第一話 暗い地下の底で。
誰も知らぬ暗い地下。そこには部屋が一つある。
誰が用意したのかも分からない。けれど、確かにそこにある。
そして、その部屋の窓、その向こうには大きな月が一つ浮かんでいる。
ここはどこか。
果たして本当に地下なのか。それは分からない。きっと神のみぞ預かり知るところなのだろう。そんな地下なのか地上なのかも判別できない怪しげで不思議な場所。ただ、空いた窓からは夜風。風は激しく、音を立てて窓にかかるカーテンを揺らす。
やがて、その部屋の中心。そこでは何かが動く。
それは繭。枝とはいかず、木製の床、その木目に沿って、ピタリと張り付く。人の子供が入りそうな位の、大きさの繭があった。
もぞもぞと揺れ動く。波のように、そして、それはもうすぐに新たな生命が生まれるかのように。
その後もそんな胎動を繰り返しては。
次にはビリリと裂ける音。すると、その繭からニュッと白い手が伸びる。
手を突くように力を入れて繭の内から突き破るようにして突如として現れる。それは少女。まだ幼く、白く長く腰元まで伸びる真っ直ぐな髪を持つ少女。それが生まれた。繭の内からズロリと流れるように溢れるように。羊水にまみれ、辺りに糸を散らし。生まれたままの姿を晒す。
少女は気づく。部屋に差し込む青白いその月明かりに。その瞳には丸く大きい月が映る。不思議そうに首を傾げて。しばし眺め、そして力尽きる。
どうやら活動の限界を迎えてしまった様子。首を垂れてもう一度。その小さな体をコテンと横に倒して。そんな生まれたばかりの少女は再びの眠りにつく。しばしの間。暗い地下の底で、誰に祝福されるわけでもなく、代わりに穏やかな寝息をたてて。
月だけが静かに少女を見守っていた。




