第二話 目が覚めると。
パチリ。ゆっくりと瞼が開く。
冷たい床の感触。それを頬に受けて。垂れるよだれを手で拭って。寝ぼけながらも起き上がる。辺りを見回す。
不思議だった。だって、
(ここはどこだろう?)
それすらも分からないのだから。
最初に得た疑問。けれど、持ち合わせる答えはなく。視線をただ、右往左往とさせるだけ。
カーテンがバサバサとはためく。その光景に、目を奪われて。揺れ動く様を眺めて。やがて、風が冷たく感じて。
(寒い)
その寒さに体を縮ませて。
立ち上がり、ゆっくりと窓の傍へ向かう。寝具の上に昇る。この部屋にも不思議な事にベッドがある。最低限の簡素な家具がある。
しかし、ここには誰もいない。私以外には誰も。
おおよそ、本能のままに。
窓を閉める音がパチンと。
落ち着いたカーテン、その隣で。白のレースカーテンだけを閉めた。視界がぼやける。外の向こうは目が眩む程の夜空。そこに満天の星と月が広がる。そして、その下には森がある。それが分かった。
私は一体、どこにいるのだろう。
森の中で良いのだろうか。
それすらもやがてぼやけて。
頭の中が霧に覆われていくようで。
ベッドのシーツが私の体を撫でるように感じて。
目が覚めると、私はどこか見知らぬ部屋にいた。
不思議と気分は落ち着いている。酷く冷静だった。心が渇いているみたいに。
あれ、それに、私は何で生きているのだろう?
それが疑問だった。
私は私。しかし、そう思うのは何故だろう。記憶が定かではない。
窓の向こうは森の中。どこまでも果てしない夜に照らされるだけの。
そして、部屋の中。
私が今居るベッド、椅子と机。簡素な学習机。引き出しが幾つか。一つ開けてみる。メモ帳と真っ黒な万年筆。それだけを手に取って、机の上にそっと置いた。
コトリと音がした。誰もいない。私だけの部屋に響く。
私は確かに死んだはずだった。それも、あの病室で。
それなのに、なぜ私は今もこうして呼吸をしているのだろう。
溢れ出る曖昧な記憶。疑問は多く、答えは出ない。
私は私が誰かも分からない。この場所で一人、暗闇に光るその紺色の境目。ペンの淵を眺めながら。




