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マッチングアプリでマッチした相手は異世界の第三王女でした。〜召喚された最強クラフトマンは、崖っぷち小国を立て直して無双する〜  作者: 富益 啓


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第106話 北西へ、鉱山区

北西鉱山区へ発つ朝、リゼリアは王城正門まで見送りに来た。


「帝国対応は、わたくしが」


外套の襟を整えながら、湊へ地図筒を差し出す。


「鉱山区はこちらで集められた記録が少ない。現地で判断してください」


「任されました」


「無茶はしないように」


「努力します」


リゼリアの目が細くなる。


「そこは約束してください」


横で待っていたカナンが吹き出した。


「無理だろ。こいつ、自分が無茶してる時ほど楽しそうな顔するぞ」


「護衛役が止めてください」


「止められて言うことを聞く奴なら、とっくに止めてる」


二人の視線が同時に湊へ刺さる。


「俺の見送りですよね?」


「釘を刺す場です」


王都に残るリゼリアには、セヴェリンが持ち込んだ書箱が待っている。

一緒に来てほしい気持ちはあったが、今の王都で帝国と正面から向き合えるのは彼女だ。


湊は受け取った地図筒を荷台に固定し、馬車に乗った。


門を出てしばらくすると、隣で手綱を握るカナンが小さく伸びをした。


「久しぶりに二人旅だな」


妙に機嫌がいい。


「仕事だけど」


「いつものことだろ」


王女の執務室で契約書の話を聞いた夜から、少し距離を置かれるかと思っていた。

だがカナンは、いつも通りだ。

いつも通り前を見て、いつもより少しだけ近くにいる。


「何だ」


「いや」


「言っとくけど、旅なら負けないからな」


誰に、とは聞かなかった。


北西へ進むにつれ、道は緩やかに高くなった。

街道沿いの畑が減り、灰色の岩肌が増える。

鉱石を運ぶための道だけあって、橋も路面も王国の地方道としてはよく整備されている。

街道沿いの集落では、古い水車小屋の軸を直すため、半刻だけ足を止めた。


最初の宿場では、厩の半分が空いていた。

鉱山区へ荷を取りに行く商人が減り、宿の主人は一階の客室しか開けていない。


「道は悪くないんですがね」


主人は湯を運びながら言った。


「昔は夜中まで車輪の音がして、うるさいと文句を言ったもんです。静かになったら、眠れなくなりました」


翌朝、湊は宿場の掲示板を見た。

荷運び人募集の札は古いまま。代わりに、王都や南部で働く者を募る紙が何枚も重ねてある。


鉱山の採掘量が落ちれば、鉱夫だけでは済まない。

運送、宿、鍛冶、食堂。一本の鉱脈に連なっていた仕事が、上流から静かに痩せていく。


実際、すれ違う荷車は少ない。


かつては魔鉱を満載して王都へ向かったはずの大型車が、今は荷台を半分も埋めずに坂を下っていく。

車輪と車軸は滑らかに回る。

御者の顔だけが、ひどく疲れていた。


一台を止めて車輪を見せてもらった。

この車軸なら、今の倍の荷を支えられる。荷台の埃も、途中で鉱石を降ろしていないことを示していた。

積み込みの時点から半分だったのだ。


「鉱山で何かありましたか」


御者に尋ねると、男は手綱を握り直した。


「何も」


返事が早すぎた。


「何もないから、困ってるんです」


それ以上は話さず、荷車は王都へ向かって坂を下りていった。


夕方、鉱山区の中心町へ着いた。


石造りの屋根は揃っている。

通りに穴もない。

水路には濁りのない水が流れ、倉庫の扉も真っ直ぐ閉じている。


それなのに、人の声がしない。


市場には品が並んでいるが、客は値段を尋ねずに通り過ぎる。

酒場の看板は出ているのに、笑い声がない。

辺境伯領が壊れた場所から立ち上がろうとしていたのとは逆だった。


空き店舗には板が打たれていない。

明日にも店主が戻るような顔で、掃除された窓と色褪せた値札だけが残っている。

店主たちは状況がすぐ元に戻ると信じ、閉めた店の窓を掃除しながら三年を過ごしていた。


建物も道具も形を保ったまま、活気だけが死んでいる。


代官所で待っていたのは、白髪の老代官だった。

カンラッドと名乗り、歓迎の言葉もそこそこに湊の地図筒へ目をやる。

口数は少ないが、落ちくぼんだ目だけが鋭い。


「王都の技術顧問殿が来た目的は承知している」


「なら話が早い。採掘量が落ちている原因を――」


「お帰りいただきたい」


カナンの眉が上がる。


カンラッドは湊から目を逸らさなかった。


「坑道も搬送路も使える。選鉱機も動いている。事故も増えておらん」


その声には敵意より、何かを守ろうとする固さがあった。


「ここには、直す場所はない」


湊は窓の外を見た。

整った通りを、ほとんど空の荷車が音もなく過ぎていく。


見えるところが壊れていないなら、壊れているのはもっと奥だ。


「……それ、一番厄介なやつですね」

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