第1話 頑なに拒絶される提案
「アルフレッド殿下はボクが同じ学年にいることすら、我慢がならないらしい……これ以上は、お父様から聞いてほしいね」
彼は、遠くを見るように窓へと視線を向け、首を振った。もういちど、行けないと主張するように。
ジェネシスは、すでにアスター魔法学院に入学しているからこそその彼が諦めていることが、もったいなく感じた。友達もできて、高いレベルの友人たちと切磋琢磨して自信の魔法の実力や知識を高め合っている。
精霊に愛される彼だからこそできる研究や魔法があるはずなのに。そう、考えてしまった。
「だから、君とは一緒に学校には通えない。公爵令息は、通わない例も多いし。家庭教師は、いるし、別に困らないから」
そして、彼は「学校なんか興味ない」と首を振る。ジェネシスは彼が話してくれている間。なにも、話せなかった。
「それに、ふとしたことで切ってしまう可能性もあるんだ。前にお父様の精霊の契約も危うく切らせてしまうところだった……だから、いいんだよ」
「……。そう、淋しいわね」
彼は口を開き、また閉じる。もしかして……婚約をやめようと伝えるべきだとまたおもったのだろうか。
彼は、窓の方に行きカーテンを閉じる。
「……。本当は、分かっていたよ。お父様が、ボクのために繋いだ縁だってことも……。だから、ごめん」
「そうよ、貴方のお父様に貴方のことをお願いされたもの。だから、切ったりしないわよ」
彼はシュンとしたように、腕のなかにいるシャチを撫でた。
「でも、やっぱり人とうまく関わる自信がないんだ。あの後、ずっと社交界には出ていないし。今更、出たくないよ」
彼はまた「ごめんね」と、呟き。彼のそばに寄っていって頭をすり付けている私のカワウソの精霊を撫でた。
「君は、名前は何というの?」
「メリルだ。水属性の精霊なんだぞ」
「そうか、よろしく頼むよ」
優しい手つきに、精霊と過ごすのは慣れている様子が見える。ジェネシスは、これからどうしようかなと考えていた。どうするにしても、まずは、信頼してもらわないといけない。
私のお父様はシルヴァブライト公爵家との繋がりが欲しくて飛びついたようだけど。なかなかに手ごわそうだなと、ため息をつきかけた。
そんな時、ドアはノックされ彼が許した為にドアが開く。そこには、彼の父親テオドールさんがいた。
「ルカ、ジェネシス……お茶にしよう」
「……うん」
「ジェネシスさんとはうまくやっているか」
「……多分」
テオドールさんは、こちらに向いて話しかける。さっきよりも、確実に言葉数が減りジェネシスは一体どういう差があるのかと首をかしげる。
ルカとテオドールさんは、別に親子仲が悪いということはない。さっきも、父親が自分のために私をよんだと理解していたし、顔をしかめたりはしなかった。
「こんな調子だろう。あの日から、あまり話してはくれない。必要なときは話してくれるが、日常はこんなものだな」
疑問を察したのか、テオドールさんはため息をつきつつも説明してくれる。彼はそっぽを向き、近くにある本を手に取った。そして、開き読み始める。
彼は、かなりの読書家であるらしい。机の上に乱雑に積んである本がそれを示しているようだ。
「そうなのですか? 普通に話してくれましたが」
「そうか、なら良かった。しかし、まぁ。普段のこの子はこういう感じだな。ほら、行こう」
「ん、行く」
腕を組み、彼はテオドールさんに連れて行かれる。やっぱり、親子仲はいいほうだ。家では、彼は大切にされているのだろう。
庭が見える一室に案内される間もテオドールさんは彼に話しかけていた。
「仲良くなれそうか?」
「……うん」
テオドールさんが安心したように息を吐く。それが後ろをついて行っている今でもよく分かった。
「社交界には行きたくなったか?」
「行かない」
父親から尋ねられても社交界には、いきたくはないと主張する。どうにも、社交界にトラウマがあるんだろうなぁとジェネシスは思った。
「……仕方ない子だな。学校にはどうだ?」
「……行かないために、あの人を呼んだんでしょ」
「ふぅ、彼を家庭教師にしたのを間違えたか」
彼とは誰かと、思い尋ねると。テオドールさんは、使用人にドアを開けさせて部屋に入ってから彼は苦笑い気味な笑みを見せた。
「マーリン・エルトン、ちょうど私の先輩でね。事情を説明したら、むしろしっかりと学ばせた方がいい。そう、言って忙しい中、家庭教師を引き受けてくれた」
「えっ、学院長がですか」
「彼のおかげで、勉強は進んでいるし最近は自分で魔法を考えるまでに至っている。私も指導しているが、成長が著しいよ」
驚くべきことだけど、あの学院長ならあり得るかもしれない。ひと言で言うと、お気楽者なのだ。
固定席があるらしくルカは入って早々に座り、庭を眺めていた。彼の目には、何か見えているのだろう。
「褒めても社交界にはいかないよ」
「……。手強いな、お前は……」
彼は「はぁーっ」と盛大にため息を吐く。息を吐き切るほど、長かった。そんな時に、一度閉じられたドアが再び開く。
「あら、貴方が婚約者の子ね。初めまして、いや……社交界では一度会ったわね、フォルティスよ。ルティと呼んでちょうだい」
ルカの髪はお母様そっくりだ、そう感想を抱く。艶のある髪はきれいに結い上げられている。少しぼさっとした髪でいる彼とは対照的だ。
逆に、目の色は若干お父様譲りなのだろう。お父様のほうが緑が薄く金色っぽい。魔力の量や質がよく似ているという方が正しそうだ。
「ジェネシス・ブレアチェスターです。よろしくお願いしますわ」
「こちらこそ、よろしくお願いするわ。この子、手のかかる子でしょう? でも、素直な子なの、信じてあげてちょうだい。あと、貴方に無礼なことをすれば叱ってあげてね」
お母様も入り、お茶会のセットが使用人によって運ばれた。繊細な花がらのティーセットに、公爵家の財力が表れているように思う。
「あの、さっき……ルカが王子が学校に行くのを阻んでいると聞いたのですけど」
テオドールさんの言葉に違和感を覚え尋ねる。
「確かに、そうだね。まぁ、寮舎が違えば許すだろうと思っているんだが……。一応、飛び級させることも視野に交渉中だ」
ふんす、と誇らしげに言う彼の父親をみて、彼はあきらめているけれどもテオドールさんはあきらめていないのだとほっとした。
昔は、貴族は学校に行かないものも多かったと聞くが今は教育の情報格差を無くすためか積極的に貴族も学校に行かせるようになった。そう、始め学院長から聞いたことがある。
本当の意味は「面倒くさいから言わない」との事だけど。ある意味、王家が親の思想を監視できるからこそ行かせているんじゃないかという噂もある。
なら、なおさら彼も行かせたほうがいいだろうに。
「嫌だ、どうせあることないこと言われるんだ」
「こうして、本人に行く気がなくてね……。マリィも学校に来たなら、毎日でも指導してやると言われているんだけどね」
テオドールさんはどうにも彼を学校にいきたいと思わせられないんだとため息をついた。
「社交界にも、学校にも行きませんからね」
「ほら、いつでもこんな感じで取り合ってくれないんだ。この件に関しては」
彼は、もう話すことはないと言わんばかりにおやつを食べていた。ほっぺたに、クリームをつけていて、可愛らしい。
しかし、そのクリームをハンカチで取ってあげるとテオドールさんから顔を背けながらぼそりと呟いた。
「……。行きたくないわけじゃないんだよ」
「どうしたら、行きたくなるんだ?」
「……こんなボク、受け入れてくれる訳ないでしょ。下手すれば大変なことになる……」
そもそも、どうしてって彼は契約を切れるのか。精霊との契約は切れることはないと五歳にある精霊宮殿での契約の儀で言われた。
「そもそもどうして、切れるんですか?」
テオドールさんに尋ねるとすんなりと「いいよ、教えよう」と、言われた。どうやら、秘密にするようなことでもないらしい。
「精霊契約は、精霊王の許しなければ切ることができない。しかし、それを代わりにできてしまうのがこの子だ」
「精霊王に愛されているからこそ、できることなの。本来は大切にされるべき子どもね」
彼の精霊が話に入ってきた。テーブルの上で彼からおやつを貰っている。
「〜なら、切ればいいのに。そう言って、精霊が「うん」もしくは「はい」と応えただけで、切れてしまうからこそ、この子は気を張っている」
「でも、いってほしいのよ。魔法省って全員学院卒業生なのよね。この子がそこに入れられた後、またイジメみたいなことが起きかねないのよ」
「そうだ、だから。入ってほしい」
お父様もお母様も、彼のことを考えているのに。彼は頑なに「嫌だ」と首を振り提案を拒絶した。
「これから、できる限りこちらに来てくれるとうれしい。明日も学校があるだろう? うちの者に送らせよう」
「ありがとうございます!」
明日には、学院長に声をかけてみようか。そう、明日の予定を作った。




