぷち小国を立て直して無双する〜  作者: 富益 啓


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第119話 沈まない船着場

最初に渡し場跡へ来たのは、村長バルトだった。


荷車には、解体した小型水車の羽根が積まれている。


「これは村の資産ではありません」


バルトは念を押すように言った。


「二年前に廃棄済みです」


「王家が廃材として借ります」


湊が答えると、老人はようやく荷台を開けた。


次に粉挽き職人が工具を持ってきた。

宿場からは空の密閉樽。

水門番は、交換予定だった古い係留鎖を運んできた。


誰も大声で賛成しない。

それでも昼までに、渡し場跡は人で埋まった。


最初の一人になるのは怖い。

だが二人目になら続ける。

三人目が手を貸せば、四人目は道具を持ってくる。


止まる時は全員を縛った連帯が、動き出す時には力に変わっていた。

初日は、集まった資材の寸法と傷みを確かめ、組み順を渡し場跡の地面に描くことに費やした。

急いで川へ出してから、不具合に気づくわけにはいかない。


「手は動かし方を忘れてないな」


カナンが木材を担ぎながら笑う。


三年間、使うことだけを禁じられていた手だ。


二日目の朝、湊は小舟を二艘並べ、間へ格子状の床を渡した。

床下には密閉樽を固定し、荷重が片側へ寄っても傾きすぎないよう左右を分ける。


岸とは杭で固定せず、長い渡し板と二本の案内索だけで繋ぐ。

水位が上がれば、桟橋も一緒に浮かぶ。


最初の荷重試験では、右側が大きく沈んだ。


「樽が足りない?」


バルトが聞く。


「浮力じゃない。人が荷物を置く場所を揃えすぎてる」


湊は床に白い線を引き、積荷位置を左右交互にした。

さらに解体水車の軸を中央へ渡し、二艘の揺れを分散させる。


捨てたはずの水車が、今度は船着場の骨になる。


組み上がったところへ、水利商会のハーゲンが現れた。

後ろには査定人と、契約警備の男たちがいる。


カナンが無言で湊の前へ立った。


剣は抜かない。

ただ、抜けば誰が一番早いかは全員に伝わった。


「無登録設備による出荷は、契約違反です」


ハーゲンが契約書を掲げる。


「設備じゃない。王家の臨時輸送具です」


湊はリゼリアの署名入り書面を見せた。


「土地に固定されていない。村の資産でも、水利組合の商業施設でもない」


ローデンが、もう一通の書面を横へ並べた。


「十二村の用水口で実到達量が基準を下回ったため、王国水利法に基づく流域非常事態を三十日間認定しました。七日ごとに再測定し、基準を回復すれば期限前でも解除します。数字も公開します」


自然渇水を装った認定ではない。

本流にある水が契約と配水設備によって畑へ届かない、現在の機能不全へ期限を切ったものだった。


「詭弁です」


「契約書にそう書いてある」


今まで村を縛った言葉を、そのまま返す。


査定人が契約書を何度もめくった。


仮設施設の使用は最長三十日。

王家による救援備蓄用麦の買い入れには、商会の承認を要しない。

どちらも、王国水利法の標準条項として、四年前の契約からも外せなかった文言だ。


当時は使える金のなかった道を、今は王家が住民のために実際に使っている。


ハーゲンは浮き桟橋の接続部を確かめた。

杭はない。石の基礎もない。

作業が終われば、金具を外して船へ戻せる。


固定資産とは呼べなかった。


「王家による買い入れを装った、契約逃れでしょう」


「代金は王都財務局から直接払う。買った麦は、王家の救援備蓄として国境砦の倉へ回す」


ローデンが財務書類を示した。


代官も、もう目を伏せていない。


「流域非常事態の認定期間に限った、合法的な救済です」


ハーゲンは警備の男たちに命じることができなかった。

桟橋を壊せば、今度は王家の輸送具を商会が破壊したことになる。


夕方、最初の荷車が来た。


王家の救援麦が届いたことで、村が飢えないよう残していた麦の一部を、ようやく売りに回せた。

重さを量り、差し引きなしの受領証を渡す。


百袋持ち込めば、百袋分の代金が出る。


それだけのことで、受領証を受け取った農夫の手が震えていた。


麦袋を載せた平底船が、浮き桟橋へ横付けされる。


その時、上流で降った雨の水が届き、南河の水位が急に上がった。


岸にいた者たちがざわめく。


固定桟橋なら、荷台が水を被る高さだ。


だが新しい船着場は、積荷と一緒にゆっくり持ち上がった。

案内索が張り、渡し板の角度だけが変わる。


沈まない。


「大丈夫だ! 次を運べ!」


湊の声に、止まっていた人々が動き出した。


水車を設計したバルトの息子は、ここにはいない。

それでも父親は、息子の羽根板を一本ずつ床に組み直した。


「帰ってきた時、見せるものができた」


老人の呟きは、水音に半分消えた。


次の荷車。

その次の荷車。


畑へ戻っていた者まで、空袋を抱えて走ってくる。


カナンが係留索を引き、バルトが積荷を数え、粉挽き職人が床板の軋みを確かめる。


誰か一人の奇跡ではない。

動けなかった全員が、自分の手で流れを押し始めていた。


日暮れ前、救援備蓄用の麦を積んだ最初の船が岸を離れた。


帝国印の倉庫を通らず、南河の麦が王都を経て国境砦へ向かう。


ハーゲンは船着場の端で、その光景を黙って見ていた。


「これで終わったと思わないことです」


「終わってません」


湊は答えた。


「だから次は、帳簿を全部開いてもらいます」


沈まない船着場は、借金を消してはいない。


それでも、沈むしかないと思わされていた人々へ、岸とは別の足場を一つ作った。


毎日21時更新予定。お気に入り登録ぜひよろしくお願いします。

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