第4話 精霊との不和は突然に
ジェネシスは寮の先輩と精霊が喧嘩しているところを目撃する
彼を知る為に彼の勉強部屋を訪れた翌日の事。授業を終えて、課題を星寮の談話室でしていた時だった。
「貴方のわからず屋!! 貴方なんか、契約を続けてやんないんだから! 貴方の魔力をこっちに押し付けられても耐えられないのよ!」
大きな声がした。その声に「うわッ」と、素直に驚いた声が出て顔があつい。しかし、よく聞くと甲高い精霊の声だ。声の方向性を見ると赤毛の少年がいる。四年のジュリアン・ケイリー先輩だった。
「なんでだよ、ずっとお前と一緒だったこれからもだろ。だって、契約破棄なんかされてみろ……」
彼は顔を赤くして、ハムスターの姿をした精霊に怒っている。
「俺が、侮辱されてるようなものじゃないか!!」
涙目になっている彼と発狂している精霊、そんな時に後ろから「おー、よく喧嘩するなぁ」と、呑気な声がした。エルトン学院長だった。
「……まぁ、確かに。記録を見ても急成長しすぎてるからなぁ。しかし、契約破棄か」
「契約破棄って、難しいんですか?」
「そりゃなぁ。なかなかに難しいんだよな、まず精霊王に会わなきゃならない。その上で、納得してもらえなければ継続だ」
はぁ、と彼がため息をつき「やめとけ」と、彼がパシッと彼らを離す。
「先生、どうすればいいんですか。そんな、簡単に」
できるわけ無いと否定しようとして「違う」と、学院長が口を挟む。彼はムッとしていた。
「方法はあるぞ、ちょうど。オレ、そいつの所に行くんだが。ついてくるか、家庭教師にな」
ジュリアンは「はぁ?」と怪訝な顔をする。が、ジェネシスとしては彼が許可するのか、と悩みがある。
「この学院に入り、この寮に入る魔法科の人間は、こういう事が起こる場合が多い。自身の成長が著しい時に、精霊から破棄を申し出される場合がある。そういう時に、彼の存在は助かるんだ」
「……彼って誰ですか」
「まだ、言えない。あの子の安全のためだ」
私たちは彼が運転する魔法車に乗せてもらい、彼の家へと向かうことになった。門に着くと騎士が学院長を見ると開けてくれて、中にはいる。そして、指定位置にそれを預けてなかに入った。
「ここってまさか……」
「黙ってなさい」
学院長に黙らされたジュリアンはキョロキョロとしているし、彼の精霊のアンは何処かそわそわとしている。
「ハワード、あの子は?」
学院長は、執事のハワードさんに彼の居場所を尋ねる。
「勉強部屋にいらっしゃいますよ。彼は?」
「少し、精霊関連で問題があってな」
「なるほど……。そうでしたか」
ワードさんは、すぐに答えて案内してくれた。そして、学院長は「ルカ、入るぞ」と、ドアを開けてズカズカと入っていく。
ドアを開けて入ると、彼と目が合う。そして、私の後ろの先輩を見て、そっと顔をそらす。
「先生」
「はいはい、なんだ? 何か、お前は困ったことでもあるか?」
「いいえ、特に」
やはり、簡潔に答える彼は視線をこちらに向ける。視線は隠れている精霊を見ているのだろうか。
「先生、何をお望みですか」
すぐに視線はマーリンへと向き、用事を尋ねる。嫌だと自己主張するかのように、本を開き出す彼に「行儀が悪い」と、本を取り上げる」
「先生、なんてことするのですか!?」
睨みつける彼を「怖くないこわくないぞ」と、手を振って彼は話を続ける。しかし、話の最中に本を読むことは礼儀がなってないと理解しているらしく、本の山から追加で取ろうとはしない。
「お前なら、精霊の適正がわかるだろ。契約破棄と新規契約だ。お前の周りで、いないのか?」
彼はため息をつき「ソファーにでも座ってください」と、言った。
「ハワード、お茶を用意してね」
「畏まりました」
彼もそちら移動して、エラを呼び寄せて膝のうえに乗せた。私が横に座ると、ホッとしたように息を吐く。
「先生が何と言ったのか、ボクは知らないが。まぁ、ノクティルカ・シルヴァブライトだよ」
先輩を睨みつけることもなく、普通に話している。社交界に出れるだけの人間性はあるのに行こうとしないだけなのかな。ジェネシスはテオドールさんからの課題の難しさを思った。
「ジュリアン・ケイリーです。あの、学院長」
「なんだ?」
「そんな簡単に呼び出せるのですか? 精霊が?」
そう、一般的には精霊神殿での儀式以外、精霊は自ら姿を表すことはないとされている。だからこそ、ジュリアンは疑問らしい。私自身も疑問だ。
「いける、儀式と同じ事をしてもらうだけ。適性は分からないよ。本人の適性に合わせて呼び出すのはできるけど」
まずは、ルカが「契約の無効化をしたい理由は?」と精霊本人に尋ねる。
「この人、急に魔力が増えたのよ。私が耐えきれない」
アンは机のうえに乗り、彼の近くに行って理由を教えた。
「なるほど……ね。それで、契約者の君は同意するのかな」
「……。したくない、でも……変えられるの? だって、契約を切られたなんて侮辱もんだ」
「変えられるよ。精霊呼笛の儀それをやれるから」
ジュリアンさんは結局、最後には「仕方ない、それでその子が幸せなら」と、頷いた。
「では、契約を破棄したいか?」
「したいわ」
「なら、ば。すれば良し。破棄を認めよう」
その時、フワッと魔力の束が見えた。精霊と先輩をつなぐ魔力の束。それが、プツリと切れたれていく。
その後すぐに彼が、庭に私たちを出した。
「魔法陣を描かなきゃならない、めんどくさいな」
「めんどくさいの?」
「神殿を使えたらいいけど、王家が許さないでしょ」
ため息をつき、棒でその魔法陣を地面に刻む。最後に「エラ、確認して」と、言った。
「大丈夫よ、使えるわ」
「なら、真ん中に立って」
「わかった」
ジュリアンが示された場所に立つと、彼は横笛を吹いた。不思議な音色のそれは、確かにあの日聞いた気がする。
すると、今度は鷲の姿の精霊がやってきた。
「あら、その年齢で契約とは珍しい」
「魔力が伸び、精霊がついていけなくなったそうだ」
「そうなの? ふーん、ならいいわね。契約する?」
「してくれるなら……」
その後の手続きは、簡単だ。名前を知り、名前をつける。つけられたのは「ノラ」だった。
「まぁ、精霊王を介してないから。ほかの精霊には、何も言われないんじゃないかな。人は知らないよ」
「ありがとうございます」
「よかったな。ルカも手伝ってくれてありがとうな」
ルカは学院長に頭をワシャワシャ撫でている。すこし、照れくさそうに頬をピンク色に染めている。
「今日は、人と関わったな。いい子だ、ルカ」
「貴方が連れてきたんでしょ」
はぁ、と。ため息をついた彼は「部屋に戻る」と、足を入り口に向ける。
「今日は、勉強はしない。したくない」
「帰ってくださる?」
エラが、マーリン先生とルカの間に入る。
しかし先生は「約束事だ、ノクティルカ」と、厳しい声を出した。
「約束事は守れ。そう、教えてきたはずだ」
「今日は、人と関わったし、手伝った。それが、勉強でいいでしょ」
ふん、と鼻を鳴らし彼は「もういい」と、呟く。彼の表情は無表情だった。それは、人と関わることすら拒絶しているようなものだった。
なら、どうして……私とは関わってくれているのかなと。ジェネシスは感じた。
「もういい。どうせ、学校に来てほしいから。人に感謝されることがある、と。教えようとしたんだろ」
「そうだ、と言ったら?」
「行かない。悪いけど、嫌だよ」
ノクティルカは「また、明日。来てくれるなら」と私に言ってそのまま、部屋に向かった。それを、見送ることしかできない。
「……珍しいな。先生が、叱るのって」
「あいつ、俺の甥っ子なんだよ」
「そういえば、そうか」
彼のお母様と学院長は、妹と兄の関係なのだ。だからこそ、こちらに来いと学校へと誘っているわけで。
「精霊との不和、素質の変化、そういうことは起こり得る。だからこそ、今このときに愛し子がいるならばその役目を果たしてほしいと思う」
彼は、ノクティルカが去っていった方を向き「あの子が吹っ切れたら、きっといい魔法使いになれるんだと思うんだよな」と、つぶやいた。
「星寮なら、別に嫌だという人は少ないんじゃないですか?」
「オレもそうおもっているんだけどなぁ」
学院長は「今日は帰るとするか」そう言って、盛大にため息をついた。
「あとで、お礼の手紙を書いてやってくれ」
「分かりました」
ジュリアンは素直に学院長からの提案を受け入れ、帰ろうとする学院長を追った。ジェネシスもまた、それを追いかけることにしたのだった。




