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マッチングアプリでマッチした相手は異世界の第三王女でした。〜召喚された最強クラフトマンは、崖っぷち小国を立て直して無双する〜  作者: 富益 啓


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第114話 水門は開いている

南河本流の第一水門は、朝から開いていた。


巨大な扉は三分の一まで持ち上がり、白い水が支流へ流れ込んでいる。

流量計の針も正常範囲を示していた。


「これだけ見れば、問題なしだな」


カナンが水しぶきを避けながら言う。


「これだけ見ればね」


湊は水門脇の制御盤を開いた。


歯車に欠けはない。引き上げ鎖にも摩耗は少ない。

四年前の借款で、確かにきちんと修繕されている。


ただし開度調整器の奥に、見慣れない真鍮板が一枚組み込まれていた。


板には南河水利商会の印と、細かな数字が刻まれている。


《工式解析》を通す。


水門は水位で開閉するだけではなかった。

各村の作付申請面積と、借款契約で認められた流量を読み取り、それ以上は開かないよう制限されている。


制限板の工式は精密だった。

勝手に外せば、登録盤へ警告が送られる。

無理に開度を変えると、その時刻と超過量まで記録される。


修理のための部品ではない。

違反を証明するための監視具でもあった。


「壊れてる?」


「逆。正確に動きすぎてる」


今年、村々が申請した作付面積は少ない。

だから水門は少ない水しか流さない。


水が少ないから、畑を増やせない。

畑を増やす申請をすれば、見込み収穫量が上がり、借款費用も増える。


輪になっている。


水門番の老人が、制御盤を閉じようとした。


「触らんでください」


「この制限板を外せば、支流へ流す水を増やせます」


「増やしてどうする」


老人の声は鋭かった。


「契約外の水を使えば、翌月に流量超過金が来る。水を少し余分に使うたび、村の借金が増えるんだ」


湊の手が止まる。


第一水門だけなら、技術的な操作は簡単だ。

真鍮板を外し、歯車の可動域を戻せばいい。

一刻もあれば、本流から各支流へ送り込む水量は増やせる。


だが、それをすれば村を助けるどころか、違約金を背負わせる。


「この板を入れたのは誰です?」


「水利商会の技師だ。借款の条件だった」


修繕費を借りた水門に、貸し手が制限具を取り付けた。

水門そのものは王国の財産なのに、運用だけが契約で縛られている。


湊は本流側と支流側の水量を測った。


制御盤の表示は正しい。

しかし数字の基準が違う。


本流から第一水門を通った全量が「供給量」になる。

途中の貯水池に留め置かれる分も、水路から失われる分も、契約上は村へ引き渡した後の損失として扱われている。

実際に畑へ届くのは、表示の六割ほどだった。


「保証料を取ってるのに、届くところまでは保証してない」


「書面では、第一水門を通した時点で引き渡し完了だ」


水門番が苦々しく答えた。


湊は測定用の青い染料を、本流側に規定量流した。


青い筋が水門を抜ける。

最初の分岐で薄まり、貯水池で大きく回り、村の用水口へ届く頃にはほとんど見えなくなった。


流れ着くまでに半日かかり、その間に水は複数の管理区画を通る。

貯水池では管理者ごとの取り分が留め置かれ、水路では浸透や蒸発で減る。それでも、保証料は第一水門を通った全量に掛かっていた。

村の用水口で測ると、第一水門の表示量の六割ほどしか残っていなかった。


その日の午後、湊は支流を歩いた。


途中の貯水池には、十分な水が溜まっている。

だが池から先へ出す小水門にも、同じ真鍮板があった。


一枚ごとに印が違う。

南河水利商会。共同倉庫。帝国系運送組合。


水は村へ近づくたび、別の契約を通り、少しずつ細くなる。


最後の小水門では、農婦が器を置いて水量を測っていた。


「毎日?」


「超えれば後から請求されますから」


器の内側には、許容量を示す傷がある。

水が傷に届くと、農婦はまだ流れている途中で小水門を閉じた。


畑はすぐ先にある。

あと少し流せば、乾いた一列まで水が届く。


それでも彼女は閉じる。


足りないから止まっているのではない。

届かせてはいけない量だけが、目の前を流れていた。


「全部壊すか?」


カナンが半分本気で剣の柄に手を置く。


「それで解決するなら、俺が先に外してる」


湊は真鍮板を見つめた。


開いている水門を、さらに開くだけでは駄目だ。


水を閉じているのは扉ではなく、扉に貼りついた紙の方だった。


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