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断罪された悪役令嬢ですが、“嘘を一つだけ混ぜたら”全部壊れました ~正しさは、簡単に裏返る~  作者: 空乃エリシア


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第二十話 正しさの代償

 ――戻ってきます。


 そう言った自分の声が、まだ耳に残っている。


 軽くはなかった。


 でも。


 重すぎるほどでもなかった。


 ただ。


 決めた、という感覚だけが残っている。


 歩く。


 王宮の廊下を。


 一歩ずつ。


 足音が、やけに響く。


 誰も見ていないはずなのに。


 見られている気がする。


 逃げ場はない。


 そんな感覚。


「……こちらです」


 騎士が扉の前で止まる。


 さきほど見た扉。


 重い。


 閉じているだけで、圧がある。


「失礼いたします」


 開けられる。


 逃げる時間はない。


 中へ。


 入る。


 そして。


「来たか」


 あの声。


 低くて。


 静かで。


 感情がない。


 リュシアン・ヴェルト。


 机に座っている。


 さっきと同じ位置。


 同じ姿勢。


 まるで。


 ずっと動いていないみたいに。


「……ミレイユです」


 声が少しだけ震える。


 抑える。


 これくらいは。


 できる。


「知っている」


 即答。


 こちらを見る。


 目が合う。


 ――冷たい。


 違う。


 冷たい、では足りない。


 見ていない。


 わたしを。


 人として。


「座れ」


 短く言われる。


 指示。


 命令。


 考える余地はない。


 座る。


 背筋を伸ばす。


 姿勢だけでも、崩さない。


「では、確認だ」


 書類を一枚、指で押さえる。


「お前の証言」


 間。


「変わる可能性はあるか」


 その言葉で。


 心臓が、一度だけ大きく鳴った。


 来た。


 ここ。


 ここで。


 決まる。


「……見たことしか、話しません」


 言う。


 約束したから。


 自分で。


 選んだから。


 それでいいはず。


 なのに。


「そうか」


 彼は頷く。


 否定しない。


 責めない。


 ただ。


「では、確認する」


 次の言葉が落ちる。


「お前は、“何を見た”」


 ――止まる。


 言葉が出ない。


 見たこと。


 それは、ある。


 確かに。


 でも。


 それが。


 本当に。


 “そのまま”でいいのか。


 頭の中で、言葉がぐるぐる回る。


 レティシア様の言葉が浮かぶ。


 ――“見たこと”を、少しだけ変えましょう。


 嘘。


 それは。


 間違い。


 でも。


「……答えられないか?」


 リュシアンの声が落ちる。


 変わらない。


 焦らせるでもなく。


 助けるでもなく。


 ただ。


 待つ。


 それが。


 一番怖い。


「……見ました」


 口が動く。


 勝手に。


 言葉が出る。


「レティシア様が……」


 そこで止まる。


 その先が出ない。


 本当に?


 見た?


 それとも。


 そう思っただけ?


 どっち。


 どっちが。


 正しい?


「続けろ」


 短い。


 圧。


 強い。


 逃げられない。


 でも。


 ――思い出す。


 あの時。


 確かに。


 近くにいた。


 でも。


 触れたのは。


 見ていない。


「……わたしは」


 言い直す。


 ゆっくり。


 慎重に。


「近くにいるのを見ました」


 それだけ。


 それ以上は。


 言えない。


 言ってはいけない。


 たぶん。


 それが。


 今のわたしの“正しさ”。


 沈黙。


 長い。


 リュシアンが、わたしを見ている。


 さっきと同じ目。


 でも。


 少しだけ。


 違う。


「……そうか」


 短く。


 それだけ。


 書類に何かを書き込む。


 音が響く。


 紙の上を走るペンの音。


「では、もう一つ」


 顔を上げる。


 目が合う。


「お前は」


 間。


「レティシア・ヴァルモンドを、どう思う」


 ――止まる。


 また。


 別の意味で。


 これは。


 証言じゃない。


 感情。


 評価。


 そして。


 選択。


 わたしは。


 あの人を。


 どう思っている?


 怖い。


 でも。


 目が離せない。


 正しくない。


 でも。


 間違っているとも言い切れない。


「……わたしは」


 言葉が震える。


 でも。


 止めない。


「まだ、わかりません」


 それが本音。


 正直な答え。


 逃げていない。


 でも。


 決めてもいない。


 沈黙。


 そして。


「……いい」


 リュシアンが言う。


 ほんの少しだけ。


 口角が上がる。


「正直だ」


 その一言。


 評価。


 それとも。


 ただの記録。


 わからない。


「では」


 彼は書類を閉じる。


「今日はここまでだ」


 終わり。


 それだけ。


 拍子抜けするほど、あっさりと。


「……以上ですか」

「ええ」


 彼は頷く。


「今はな」


 その“今は”が。


 重い。


 これで終わりじゃない。


 むしろ。


 ここから。


 始まる。


 わたしは立ち上がる。


 足が少しだけ重い。


 でも。


 止まらない。


 扉へ向かう。


 手をかける。


 そのとき。


「ミレイユ」


 呼ばれる。


 振り向く。


「お前は」


 彼が言う。


 静かに。


「どちらにもなれる」


 間。


「だからこそ、価値がある」


 その言葉で。


 理解する。


 わたしは。


 選ばれている。


 駒として。


 そして。


 壊れる可能性として。


 扉を開ける。


 外に出る。


 空気が軽い。


 はずなのに。


 息が、少し苦しい。


 ――戻る。


 そう言った。


 だから。


 戻る。


 でも。


 何を持って?


 正しさ?


 それとも。


 嘘?


 答えは。


 まだ。


 出ていない。

ミレイユ視点に入りました。


「正しさ」と「選択」がぶつかり始めています。

ここから彼女がどう変わるかが、この作品の一つの核になります。


続きが気になったら、ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。

次は再合流、そして関係が変わります。

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