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第9話 秘密の棚に置かれた物

 ジェネシスはテオドールさんに言われて彼の部屋に入った。前に勉強部屋とさほど変わらないというニュアンスを彼に言われたように、机のうえには本が積まれている。でも、ベッドの周りには何もなかった。

 

 違いがあるとすれば、薬瓶が数本棚のなかにあり、それが倒れていたことだろうか。


「あの子は、あの事件以降精神的に不安定になることが多々あった。今は、落ち着いてはいたが……これからどうなるか」

「だから、あれだけ震えていたのですね」

「そう、薬はあまり多用してほしくはない。が、仕方ないときもある。君にも最低一本は頓服を渡しておきたい。今日みたいに震えてどうしようもない時に飲ませてやってくれ」


 仕事に対してきちんとしているらしいプレストンさんは、彼の服を剥ぎ取りパジャマに着替えさせる。手慣れていて、凄いなと感じた。なかなかに手ごわそうな仕事だと思う。


「ルカは、日記を書いている。というより、書かせている。済まないが、その鍵をその棚の右から二番目の所に刺してくれ、日記を読みたい」

「駄目ですよ、人の日記は読んだら!!」


 ジェネシスは、すぐに反論する。さすがに、主治医だったとしても、彼の心を許しなく見るのは駄目だと思う。ジェネシスは兄にそれをされて、嫌だった思い出がある。だからこそ、反論した。


「大丈夫よ、ジェシー。あれは、プレストンが書かせているものだから大丈夫よ」

「いいんですか?」

「そのために書かせているから大丈夫だよ。私しか見ない約束だから、君は見ないでね」


 彼はすぐに診察を始めたので、鍵を借りてすぐに開ける。すると、日記帳の上に小さな箱があった。綺麗にリボンがされていて、誰かに渡すかのように整えられているもので。


 ドキッと心が跳ねる。


 自分宛てだろうか、それとも父親とか母親とかだろうか。用意していたのに、どうして声をかけてくれなかったのか。そんなモヤモヤする心が出てくる。


 そんな気持ちは振り払わなくてはならない。何せ、それは見てはいけないものなのだ。ゆっくりと、それを移動させて日記帳を取り出す。鍵を掛けて、その鍵は彼のお母様に手渡した。


「はい、プレストンさん」


 濃い青の日記帳をプレストンさんに直接手渡す。大切に扱ってあげたいと思ったからだ。それを受け取り彼は優しくほほ笑んだ。へにゃりと緩む口元がかわいらしい人という印象を受ける。


「ありがとう、助かるよ。多分、しばらく起きないから君は帰りなさい」

「そうねぇ、こんな時間だし。泊まればいいわ、貴方の家にはお手紙を書いて送りましょう」


 それをフォルティスさんは待ったをかけてくれた。確かに、外を見ればもう暗い。学校は休みなので、明日もここにいてもいい。


「それもそうだ、悪かったね」


 彼は間違えたことをすぐに謝ってくれたので、ジェネシスも勘違いしたことを謝ることにした。


「日記のこと、すみません……」

「いや、いい。確かに日記というのはデリケートなものだからね。私も迂闊だった。気にしないで。君もゆっくり休みなさい」

「はい、そうします」


 ジェネシスはプレストンさんに言われて、フォルティスさんと共に部屋を出る。そして、食堂へと向かい椅子に座った。

 軽い軽食を食べてから話が始まった。フォルティスさんのほうから話をしてくれた。


「優しい貴方が、ルカの婚約者でよかったわ」

「いえ、こちらこそ。ありがとうございます」


 優しい人たちだと思う。


「最初、貴方には社交界に出させて欲しいとお願いしたけれど結局強制的なもので台無しにされたわね」

「でも……。彼が、強気で言ったのは驚きました」

「あの子は、気の強い子だったの。間違えていることは間違えている、そうはっきり言う子だったわ。自分に対してもそうだった。あの子は自分がしたことを間違えた行動だと思った時は、沢山落ち込んでね」


 お母様の表情は俯いてて分からない。それでも、ノクティルカが昔からとても良い子だったんだろうなとはわかる。


「あの子は、魔法をたくさん学んできたわ。生まれて言葉を理解して、魔法の存在をたくさん知った。あの子の苦手な分野ってね語学なのよ、覚えられないって逃げていくの。可愛らしいでしょう? 魔法だって語学みたいなものなのにね」

「えぇ、そうなのですか? なら、一緒に勉強しますよ。わたし、語学が好きなので」 


 意外だと思った。彼は、飛び級出来るぐらいには頭がいい。それなのに、どうしてだろうか。


「あら、それは助かるわ。すぐ逃げようとするのだもの」


 クスクスとお母様が笑っていることに、ジェネシスは安堵のため息をつく。


「あの子は、多分。ほかの国に売られて、捨てられてしまうんじゃないか。そう思っている気がするの。だから、苦手なんじゃないか。テオドールが最初言ったことなのよ」

「そうですか……」


 子供に信用されていない、そんな親の心はきっと痛い。それでも、彼に愛情を与えている。つよい人たちだと思った。


「ふふ、さぁ。そろそろ貴方もおやすみなさい。お風呂に入って、休んでちょうだい」

「はい、ありがとうございます」


 その後、ジェネシスは丁寧に洗われて、寝る支度をすべて手伝われてから部屋へと案内された。


 そのベットに入ると、すぐに眠気が来る。

 随分と気を張っていたようだ。でも、それで良かった。彼が、震えて何度も自分で頑張ろうとした時、少しでも支えられたのならいい。


 その頃には、あの棚に隠されたギフトのことはなにも、考えていなかった。

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