第2話 彼に合否通知は開かれる
月が昇る頃、ノクティルカが漸く解放されてきた。学院長が、星寮まで連れてきてくれたのだ。彼は疲れ果てているらしく、表情は暗く俯いてしまっている。彼は学院長による最終確認の試験で「受からない理由はない」と、言って貰えているので受かっているはずだ。その言葉と今日の彼を信じるならば。
「お疲れさま、ルカ」
「……待ってたの? 待たなくて良いのに」
素っ気なくて、ジェネシスの心が痛む。もしかしたら、何か失敗したのだろうか。彼の頑張りが無駄になるのが嫌だった。
「ルカ、待ってくれてありがとうだろ?」
「うっ……。ごめんなさい」
「いい子だ、ほら……言いなさい」
私への言葉を叱られて、彼は漸く顔を見てくれる。そして、彼は「ごめんなさい」と、もう一度謝ってくる。そんな事気にしなくて良いのに。彼は、ちゃんと謝ってくれる。
「不安なんだ。落ちてたらどうしようって。怖くて……」
「いいのよ。分かっているもの、誰もが不安になることよ。今日は帰るのよね?」
「うん、帰るよ。送ってもらうんだ」
そして彼は「また、明日……来てほしい」と、照れたように言った。だって、街灯に照らされた耳が仄かに赤い。
「えぇ、もちろんよ。これからも頑張りましょうね」
「うん、頑張る」
彼は帰っていく、学院長が付き添いなら安心だ。寮に戻ると声をかけられた。
「さっき、誰かいたのか?」
「えぇ、学院長が生徒を連れていたわ」
「そうか」
ジュリアンだ。ジュリアンだけども、言っていいのか分からないので曖昧に濁すしか無かった。受かってなかったら、可愛そうだし。
「おやすみなさい、ジュリアン」
「おやすみなさい、ジェシー」
すぐに、寝る支度をしてから明日の用意を始める。授業が終われば、ノクティルカと時間を作りたい。
そんな事を考えれば、意外とときが過ぎるのは早く朝から授業に出席して課題をテキパキとこなし、提出すれば時間はすぎる。
ノクティルカは、どう過ごしているのか。それが、とても心配だった。
ブレアチェスター家の馬車で行き、シルヴァブライト公爵家に入れば、庭で日向ぼっこしているノクティルカがいた。心地よさげにぼーっとしている。あまりにも心地よさそうでつい「ノクティルカ」と、よんでしまった。
もしかしたら、何かに囚われているんじゃないか。と、思ってしまったのだ。
「ん……こんにちわ、ジェシー」
「えぇ、こんにちわ。今日は、元気かしら?」
「元気はないかもしれない。プレストンが、日向ぼっこでもしていなさいって言ってきてね。だから、ここに居るよ」
エラを抱きしめてぼーっとしていたらしい。彼が、私をエスコートしてくれて彼の勉強部屋に戻った。
すぐに、ハワードさんが冷たい飲み物を持ってきてくれた。果物が入った紅茶は甘くておいしい。
「なにかしてほしいことはないの?」
「合格の発表はまだだから、いらない」
彼はまた机に戻り、本を開いた。そして、それを読み出す。本当にノクティルカは、困った子よね。と、ふふっと笑ってしまう。手のかかる弟みたい。
「ルカ、私は頑張っていた貴方にしてあげたいの」
「……。わからないんだ。何をしてほしいのか」
ノクティルカが首を振り、もう良いんだ。と、ため息をつく。
「ありがとう、気持ちだけで十分だよ」
「そう? わかったわ」
ジェネシスは少し残念に思いながら、何かしてあげようと決意していた。でも、今、何かしてあげたいという気持ちはあったので。
「勉強でもいいのよ?」
「なら、また……語学やろうよ」
「えぇ、勿論」
彼が自分から言ってくれたので、ジェネシスは二人で外国の本を読むことにした。テオドールさんが、絵本を買ってきていたらしい。どうにか、学んでほしくて、買ってきたものをノクティルカは今読んでいるらしい。
この日から数日後、ノクティルカの家に通知が届いた。ちょうど、ジェネシスがいる時を見計らったように来たのだった。
「学校からノクティルカ様宛に手紙です」
ノクティルカは固まった。まばたきはしているけれど、息はしているけれど。固まってしまったように動かない。
「きっと、合格通知よ」
「……ありがとう、ハワード」
「えぇ、ご確認ください」
ハワードさんはすぐに部屋から出ていく。ノクティルカは、その封筒をペーパーナイフで切った。容赦はなかった。
折られた手紙を開くと、大きく合格と書いてある。三年生への飛び級が正式に認められた。
「……。良かった」
「良かったわね、良かったわ」
精霊のマルローも珍しく彼のそばにいる。
「あら、隠れていた貴方も出てきたのね」
「祝い事は嫌いじゃないからな!」
「ふふ、かわいらしいわね。ルカ、おめでとう」
エラが嬉しそうに彼にまとわりつく。ノクティルカも、嬉しそうだ。今にも走り出しそうに立ち上がった。
「ありがとう、君のおかげだ」
「貴方が頑張ったからよ」
満面の笑みを咲かせて、嬉しそうな彼を見てほっとする。最初はあれだけ嫌がっていたのに。案外、吹っ切れると凄い子だなとジェネシスは感心してしまう。
「ルカ、頑張りましょうね」
「うん、頑張るよ」
その後、二人でテオドールさんの帰りを待ち、報告をした。今日は、ご両親ともに出かけていたので、彼は一気に二人から抱きしめられた。
「信じていたとも。よく頑張ったな!!」
「ふふ、えぇ。よく頑張ったわね」
温かそうに、両親に擦り寄る彼が嬉しそう。ノクティルカは「受かるなんて本当は思ってなかった」と、弱音を吐いた。
「ルカ、自分を信じることはお前にとっては難しいことなのかもしれない。でも、そんなに自分を否定したら、お前の心はずたずたにきり裂かれてしまう」
「うん……」
「これ以上、お前に傷ついてほしくないんだ。よく頑張った、がんばった自分をほめてやりなさい」
テオドールさんはぎゅっと一人で彼を抱きしめた。愛されているのに疑ってしまう彼、自分の努力すら疑ってしまう彼。本当に、どうしてあげたらいいのか、分からない。
「そうよ、あなた自身の力だと思うわ」
「心配かけてごめんなさい。ジェシー、そして。勉強、付き合ってくれてありがとう」




