第十三話 選ばされた答え
――断罪に関する再調査の実施。
その一言で。
すべてが、戻れない位置まで進んだ。
静まり返った室内。
誰もすぐには動かない。
動けない、が正しいかもしれない。
「……その通達は、正式なものかしら」
最初に口を開いたのは、母だった。
声は整っている。
だが。
ほんのわずかに。
硬い。
「はい」
騎士は短く答える。
「王宮監査部よりの正式な通達です」
逃げ道がない。
完全に。
母の指先が、わずかに机を叩く。
癖だ。
思考が早く回っているときの。
「……そう」
彼女は微笑む。
再び。
完璧に。
だが。
遅い。
整えるには。
少しだけ。
「でしたら、こちらとしても全面的に協力いたします」
そう来る。
当然。
否定はできない。
ならば。
協力する側に回る。
正しい判断。
けれど。
それでは足りない。
「ええ、ぜひ」
わたくしはすぐに言葉を重ねた。
間を与えない。
「わたくしも、真実が明らかになることを望んでいますもの」
視線を合わせる。
逃がさない。
母の目が、ほんの一瞬だけ細くなる。
理解している。
これは。
“止まらない流れ”だと。
「ミレイユ様」
騎士が彼女へ向く。
「あなたにも、事情聴取が行われます」
ミレイユが、わずかに息を止める。
当然だ。
ここまでは想定していても。
実際に“巻き込まれる”瞬間は違う。
「……はい」
彼女は頷いた。
逃げない。
いい。
とても。
「その際」
わたくしは口を開いた。
「証言は、すべて記録されますわ」
わざと。
ゆっくりと。
言葉を置く。
ミレイユの視線が、こちらへ向く。
揺れている。
けれど。
逃げていない。
「ですから」
一歩、近づく。
「“見たこと”だけを話しなさい」
間。
「“そう思った”ではなく」
沈黙。
長い。
だが。
必要な時間。
彼女は考えている。
初めて。
本当に。
「……わたくしは」
ミレイユが口を開く。
声は小さい。
だが。
はっきりと。
「見たことしか、話しません」
その瞬間。
決まった。
完全に。
母の側から。
離れた。
ほんの一歩。
だが。
決定的な一歩。
「そう」
わたくしは頷いた。
それでいい。
それで十分。
あとは。
勝手に崩れる。
「……ミレイユ」
母が呼ぶ。
低い声。
初めて。
明確に。
感情が乗る。
「あなたは何を言っているの」
圧。
強い。
だが。
遅い。
「わたくしは」
ミレイユは動かない。
視線を逸らさない。
「正しいことを、言うだけです」
その言葉で。
完全に。
決裂した。
母の表情が、崩れる。
ほんの一瞬。
だが。
はっきりと。
見えた。
怒り。
焦り。
そして。
計算の破綻。
いい。
とてもいい。
「……そう」
母は息を吐いた。
整える。
もう一度。
だが。
さきほどまでの完璧さは戻らない。
「では、そのように」
それだけ言う。
それ以上は続けない。
続けられない。
この場では。
すでに。
負けているから。
騎士が一礼する。
「では後日、正式な聴取を行います」
手続きの話が続く。
だが。
意味はない。
勝負は、もうついている。
少なくとも。
第一段階は。
わたくしは静かに息を吐いた。
視線を横へ流す。
アシュレイ。
彼は、いつものように壁にもたれている。
何も言わない。
だが。
その目だけが。
わずかに笑っている。
評価。
あるいは。
確認。
どちらでもいい。
今は。
「……レティシア様」
ミレイユが、小さく呼ぶ。
振り向く。
彼女は、まっすぐこちらを見ている。
「これで、よかったのでしょうか」
不安。
当然。
初めて、自分で選んだのだから。
「ええ」
わたくしは答える。
「これで、始まります」
「……始まる?」
「本当の意味での“断罪”が」
彼女の目が、揺れる。
理解した。
遅れて。
けれど。
確実に。
わたくしは、ほんの少しだけ笑った。
ここからだ。
本当に。
面白くなるのは。
――そして。
誰が落ちるのか。
それも。
もう決まっている。
ここで一つ、決定的な「選択」が入りました。
この章はここからさらに一段進みます。
そして次は、“本当の断罪”が動き始めます。
面白いと感じていただけたら、ブックマークや評価で残してもらえると嬉しいです。ここから一気に核心に入ります。




