第2話 学院長のお気楽な意見
アスター魔法学院は王立魔法学院でもある。だからこそ、国王が彼の入学を阻むことはないと思う。なにせ、彼を監視できるのだから。
寮から外を見ると、五年生以上の研究科の生徒たちが学舎に向かっている姿を見る。彼らは随分と、早い。来年度四年生になるジェネシスは、もう起きているしそろそろ朝食を食べて学者に向かおうと思っているのだけど。
アスター魔法学院には、一般寮が三寮ある。
その三寮とは、雪寮、月寮、花寮である。
月寮は魔法師志望、花寮は領地経営・文官志望、月寮は騎士団志望……その三つで寮分けされている。
入学に関して言うと、願書は寮指名で出す仕組みだ。もちろん、シルヴァブライト家ならば魔法師志望で出すだろう。そこが一番競争率が高いのだ。
基本的には、貴族がメインなのでこういうカタチになっている。平民は、平民用の王立魔法学院があるので、そちらに行く人が多い。
もちろん、寮毎に取らないといけない単位の種類は決まっているものの、自由な部分もあるため、他寮の得意分野に手を伸ばす人たちも多い。
そして、その三寮の上位寮が存在する。それが、星寮だ。
二年生から評価や授業態度、他者との関わりを教師陣が判断し星寮に入る資格が渡される者がいる。
各学年の最低人数が各寮一人、最高人数が各寮三人なことから、三星寮とも言われる。毎年、人数はバラバラなのだ
星寮は少し特殊で、優秀な者をその者が一番力を発揮できる場所を見つけ配属する。その理念があるため、王族はそこに入ることができない。と、理念に明記されている。
もし、彼がそこに入ることができれば。でも、難しいんじゃないか。と、ジェネシスはこの考えを消そうとため息をついた。
各寮担当教師の認可がいるため、通ってない彼が飛び級でそこにはいれる確証はないのだ。
ジェネシスは、外の観察をやめて手早く着替え、髪をまとめてすぐに食堂に移動した。
食堂につき野菜の多いメニューを頼んで受け取る。支払いを済ませて、開いている席に座った。人はまばらで、まだ生徒は眠っている人も多いかもしれない。
誰に声をかけられるともなく、食べ終え食器を指定場所に持っていきジェネシスはとある場所に向かう。その場所とは、学院長がよくぼーっとしている場所だ。
その場所とは図書館だ。
この時間は人がまばらだし、いるかもしれない。なかに入り、よくいる場所をみればやはりいた。
金色の髪を適当に結び、ぼーっとしている学院長に声をかける。声をかけて駄目な存在ではなく、よく声をかけられているうえに掛けろと自分から言っているので安心だ。
「学院長、相談事が」
「ん、んぁ? あー、ブレアチェスターか?」
間延びした、それでも落ち着いた声が名前を呼ぶ。学院長に指導してもらえる立場なので、名前は覚えられている。
「そうですよ」
学院長は「それで、なんだ?」と、尋ねてくれる。それにはほっとして「ありがとうございます」と、返し相談し始めた。
「あの、シルヴァブライト家のノクティルカの」
「そうだったな、お前が婚約者になったのか」
もう既に知っていたらしく、納得された。彼なら、ルカの成績に関してはしっているのだろう。
「はい。あの、彼の成績ってどうなのかと思ってですね。飛び級ができるんですか?」
「できるだろ、もう既に飛び級できる程度の学力はあるし、後少しだけ頑張れば五年まで一気にいけるぞ」
「え? そうなんですか?」
確かに……彼の勉強部屋を見て読書家だとはおもったけれど、ルカがそこまで賢いとは思わなかった。学院長は「驚いたか?」と、笑っているが知らなかった。
「……学校に行くな。そう、手紙が王子から来た。それを真に受けて、行けないと思い込んだ」
彼がなんてことないように言っていた事は、手紙で伝えられたらしい。言葉で聞くのと文字で見るのとはきっと感覚が違う、どちらも辛いことには変わりないが読み返せてしまう。それはかなり辛いことだろう。
「だから、必死になって学んでいるんだ。学校の生徒に負けては、父親に迷惑がかかるってな……」
彼も何処か遠くを見る。師匠として、彼の未来を思っているのだろうなと感じた。そう考えていると彼は「婚約を受けて入れてくれてありがとう」と、感謝の言葉を伝えてきた。
「私は……。婚約者が嫌な人じゃなければいいんです。確かに、初対面で酷かったですけど。彼は悪い人ではないから」
「いい子だぞ、優しい子だ。きっと、酷いことを言われたのならば、君に……迷惑をかけたくないんだろうな」
彼は苦笑いをして、ため息をつく。彼の行動には、理由があるからこそ……困っているんだろうな。
「テオも私もあの子をここに普通に通わせたいと思っている。星寮に行かせたいが、去年は断られた。だから、今年、最低でも二年に……飛び級させることになるが」
「本人が嫌がっているのですよね。婚約も遠回しに破棄しようと言われました」
断られたことを伝えると、さっきの言葉をもう一度言われる。迷惑をかけたくないからこその行動だと。
「そうか、でも受け入れてはくれたんだろ?」
「それはそうなんですけど」
やっぱり、そこは不満だ。最近は特に大人っぽいと言われているジェネシスだって、まだ子供である。あんな言い方をされて、何もないってことはない。やっぱり不満だし、彼の優しそうな父親に言いつけてやりたいと思う。でも、彼はきっとつらい思いをするだろう。それは、辞めてあげたい。守りたいという庇護欲を掻き立てられてしまったのだ。
「……。ふぅ、家庭教師として何ができるか。少し考えてみるか」
彼は、うじうじとする私を見てか、ニカッと人好きをする笑みを見せる。彼は、いつだって笑顔でいてくれる人だ。魔法薬で失敗しても、お気楽に評価してフィードバックくれるので、安心して学べるのだ。
彼は「緊張こそが失敗の原因」と言い張るほどに、実験や魔法を使う際の緊張をほぐすことを理念にしている。
そんな彼が、緊張でガチガチになっているあの子をほおって置くことはないのだと、理解していた。
「お前は学校での出来事を話してやれ。きっと、あの子はもっと知りたがる。そして、連れてこい。ここに来たのなら、どうにかなる」
彼は、気楽に言うけれど。そんなに、簡単なことじゃない気がする。彼は私に「できる、できる」と、笑っている。
気楽すぎる。
「まぁ、わからなくもないんだよな。あのとき、気の利いた返しができていたら、こんなことにはならなかった。そう、思うあの子の気持ちも分かる……」
「それはそうかもしれませんけど」
しかし、彼のお母様の言う通りに、魔法省に行かされるならば、魔法学院は出たほうがいい。そう思う。
それを伝えると「そうだな。そのとおりだ」と彼は頷き、顔をしかめた。
「でも、な。彼が、間違えているのは確かだ。七歳と今じゃ明らかに今のほうが賢いだろ。だからこそ、前を見てほしいんだよな」
ため息をついた学院長は立ち上がり「だから、頼んだぞ」と、笑い私の背中をバンバンと叩いてこの場から去っていった。
どうしようか、と悩みすぎてもどうしようもなく。取り敢えずは、授業に出ようと立ち上がった。




