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マッチングアプリでマッチした相手は異世界の第三王女でした。〜召喚された最強クラフトマンは、崖っぷち小国を立て直して無双する〜  作者: 富益 啓


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第118話 流れを止める契約

湊は宿の床に、契約書を順番に並べた。


借款契約。

水門管理契約。

生産力査定規定。

共同倉庫利用契約。

帝国通商信用院の保証約款。


紙の端を紐で繋ぐ。


水を増やせば、見込み収穫が増える。

見込み収穫が増えれば、借款に付く費用が上がる。

費用を払うため穀物を倉庫へ入れれば、所有権が商会へ移る。

返済率が契約基準を下回り続ければ、最後には水利施設の運営権が債権者へ移る。


一枚ずつなら、どれも合法に見える。

繋げた時だけ、住民が何をしても抜けられない輪になる。


湊は紐の一か所を持ち上げた。

水門管理契約と生産力査定規定の間。


ここを切れば、水を増やしても借金は増えない。

だが王家が一方的にそこを切れば、水利商会は即時返済条項を使う。


倉庫契約を外せば、穀物を正しい価格で売れる。

その前に、登録外出荷として違約金が発生する。


どこか一枚だけを破る者を待つよう、別の契約が口を開けている。


「工式みたいだな」


カナンが床を見下ろした。


「だから読める」


壊れた部品を探すのではない。

流れをどこで切れば、全体が止まるかを見る。


夜半、王都から通話板が鳴った。


『二か所、食い違いがあります』


ユストの声だった。


一つ目は水の引き渡し地点。


水利商会は、本流の第一水門を通した量で保証料を計算している。

だが王国水利法では、供給量は各村の用水口へ到達した時点で測ると定められていた。


村へ届かなかった四割分に、保証料を課すことはできない。


二つ目は現物分担品の扱い。


契約では、麦で納めた維持費も売却後に返済へ充当すると明記されている。

商会の帳簿に載っていないなら、未計上分はすべて過払いとして元金から差し引ける。


「どれくらい戻せる?」


『四年分の出荷控えが揃えば、元金の半分以上。場合によっては七割です』


カナンが拳を握る。


「鎖が切れる」


『まだです』


ユストは冷静だった。


過払いを正式に認めさせるには監査が要る。

水利商会が争えば、決着まで作付けは止まったままになる。


さらに契約には、王家が一方的に管理へ介入した場合、残債全額の即時返済を求める条項があった。


正面から契約を破棄すれば、相手の思う壺だ。


『もう一つ、注意があります』


ユストが続けた。


『水利商会を違法組織として取り潰せば、債権は保証元の帝国通商信用院へ移ります』


国内の商会を倒した瞬間、相手が帝国そのものに変わる。

怒りに任せて斬れば、より大きな敵へ刃を渡す仕掛けだった。


「倒すんじゃない。役割を一つずつ取り戻す」


「なら、監査が終わるまで動ける道を作る」


湊は、初日に小さく印を付けておいた一行へ戻った。

共同倉庫利用契約の、あの眠った例外だ。


対象は、流域水利組合に登録された固定設備と、それを使った商業出荷。


王家が救援備蓄用に直接買い入れる穀物は対象外。

流域非常事態の期間に設ける三十日以内の仮設施設も、生産力査定に含めない。


国に助ける力がなかった四年前にも、王国法が契約の中に残しておいた例外だ。


ただし、例外は技術顧問が勝手に名乗って使えるものではない。

湊は十二村の用水口記録、第一水門の供給量、途中損失の測定結果を王都へ送った。


二日後の朝、リゼリアの署名入り命令書が早馬で二通届いた。


一通目は、南河十二村の配水機能不全を理由とする流域非常事態認定。

期間は三十日。七日ごとに実到達量を再測定し、基準を回復すれば期限前でも解除する。認定の根拠となった数字も同時に公開する。


二通目が、王家による救援備蓄用麦の臨時買い入れと、四年分の水利・倉庫会計を対象とする特別監査の開始だった。


「王家が救援備蓄用の麦を直接買う。共同倉庫へ入る前に」


「どこから船へ積む?」


既存の船着場は、すべて水利組合へ登録されている。

新しく造れば固定資産と判定され、査定額が上がる。


湊は南河の古い地図を広げた。


中央船着場の下流に、昔の渡し場跡がある。

岸は浅く、固定桟橋を打つには向かない。


だが、固定しなければいい。


「船着場を浮かべる」


使われていない小舟と、空の密閉樽。

解体された水車の木材。

王国軍の仮設橋で使った連結金具。


水位に合わせて上下する浮き桟橋なら、土地に固定された資産ではない。

王家の臨時買い入れ所として、流域非常事態の認定期間中だけ使える。


「また一晩で作る気か?」


「今回は二日ほしい」


「成長したな」


カナンは呆れながら笑った。


「二日あれば、睡眠も取る」


「本当だな?」


「交代で」


「私の睡眠を数に入れるな」


それでもカナンは、必要な樽と小舟の数を書き始めた。

無茶を止められないなら、無茶が崩れないよう隣で支える。


彼女のやり方は、鉱山から変わっていなかった。


紙で止められた流れを、別の紙と現場の仕事で迂回させる。


命令書の余白には、リゼリアの手書きがあった。


『これは救済であって、契約逃れではありません。正面から戻ってきてください』


先回りして釘を刺されている。


湊は少し笑い、その下へ短く返事を書いた。


『努力ではなく、結果で』


湊は村々へ、浮き桟橋の資材提供と作業参加を呼びかけた。


あとは、動けば損をすると覚えた人々が、もう一度手を動かしてくれるかどうかだった。


毎日21時更新予定。お気に入り登録ぜひよろしくお願いします。

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