表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マッチングアプリでマッチした相手は異世界の第三王女でした。〜召喚された最強クラフトマンは、崖っぷち小国を立て直して無双する〜  作者: 富益 啓


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

103/123

第103話 帝国特使、再来

グランゼル帝国の新しい特使は、護衛より先に本を連れてきた。


王都正門をくぐった馬車は三台。

一台目に本人、二台目に随行員、三台目には革張りの書箱が隙間なく積まれている。


軍旗も威圧的な兵列もない。

それなのに、受け入れに立った役人たちは前回以上に緊張していた。


「セヴェリン・ヴァイスハイト」


カナンが城壁上から馬車を見下ろし、低く言う。


「帝国公爵。領地より書斎にいる方が長いって噂の男だ。国境を取る時、剣より先に百年前の証文を持ち出す」


「嫌な種類の強さだな」


湊が答える。


「お前と少し似てる」


「もっと嫌になった」


馬車から降りた男は四十代半ばほどに見えた。

銀髪を一筋の乱れもなく後ろへ撫でつけ、細身の体に濃紺の礼装を纏っている。

学者めいた淡い微笑は、石畳の段差にさえ崩れなかった。


先に来たレオンハルト・ヴァイスが王国の立ち直りを測る目だったなら、この男は、測った数字の使い道を決める側だ。

レオンハルトは前回の調査報告を携えて本国へ戻り、その報告を受けた帝国は、査定だけでなく条約交渉まで決められる公爵を送り込んだ。


荷下ろしされた書箱には、通商史、国境協定、旧王家同士の婚姻記録と札が付いていた。

王城の文官が一箱を二人がかりで運ぶ横を、帝国の書記は手ぶらで歩く。


彼らの武器は、どの頁をどの瞬間に開けば相手が困るかという記憶だった。


「あの本、全部読まされると思うか?」


「読まないと、読んでないところで殴られる」


湊の答えに、カナンは心底嫌そうな顔をした。


会談は到着から一刻後に始まった。


リゼリア、外務官、財務官、湊。

帝国側はセヴェリンと二人の書記だけ。


挨拶を終えると、セヴェリンは用意された茶へ口をつける前に言った。


「ベルノルト殿は、残念なことでした」


室内の空気が張る。


王城はまだ、ベルノルトの関与を国外へ正式には知らせていない。

公開裁定で明らかになったのは、第二王子と青鷹の関係までだ。


「お知り合いでしたか」


リゼリアの声は平静だった。


「書簡を二、三度。優秀な実務家でした」


セヴェリンはそこで初めて茶を一口飲んだ。


「優秀な者ほど、国運に殉じる時機を誤る。惜しいことです」


知らないふりもしない。

かといって帝国との繋がりを認めてもいない。

王城の中と帝国が、ずっと地続きだったとわざわざ見せつけている。


「本日の議題を伺いましょう」


リゼリアが話を切った。


セヴェリンの書記が、三通の書面を卓上へ置く。


北方通商路の再査定。

帝国商人へ課す検査手続きの是正。

国境周辺における軍需品規格の確認。


表面には、通商上の調整とだけ書かれている。

だが要求を一つずつ呑めば、帝国の商人と査察官が王国の道、倉庫、工房へ入れるようになる。


しかも書面には、拒否した時の罰が書かれていない。

関税を上げるとも、商人を引き揚げるとも言わない。

相手に最悪の事態を想像させ、自分から譲歩を差し出させる余白だった。


「先の混乱で、ルーメリア国内の流通に少なからぬ不安が生じたと聞いております」


「混乱は収束しました」


「ええ。驚くほど早く」


セヴェリンの視線が湊へ移る。


「異邦の技術顧問が、国の基盤まで組み直したとか」


値踏みされている。

湊一人への依存度と、彼を外した時に崩れる場所を見ている。


湊は卓上の書面へ目を落とした。

紙質は帝国公文書用。封蝋も本物。だが三通とも、日付に対して用意がよすぎる。

どちらへ転んでも出せる要求を、公開裁定より前から揃えていたのだ。


「再査定の根拠資料はありますか」


湊が尋ねる。


帝国側の書記がわずかに眉を動かした。

セヴェリンだけが楽しそうに笑う。


「もちろん持参しております。三台目の馬車に」


本を連れてきた理由が分かった。

あの書箱こそ、帝国の武器庫だった。


「その資料のうち、現行条約の締結以前に作成されたものは分けてください」


湊は言った。


「古い道幅や、今は存在しない倉庫を根拠に混ぜられると困ります」


セヴェリンの書記が初めて湊を正面から見た。

職人なら紙の上では黙ると思っていたらしい。


「物は直せば寸法が変わる。古い図面ほど、現物と照合しないと使えません」


「なるほど。あなたは文書も図面として読む」


「少なくとも、飾りとしては読みません」


「拝見します」


リゼリアが即答する。


「すべて?」


「すべてです。通商路一本の再査定に必要だと公爵閣下が判断された資料でしょう」


ほんの一瞬、セヴェリンの微笑が深くなった。


「結構。では、ゆっくり始めましょう」


会談は結論を出さないまま終わった。

帝国側も、最初からそのつもりだった。


廊下へ出て扉が閉まると、外務官がようやく息を吐く。


「あれが、通商交渉ですか」


「いいえ」


リゼリアは閉じた扉を見つめたまま答えた。


「あれが本命でしょう」


王都を軍で折れないと知った帝国は、紙と数字で国の継ぎ目を探しに来たのだ。


毎日21時更新予定。お気に入り登録ぜひよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ