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断罪された悪役令嬢ですが、“嘘を一つだけ混ぜたら”全部壊れました ~正しさは、簡単に裏返る~  作者: 空乃エリシア


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第八話 最初の標的

 「――母ですわ」


 そう決めた瞬間から、やることは一つしかない。


 仕掛ける。


 ただし、正面からではない。


 正面からぶつかって勝てる相手なら、わたくしは断罪などされていない。


 だから。


 相手に“動かせる”。


 それが最短。


「動かすためには、餌が必要です」


 翌朝。


 わたくしは応接間のソファに腰掛けながら言った。


 向かいには、アシュレイ・クロード。


 昨日と変わらない顔で、紅茶を口にしている。


「餌、ですか」

「ええ」


 カップを持ち上げる。


 香りはいい。


 けれど味はほとんどわからない。


 意識が別のところにあるから。


「人は“守るもの”に対して最も動きます」

「一般論としては正しい」

「そして、最も隙を見せる」


 彼は軽く頷いた。


「では、彼女が守りたいものは?」

「簡単ですわ」


 わたくしはカップを置いた。


「立場です」


 母は常に“正しい側”にいる。


 家のため。

 王宮のため。

 秩序のため。


 そのすべては。


 自分の立場を守るため。


「つまり、それを揺らせばいい」


「どうやって?」

「簡単ですわ」


 わたくしは微笑んだ。


「“疑い”を作るのです」


 確定ではない。


 証明でもない。


 ただの疑い。


 それで十分。


「疑いは、最も扱いにくい情報ですもの」


 彼は少しだけ楽しそうに笑った。


「具体的には?」

「今朝、王宮へ一通の書簡を出しました」


 彼の手が、わずかに止まる。


 初めての反応。


 それでいい。


「内容は?」

「簡単なものですわ」


 わたくしは指先で机を軽く叩いた。


「“断罪に関する内部調査の必要性”について」


 彼は数秒黙った。


 そして。


「……それは大胆だ」

「そうでもありませんわ」


 わたくしは肩をすくめた。


「正式な告発ではありませんもの」

「ただの提案」

「ええ」


 それが重要。


 告発は敵を作る。


 提案は、空気を作る。


「誰名義で?」

「匿名ですわ」


 当然だ。


 今のわたくしに、表で動く価値はない。


「ですが」


 わたくしは少しだけ声を落とした。


「“噂”は別です」


 彼の目が細くなる。


 理解している顔。


「すでに?」

「ええ」


 昨夜のうちに動いている。


 使用人。

 侍女。

 下働き。


 情報は、上からではなく下から回る。


「“断罪の証拠が不自然だった”という話が、すでに出回っています」


 完全な嘘ではない。


 むしろ、真実に近い。


 だから広がる。


「そこに、王宮からの調査の気配が乗る」


 わたくしは言う。


「そうすればどうなるかしら」


 彼は即答した。


「彼女は動く」

「ええ」


 隠そうとする。


 消そうとする。


 あるいは。


 別の“証拠”を用意する。


「どちらにしても」


 わたくしは笑った。


「必ず動く」


 そして。


 動いた瞬間が。


 隙になる。


「……いい手だ」


 彼は素直にそう言った。


 珍しい。


「褒め言葉として受け取ってよろしいかしら」

「ええ。これは純粋に」


 彼はカップを置いた。


「問題は、その後です」


「当然ですわね」


 仕掛けは入口。


 重要なのは、そこから先。


「動いた証拠をどう押さえるか」


「それも簡単ですわ」


 わたくしは立ち上がった。


「すでに準備していますもの」


 彼の視線が追ってくる。


 少しだけ、期待を含んで。


「何を?」

「それは、見てのお楽しみですわ」


 言って、扉へ向かう。


 足を止めない。


「来るのでしょう?」

「もちろん」


 彼は立ち上がった。


 その気配が、背後に重なる。


 廊下へ出る。


 朝の光が差し込んでいる。


 夜とは違う空気。


 けれど。


 やることは同じ。


 崩す。


 それだけ。


「場所は?」

「母の私室です」


 彼がわずかに眉を動かした。


「いきなり踏み込みますか」

「ええ」


 わたくしは振り返らずに言う。


「動いたかどうか、確かめるには十分でしょう?」


 歩く。


 距離が縮まる。


 目的地が近づく。


 心臓の音は、静かだ。


 不思議なほどに。


 怖くはない。


 むしろ。


 ようやく、始まるという感覚の方が強い。


 扉の前で止まる。


 ノックはしない。


 そのまま、開ける。


「失礼いたします」


 中に入る。


 そして。


 ――止まる。


 部屋の中には、すでに人がいた。


 母。


 そして。


 もう一人。


 見覚えのある姿。


 淡い金の髪。


 静かにこちらを見ている瞳。


 ミレイユ。


「……あら」


 母が微笑む。


 いつも通りの、完璧な笑顔で。


「ちょうど良かったわ、レティシア」


 その一言で。


 理解した。


 こちらだけではない。


 向こうも、動いている。


 そして。


 思ったより、早い。


 わたくしはゆっくりと息を吸った。


 面白くなってきましたわね。


 本当に。

ついに盤面が動きました。


そしてここで、もう一人の重要人物が登場です。

ここから一気に関係と対立が絡み始めます。


続きが気になったら、ブックマークや評価で残してもらえると嬉しいです。次は正面衝突です。

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