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断罪された悪役令嬢ですが、“嘘を一つだけ混ぜたら”全部壊れました ~正しさは、簡単に裏返る~  作者: 空乃エリシア


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第十七話 設計者との距離

 ――リュシアン・ヴェルト。


 その名前が、頭の中でまだ静かに響いている。


 設計者。


 断罪を“作る側”。


 つまり。


 壊すなら、一番厄介な相手。


「では、気をつけろ」


 監査官の言葉が、少し遅れて思い出される。


 ――そいつは、“断罪を作る側”だ。


 ええ。


 理解していますわ。


 だからこそ。


「……どう動きます?」


 監査室を出てすぐ、アシュレイが問う。


 短い。


 だが。


 核心だけを突く問い。


「簡単ですわ」


 わたくしは歩きながら答えた。


「会いに行きます」


 彼が、わずかに足を止める。


「正面から?」

「ええ」


 振り返らない。


 迷いもない。


「逃げる理由がありませんもの」


 沈黙。


 数秒。


 それから。


「……面白い」


 小さく、彼が笑う。


 楽しそうに。


 相変わらず。


「普通は避けますよ」

「普通ではありませんもの」


 それでいい。


 むしろ。


 そうでなければ勝てない。


 廊下を曲がる。


 人の流れが変わる。


 さきほどよりも、視線が増えている。


 情報は早い。


 もう、わたくしは“見られる対象”だ。


「場所は?」

「予想はついていますわ」


 監査部の奥。


 権限を持つ人間の動線。


 そして。


 人が避ける方向。


 それを辿ればいい。


「……あそこです」


 アシュレイがわずかに顎で示す。


 重い扉。


 装飾は少ない。


 だが。


 周囲の空気が違う。


 近づく人間がいない。


 明確に。


 避けられている。


「わかりやすいですわね」


「ええ」


 彼は短く答える。


「権力は、音を消します」


 いい表現。


 嫌いではない。


 わたくしはそのまま扉の前に立った。


 ノックはしない。


 意味がないから。


 そのまま、開ける。


 重い。


 だが。


 止まらない。


「失礼いたします」


 中へ。


 そして。


 ――止まる。


 広い。


 無駄に広いわけではない。


 必要なだけ。


 机。


 書類。


 そして。


 一人。


 背を向けて立っている。


 窓の前。


 光が逆光になる。


 顔は見えない。


 だが。


 気配だけでわかる。


 ――いる。


「来たか」


 声が落ちる。


 低い。


 静か。


 そして。


 無駄がない。


 振り向く。


 初めて、顔が見える。


 整っている。


 だが。


 印象に残らない。


 特徴がない。


 それが。


 逆に。


 不自然。


「レティシア・ヴァルモンド」


 名前を呼ばれる。


 正確に。


 間違いなく。


「思ったより早かった」


 笑っていない。


 だが。


 拒絶もない。


 ただ。


 確認している。


「お会いしたかったものですから」


 わたくしは答える。


 視線を逸らさない。


 ここで下を向く理由はない。


「そうか」


 彼は机へ戻る。


 椅子に座る。


 すべてが自然。


 無駄がない。


「では、用件は?」


 直接。


 遠回しにしない。


 いい。


「簡単ですわ」


 わたくしは一歩、前へ出た。


「今回の断罪について」


 間。


「どこまで関与しているのか、確認に」


 沈黙。


 アシュレイの気配が、背後でわずかに動く。


 だが。


 口は出さない。


 観察している。


「……直接的だな」


 リュシアンが言う。


「回りくどいのは嫌いですの」


「そうか」


 彼はわずかに頷いた。


 そして。


「では、答えよう」


 間。


「“関与している”」


 あっさりと。


 否定しない。


 隠さない。


 むしろ。


 当然のように。


「……意外ですわね」


 わたくしは言った。


「否定されるかと」

「する必要がない」


 即答。


 迷いがない。


「証明できないからかしら」

「いいや」


 彼は首を振る。


「証明できても、問題ない」


 その一言で。


 理解する。


 この男は。


 “責任を取る側ではない”。


 構造の上にいる。


「なるほど」


 わたくしは、ほんの少しだけ笑った。


「では次の質問です」


 一歩、さらに踏み込む。


「なぜ、わたくしだったのかしら」


 沈黙。


 リュシアンは、しばらくこちらを見ていた。


 測る目。


 選ぶ目。


「簡単だ」


 やがて、彼は言う。


「適していた」


 それだけ。


 理由になっていない。


 だが。


 それでいい。


「どう適していたのかしら」

「壊しやすい」


 即答。


 ためらいもない。


 そして。


「壊れても、問題にならない」


 その言葉で。


 空気が凍る。


 わずかに。


 だが。


 確実に。


 アシュレイの気配が、変わる。


 ほんの一瞬。


 だが。


 強く。


 面白い。


 初めて。


 感情が動いた。


 わたくしは、それを横目で捉えた。


 そして。


 笑う。


「……随分と失礼ですわね」


「事実だ」


 リュシアンは答える。


 迷いなく。


 断言で。


 だからこそ。


 理解する。


 この男は。


 “人を人として見ていない”。


 駒。


 それだけ。


「では」


 わたくしは言った。


「その判断が間違いだったと証明して差し上げますわ」


 沈黙。


 短い。


 だが。


 濃い。


 リュシアンが、わずかに笑った。


 初めて。


「期待しよう」


 その一言。


 軽い。


 だが。


 重い。


 この男は。


 楽しんでいる。


 壊れるか。


 壊せるか。


 その両方を。


「では、これで」


 わたくしは踵を返した。


 これ以上は不要。


 十分。


 情報は取った。


 関係も作った。


 あとは。


 崩すだけ。


 扉へ向かう。


 そのとき。


「レティシア」


 呼ばれる。


 止まらない。


 振り向かない。


「次は」


 彼の声が落ちる。


「お前が“試される側”だ」


 その一言で。


 理解する。


 すでに。


 動いている。


 こちらの知らないところで。


 次の盤面が。


 わたくしは、わずかに笑った。


 いい。


 それでこそ。


 面白い。


 ――では。


 こちらも、次を打ちますわね。

ついに黒幕候補との初接触でした。


そして、相手もすでにこちらを“試す側”に回っています。

ここから一気に駆け引きが加速します。


続きが気になったら、ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。

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