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断罪された悪役令嬢ですが、“嘘を一つだけ混ぜたら”全部壊れました ~正しさは、簡単に裏返る~  作者: 空乃エリシア


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第十話 崩れる証言

 「……わたくしも、知りたいです」


 その一言で。


 空気が、はっきりと揺れた。


 母の視線が、ミレイユへ向く。

 驚きではない。

 計算の修正。


 どこまで、この娘が“従う側”なのか。


 それを測っている。


「ミレイユ」


 名前を呼ぶ声は柔らかい。


 だが。


 ほんのわずかに低い。


「あなたは、混乱しているのよ」

「……いいえ」


 否定。


 即答ではない。


 一拍置いて。


 それでも、言い切る。


「混乱しているのは……わたくしだけではないと思います」


 あら。


 思ったより。


 ずっと強い。


 わたくしは、ほんの少しだけ目を細めた。


 予想外は嫌いではない。


 むしろ。


 歓迎すべきもの。


「……そう」


 母は微笑む。


 再び。


 完璧に。


 だが、その整い方が、先ほどよりもわずかに硬い。


「では、はっきりさせましょう」


 その言葉で。


 場が“整えられる”。


 主導権を取り戻す動き。


 けれど。


 遅い。


「レティシア」


 母がこちらを見る。


「あなたは何を根拠に、そのような疑いを?」


 問い。


 正面から。


 逃げ道のない形。


 いいでしょう。


 望むところ。


「根拠ですか」


 わたくしはゆっくりと一歩、前へ出た。


 視線を逸らさない。


「簡単なことですわ」


 袖に触れる。


 紙片ではない。


 もっと単純なもの。


「証言と記録が一致していない」


 母の目が、ほんのわずかに細くなる。


 理解している。


 何を言われるか。


「例えば」


 わたくしは続けた。


「温室の件」


 ミレイユの肩がわずかに揺れる。


 反応。


 正直。


「破損した標本箱」


 視線を彼女へ向ける。


「あなたは、わたくしが触れたと証言した」


「……はい」


 声は小さい。


 だが、逃げない。


 いい。


 とても。


「けれど」


 わたくしは静かに言った。


「その箱は、右側から破損していた」


 間。


「わたくしは右利きですわ」


 沈黙。


 部屋が静まる。


 理解が、遅れて広がる。


「……それが、何だというの」


 母が言う。


 まだ、崩れない。


 当然。


 この程度で崩れるなら、最初から終わっている。


「ええ、大したことではありませんわね」


 わたくしは頷いた。


「では、次」


 言葉を重ねる。


「茶会の件」


 ミレイユの目が、わずかに揺れる。


「証言者のうち二人」


 間。


「その日は欠席していましたわ」


 今度は。


 明確に。


 空気が変わる。


 ミレイユが、息を止めた。


「……そんなはずは」


「あります」


 遮る。


 強くはない。


 だが、確実に。


「名簿は残りますもの」


 逃げ道を消す。


 言い訳を許さない。


 そして。


 最後。


「階段の件」


 わたくしは、ほんの少しだけ声を落とした。


「その時間、わたくしは王妃殿下付きの侍女長と面会していました」


 母の目が。


 止まる。


 完全に。


 動かない。


 今までで、初めて。


 表情が崩れた。


 わずかに。


 だが確実に。


「……それは」


 言葉が続かない。


 いい。


 十分。


 わたくしはゆっくりと息を吐いた。


「すべて、偶然で済ませるには少し多いですわね」


 沈黙。


 誰も、すぐには言葉を出せない。


 理解している。


 これは。


 “ただの誤解”ではない。


 そして。


 母が初めて。


 後手に回っている。


「……ミレイユ」


 母が呼ぶ。


 声はまだ穏やかだ。


 だが、その奥に焦りがある。


「あなたは、どう思う?」


 責任の移動。


 上手い。


 けれど。


 遅い。


 すでに、揺れている。


「わたくしは……」


 ミレイユが口を開く。


 迷い。


 そして。


「……確認したいです」


 はっきりと。


 言い切った。


 その瞬間。


 場の構図が変わる。


 完全に。


 母の側から。


 外れた。


 いい。


 とてもいい。


 わたくしは、ほんの少しだけ笑った。


「では、調査を進めるべきですわね」


 静かに。


 決定を置く。


「王宮の動きもありますし」


 嘘ではない。


 まだ。


 だが、すぐにそうなる。


 母は何も言わない。


 言えない。


 ここで否定すれば。


 “隠している”ことになる。


 沈黙は。


 すでに敗北の一部。


「……好きにしなさい」


 ようやく出た言葉。


 投げるように。


 だが。


 その一言で。


 勝敗は決まった。


 少なくとも。


 第一手は。


「ありがとうございます」


 わたくしは礼をした。


 形だけ。


 意味はない。


 もう。


 対等ではないから。


 視線を上げる。


 母は、わたくしを見ている。


 初めて。


 “娘”ではなく。


 “敵”として。


 いい。


 それでいい。


 ようやく。


 始まる。


 わたくしは踵を返した。


 扉へ向かう。


 その途中で。


「レティシア様」


 呼ばれる。


 ミレイユの声。


 振り向く。


 彼女は、まっすぐこちらを見ていた。


「……本当に」


 一瞬の間。


「あなたは、やっていないのですか」


 直球。


 逃げない。


 いい質問。


 わたくしは、少しだけ考えた。


 そして。


「どう思います?」


 返す。


 彼女は答えない。


 答えられない。


 それでいい。


「それを確かめるのが、これからでしょう?」


 言って、扉を開ける。


 外へ出る。


 空気が軽い。


 ほんの少しだけ。


 背後で、何かが崩れた音がした気がした。


 気のせいかもしれない。


 でも。


 たぶん。


 違う。


 ――最初の一手は、成功。


 わたくしは、静かに息を吐いた。


 さて。


 次は。


 どこを崩しましょうか。

ここでようやく、小さな“ざまぁ”が入りました。


まだ始まりにすぎませんが、「崩せる」という確信が見えたと思います。

次は反撃と、さらに深い対立に入ります。


続きが気になったら、ブックマークや評価で残してもらえると嬉しいです。

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