第二十六話 崩れた証言
――一つ、潰します。
そう言った瞬間。
場の空気が、確かに変わった。
わずかに。
だが。
はっきりと。
主導権が、動いた。
「……何をだ」
リュシアンの声は変わらない。
だが。
ほんの僅かに。
間がある。
その“遅れ”が。
答え。
「簡単ですわ」
わたくしは微笑む。
「この断罪を支えている“柱”の一つを」
一歩、横へ。
視線を動かす。
そして。
止める。
――一人の男に。
「あなたですわ」
指名。
逃げ場はない。
その男が、わずかに肩を揺らした。
だが。
すぐに取り繕う。
「……何の話でしょうか」
落ち着いた声。
だが。
わずかに、硬い。
いい。
崩れかけている。
「監査部補佐、フランツ・エルド」
名前を出す。
はっきりと。
「あなたが今回の証言整理を担当していましたわね」
「ええ」
即答。
迷いなく。
「それが何か」
「ええ」
わたくしは頷く。
「その“整理”の仕方が問題なのです」
沈黙。
周囲の視線が集まる。
リュシアンは動かない。
止めない。
――観ている。
「証言は、順序で印象が変わる」
わたくしは言う。
静かに。
だが。
全員に聞こえるように。
「ですので」
一歩。
さらに踏み込む。
「どの証言を、どの順番で出すかは――」
間。
「非常に重要ですわ」
フランツの目が、わずかに揺れる。
理解している。
何を言われるか。
「あなたは」
わたくしは続ける。
「“都合の良い順序”で並べましたわね」
「……当然です」
少し強く。
反論。
「事実関係が明確になるように整理しただけです」
「ええ」
わたくしは微笑む。
「その通りですわ」
肯定。
だが。
それで終わらない。
「では、こちらも確認させていただきます」
懐から一枚の紙を取り出す。
音が響く。
静かに。
だが。
重く。
「これは何か、わかりますか」
差し出す。
フランツへ。
彼は一瞬、躊躇った。
だが。
受け取る。
視線を落とす。
そして。
――止まる。
「……それは」
声が、わずかに揺れる。
いい。
確実に。
「あなたの“下書き”ですわ」
わたくしは言う。
はっきりと。
「正式提出前の、証言整理案」
沈黙。
完全に。
場が凍る。
「……どうして、それを」
声が低くなる。
焦り。
隠しきれていない。
「簡単ですわ」
わたくしは肩をすくめる。
「あなたが捨てたからです」
間。
「“不要になった順序”を」
その一言で。
意味が確定する。
ざわめきが広がる。
小さく。
だが。
確実に。
「そこには」
わたくしは続ける。
「現在の順序とは異なる並びが書かれていました」
フランツの顔色が変わる。
完全に。
「つまり」
一歩、前へ。
距離を詰める。
「あなたは“意図的に順序を変えた”」
断言。
逃げ道を塞ぐ。
「それは――」
間。
「“操作”ですわね」
沈黙。
長い。
だが。
もう、終わっている。
「……違う」
フランツが言う。
だが。
弱い。
「より明確になるように調整しただけだ」
「ええ」
わたくしは頷く。
「ですので」
静かに。
確実に。
「あなたの“最初の案”で並べてみましょう」
その瞬間。
場の空気が、変わる。
完全に。
リュシアンの目が、初めて大きく動く。
止めたい。
だが。
止められない。
理由がない。
正当な確認だから。
「……やれ」
短く。
だが。
低い。
わたくしは、紙を広げた。
そして。
順序通りに読み上げる。
証言を。
一つずつ。
ゆっくりと。
確実に。
――すると。
流れが、変わる。
完全に。
印象が、逆転する。
レティシアが“疑われる側”から。
“巻き込まれた側”へ。
自然に。
無理なく。
ただ。
順序を戻しただけで。
「……」
沈黙。
誰も、何も言えない。
理解している。
今、何が起きたか。
「これが」
わたくしは言う。
静かに。
「“操作されていない断罪”ですわ」
フランツが、崩れる。
完全に。
膝をつくほどではない。
だが。
立っていられない。
その目が。
すべてを語っている。
「……っ」
声にならない。
それでいい。
もう終わりだから。
わたくしは、ゆっくりと視線を上げた。
そして。
リュシアンを見る。
「一つ目ですわ」
微笑む。
変わらず。
「次にいきましょうか」
その一言で。
勝負は。
完全に。
次の段階へ進んだ。
まず一人、崩れました。
小さな勝ちですが、確実に盤面は動いています。
ここからは一気に流れを取りにいきます。
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次は“本丸”に入ります。




