第二十八話 あなたは誰
――次は、あなたです。
そう言った瞬間。
場の温度が、完全に変わった。
誰も動かない。
誰も声を出さない。
ただ。
見ている。
わたくしたちを。
そして。
リュシアンを。
「……そうか」
彼は、ゆっくりと息を吐いた。
わずかに。
だが。
確実に。
空気を変える。
「こちらに来るか」
短く。
それだけ。
だが。
十分すぎる。
逃げない。
引かない。
それが、彼。
「ええ」
わたくしは一歩前へ出る。
距離が詰まる。
真正面。
初めて。
完全な対面。
アシュレイが、わずかに横へずれる。
介入しない。
だが。
いつでも動ける位置。
いい配置ですわね。
「聞こう」
リュシアンが言う。
低く。
静かに。
「何をもって、こちらを崩す」
問い。
単純。
だが。
深い。
「証拠は、出揃っておりますわ」
わたくしは答える。
微笑みながら。
「証言操作」
「資金の流れ」
「監査部との連携」
一つずつ。
並べる。
だが。
それだけでは足りない。
「……それで?」
彼は動じない。
当然。
「それは“疑い”に過ぎない」
その通り。
だから。
ここから。
「ええ」
わたくしは頷く。
「ですので」
ほんの少しだけ、声を落とす。
「あなた自身に、語っていただきますわ」
沈黙。
一瞬。
だが。
濃い。
リュシアンの目が、わずかに細くなる。
「……誘導か」
「いいえ」
わたくしは微笑む。
「確認ですわ」
その言葉で。
彼の視線が、ほんの少しだけ変わる。
理解した。
こちらが何を狙っているか。
「……面白い」
小さく。
だが。
確かに。
笑う。
「では」
一歩、前へ。
距離がさらに縮まる。
「こちらも聞こう」
その視線が。
真っ直ぐに。
わたくしを捉える。
「お前は、なぜそこまで崩せる」
問い。
だが。
それは。
単なる質問ではない。
――探り。
わたくしは、一瞬だけ息を止めた。
ほんの一瞬。
だが。
確実に。
その隙を。
彼は見逃さない。
「……なるほど」
小さく。
呟く。
「経験か」
言葉が落ちる。
静かに。
だが。
重く。
「一度、壊されたことがあるな」
沈黙。
完全に。
止まる。
空気が。
音が。
すべて。
わたくしの中で。
何かが、揺れる。
ほんの一瞬。
ほんの僅かに。
だが。
確実に。
「……違いますわ」
すぐに答える。
遅れない。
崩さない。
「そうか?」
彼は、少しだけ首を傾げる。
「では、なぜだ」
詰める。
逃げ場はない。
だが。
逃げる必要もない。
わたくしは、ゆっくりと息を吐いた。
「簡単ですわ」
微笑む。
いつも通り。
崩さずに。
「壊れやすいものを、知っているだけです」
その言葉で。
空気が、変わる。
少しだけ。
だが。
確実に。
リュシアンの目が、細くなる。
理解した。
完全に。
「……そうか」
短く。
それだけ。
だが。
十分。
「なら」
彼は言う。
「こちらも、同じだ」
その瞬間。
わたくしの背筋に、冷たいものが走る。
「壊れやすいものは、わかっている」
視線が動く。
わたくしから。
ゆっくりと。
横へ。
――ミレイユへ。
止まる。
完全に。
その一瞬で。
意味が伝わる。
「……っ」
ミレイユの息が、わずかに乱れる。
だが。
逃げない。
いい。
だが。
危うい。
「やめておきなさい」
わたくしは言う。
静かに。
だが。
はっきりと。
「それは、効率が悪いですわ」
リュシアンが、わずかに笑う。
「効率?」
「ええ」
一歩、前へ。
距離を戻す。
彼の視線を、再び引き戻す。
「あなたが壊すべきは」
間。
「わたくしですもの」
沈黙。
ほんの一瞬。
だが。
濃い。
その言葉で。
空気が、完全に固定される。
リュシアンが、ゆっくりと頷いた。
「……なるほど」
評価。
はっきりと。
「そういうことか」
そして。
「なら」
その目が、変わる。
完全に。
「次は、そうしよう」
宣言。
静かに。
だが。
確実に。
わたくしは、微笑みを崩さなかった。
――ええ。
それでいい。
その方が。
楽ですもの。
ついに、核心に触れ始めました。
レティシアの“過去”が少しだけ見え、
そしてリュシアンは完全に標的を定めました。
ここからは真正面の潰し合いです。
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次は決定打に入ります。




