第6話 ルカは強制的に敵城へ
ノクティルカはいきたくない場所へと向かう事になる
ノクティルカはパーティ用のローブを纏い、社交界に行く支度をしていた。目の前には当然のようににこやかなジェネシスがいる。
その時に、精霊の契約を破棄して結んだ彼からジェネシスを通じてお礼の手紙を渡された。
「あなたに感謝していたわよ。嫌な噂が広まるまでに解決したからって」
「そう? それは、良かった」
素っ気なく、当たり障りのない返事をする。
シルヴァブライト公爵家から王城に行くほうが近いので彼女もこちらに来ているのだ。そして、ボクたち二人をお母様がそばで見守っている。
執事のハワードが、最後に綺麗に整えてくれた。ネクタイがどうにも上手く結べなかったのだ。いつも、リボンで過ごしていたから。
「どう、変じゃない?」
それに、パーティ用のローブを着たのは何年ぶりだろうか。七歳の頃から、着ていない。
シルヴァブライト公爵家は深い青色のローブを好むので、ジェネシスも同じ色を着ている。ドレスは、ふわっとしているので優しげな雰囲気を持っていた。色合いがビターなので、それぐらいがちょうどいいのかも知れない。
ジェネシスは化粧もいつもと違うのか、ぱっちりとした目がよく映えている。
自分のことより、彼女をみている気がする。なんだか、照れくさい。照れくさいから、変に適当に尋ねてしまった。
「変じゃないわ。かっこいいわね」
「本当に思ってる?」
返答が不満で膨れてみても彼女は「素敵だわ!」と、明るく返してくれる。彼女の顔を見ても、優しくて明るくて、温かいものだ。
それでも……信じていいのか、分からない。
照れ隠しに尋ねたはずなのに。どうして、信じたいのに信じられないのか。
「……。うん」
素直に頷けない心は痛い。でも、何かは返さないといけない。そんな気がした。
そんなボクに彼女は柔らかな笑みを見せてくれる。
「信じてないわね? 変じゃないわよ、貴方のお父様が選んでくれたんでしょ?」
「そうだよ」
装いは父が決めた。それは、確かだからこそ気にならない。だけど、似合ってるのかは別なのだ。
「もしかして、似合ってるのかって聞きたいのね」
「うん、そう」
そんな事をかんがえていると心を読んだようにボクの考えを当ててきた。
驚いて固まっていると、エラがボクの肩に乗る。ペシペシと、尾ひれで背中を叩いた。
「嫌なことはさっさとやればいいのよ」
「時間が決まってるんだよ、エラ」
エラは準備している間はボクにくっつけなかったのが不満らしい。彼女のおかげで、彼女と契約してからは側に厄介な執着してくるような精霊は来なくなった。だからこそ、比較的平和ではあるのだ。
「お前たち、そろそろ支度しなさい」
「わかったよぉ」
嫌だなぁと心でつぶやきノクティルカはため息をつき、馬車へと進んだ。さすがに、王城にいくのに魔法車は使わない。
不思議そうなジェネシスに説明する。
「王家はほら、伝統が好きだからね」
「確かにそうかも。
「さて、早くするように。フォルティスも」
「えぇ、ふふっ。ルカも一緒だとうれしいわね」
母は嬉しそうに目を輝かせる。そんなに、嬉しいのだろうか。よくわからない。ジェネシスまで笑みを深めている。どうしたらいいのか、分からない。
「私も、ルカと一緒に出られてうれしいわ」
それでも、素直にそんな言葉をかけられてしまえば心は安心してしまう。
「……。うれしいけど、怖いな」
素直な心がポンッと出てきた。彼女が、手を握ってくれるから。人に本当の感情を伝えることも、怖くなかった。
そう、ずっと怖かった。
パーティで何か言われるんじゃないだろうか。誰一人、助けようとなんかしてくれないんじゃないか。
お父様もお母様も、本当はボクのことなんて好きなんじゃなくて厄介者に思ってるんじゃないか。
何処かで、子供でも育てているんじゃないか。
心の何処かにそれはずっとあって、これがわかるのが社交界なんじゃないかとノクティルカは無意識に思っていたのだろう。
「行きたくないよ……。怖い」
体は震える、目は潤んで上手く見えない。
「大丈夫だ、ノクティルカ。お前は、大切な私の息子だ。怖がらなくていい、苦しまなくていい。頼むから言葉にしてくれ」
「えぇ、そうよ。貴方の親だもの、あなたをちゃんと守るわ。だって、あなたはたった一人の息子だもの」
「子どもは宝物だ。何よりも、大切なものだ」
ぽっと心が温もりを持つ、目頭が熱くなる。泣きたくて、でもこんな時に泣いてはいけなくて。でも、とっくに涙が流れそうで。
本当はもっと、ちゃんと望みを伝えるべきだった。精霊たちはエラが御してくれているのだから。ある程度は、ちゃんと望みを伝えることができたのに。
そう、強く望まなければ。
だから、学校だって。行きなさいと、強く言われれば、きっと従った。だって、今も来ているのだから。
「今まで、迷惑かけてごめんなさい」
「気にしない。だって、迷惑をかけられるのも親子だからだろう?」
父の優しい声が、心に届いた。
「ノクティルカ、まずは……社交界、頑張ってみろ。それができたら、今度は学院だ」
ただ、魔法大臣というよりシルヴァブライト公爵家の当主としては、優しくなかった。
王城に到着して指定場所で馬車から降りとうとして足が止まった。
城が目の前に見える。
心はなにかに囚われたように恐怖に怯え、息は上がる。それに、この城でのあの時の出来事は……ノクティルカは、あまり覚えていないのだ。曖昧で、靄がかかったように。
うまく思い出せないでいる。それでも、行かないと。父のためにも行かないと。しかし、そんな考えを否定するかのように足は震えて動かない。
「大丈夫、私がついているもの。一人じゃないわ」
「そうだぞ。ジェネシスがいるじゃないか」
「そうよ、貴方には心強い味方がいるじゃない」
先に馬車から降りた家族が手を伸ばしてくれる。その手を取って、ノクティルカは何とか降りた。
嫌な思いである世界に、飛び込むことになる。




