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断罪された悪役令嬢ですが、“嘘を一つだけ混ぜたら”全部壊れました ~正しさは、簡単に裏返る~  作者: 空乃エリシア


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第十一話 反撃の形

 ――最初の一手は、成功。


 そう思った瞬間に。


 それは、間違いになる。


 廊下に出て数歩。


 わたくしは足を止めた。


「……早いですわね」


 呟く。


 空気が変わっている。


 先ほどまでの“静かな優位”が、消えている。


 代わりにあるのは。


 ――整えられた気配。


「察しがいい」


 声が落ちる。


 背後ではない。


 前。


 柱の影。


 そこに、アシュレイ・クロードが立っていた。


 最初からいたかのように。


「偶然ですか?」

「いいえ」


 彼は首を振る。


「予測です」


 そう言って、一歩近づく。


「あなたが勝つなら、この直後に動くはずだ」


「母が?」


「ええ」


 当然のように。


 断言する。


「そして、すでに動いている」


 わたくしは眉をわずかに上げた。


「根拠は?」

「空気です」


 簡単に言う。


「整いすぎている」


 同じことを思った。


 少しだけ。


 悔しい。


「具体的には?」

「人の動きが変わった」


 彼は視線を横に流す。


 廊下の奥。


 使用人が一人、こちらを見て、すぐに目を逸らす。


「さきほどまで、あなたを避けていた」

「ええ」

「今は違う」


 観察されている。


 明確に。


「報告が回った」


 彼は言う。


「あなたが“動いた”と」


 なるほど。


 速い。


 けれど。


 それはつまり。


「焦っている、ということですわね」


「ええ」


 彼は即答した。


「そして、焦った人間は、必ずミスをする」


 いい。


 とてもいい。


「では、そのミスを待つ?」

「いいえ」


 彼はわずかに笑った。


「作ります」


 わたくしは息を吐いた。


 思考が重なる。


 やり方は違っても、向いている方向は同じ。


「具体的には?」

「簡単です」


 彼は一歩、さらに距離を詰める。


「あなたの勝利を、少しだけ大きくする」


 意味はわかる。


 けれど。


「どうやって?」

「ミレイユを使う」


 その名前で。


 わずかに空気が動く。


「……危険ですわね」

「ええ」


 彼は頷く。


「だからこそ効果がある」


 わたくしは少しだけ考えた。


 彼女は揺れている。


 だが。


 どちらに倒れるかは、まだ不明。


「どう動かすの」

「簡単です」


 彼は言う。


「選ばせる」


 選択。


 それはつまり。


「どちら側に立つか」

「ええ」


 彼の目が、わずかに鋭くなる。


「そして、選ばせた時点で、どちらに転んでもこちらの勝ちです」


 なるほど。


 よくできている。


「具体的には?」

「もうすぐ来ます」


「誰が?」

「呼んでおきました」


 その瞬間。


 足音が一つ。


 軽い。


 ためらいがある。


 振り向かなくてもわかる。


「……レティシア様」


 ミレイユ。


 少しだけ息を切らしている。


 走ったのか。


 それとも。


 迷っていたのか。


 どちらでもいい。


 わたくしは振り向いた。


「どうかしましたかしら」

「その……」


 彼女は言葉を選んでいる。


 珍しい。


 さきほどまでは、もっと整っていた。


「お話が……あります」


 目が、わたくしを見ている。


 揺れている。


 けれど。


 逃げてはいない。


 いい。


 とても。


「こちらもですわ」


 わたくしは言った。


「ちょうどよかった」


 視線を横へ流す。


 アシュレイが、壁にもたれたまま見ている。


 完全に観察者。


 けれど。


 この場の設計者でもある。


「……その方は」


 ミレイユが小さく言う。


「気にしなくていいですわ」


 わたくしは即答した。


「ただの共犯者ですもの」


 沈黙。


 数秒。


 その言葉の意味が、ゆっくりと浸透する。


「……共犯、ですか」


 ミレイユの声が少しだけ変わる。


 理解と。


 警戒。


「ええ」


 わたくしは頷いた。


「ですから、正しいことだけを求めるなら、ここで帰った方がいいですわ」


 選択を置く。


 明確に。


 逃げ道も。


 同時に。


 ミレイユは、動かない。


 数秒。


 それから。


「……知りたいです」


 さきほどと同じ言葉。


 だが。


 今度は、少しだけ重い。


「本当に、何が起きているのか」


 決めた。


 それが伝わる。


 いい。


 十分。


 わたくしはゆっくりと頷いた。


「では、条件があります」


 彼女の目が、わずかに揺れる。


「条件……?」

「ええ」


 一歩、距離を詰める。


 逃げられない距離。


「途中で、どちらかを選びなさい」


 言葉を置く。


「どちら、とは」

「簡単ですわ」


 視線をまっすぐ向ける。


「わたくしか」


 わずかな間。


「それとも、今までの“正しさ”か」


 沈黙。


 長い。


 彼女は動かない。


 考えている。


 初めて、自分で。


 その姿を見て。


 少しだけ。


 理解した。


 この子は。


 ただの“善人”ではない。


 選ばされてこなかっただけだ。


「……わかりました」


 やがて。


 彼女は言った。


 小さく。


 けれど。


 はっきりと。


「その条件、受けます」


 その瞬間。


 盤面が、もう一段動いた。


 いい。


 ここからだ。


 ようやく。


 “本当に面白くなる”ところ。


 背後で。


 小さく笑う気配がした。


 振り向かない。


 わかっている。


 あの男も。


 同じことを思っている。


 ――さて。


 どちらに転んでも。


 勝ちは、こちら。


 問題は。


 どこまで崩れるか。


 それだけですわね。

ここでミレイユが「選ぶ側」に入りました。


正しさか、レティシアか。

どちらに転んでも物語は大きく動きます。


ここからさらに一段ギアが上がります。

続きが気になったら、ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。

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