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第94章:完全自立型電源と、重装備のバックパッカー


電力の壁


7月23日。夏休みに入ってすぐの日曜日。 俺は、自分の部屋で頭を抱えていた。

「……計算が合わない」

机の上には、スマホと電卓、そして数個のモバイルバッテリー。 今回の旅は、スマホの中にいる櫻子先輩と常に行動を共にする。 しかし、彼女の霊体データを維持するアプリは、とんでもなくバッテリーを食う。

『ごめんなさいね。私、燃費が悪くて……』

画面の中で、先輩が申し訳無さそうにしている。

「いえ、先輩のせいじゃありません。でも、これだと半日も持たない。新幹線の中で充電が切れたら……」

充電切れは、先輩の意識消失(気絶)を意味する。 見知らぬ土地で、電源を探して彷徨うなんてごめんだ。 俺は決意した。

「……プロに頼もう」

サバイバルの師匠、再臨

俺が呼び出したのは、この春に卒業したボランティア部前部長・玄田宇宙げんだ そら先輩だ。 今は高校の山岳部でブイブイ言わせているらしい。

「よう古田! 久しぶりだな! 旅に出るんだって?」

待ち合わせ場所の登山用品店に現れた玄田先輩は、以前よりもさらに筋肉質になっていた。

「はい。でも、電源問題が深刻で……。スマホの電源を、絶対に切らしたくないんです」

「なるほど。文明の利器を維持しながらのサバイバルか。……いいだろう」

玄田先輩はニヤリと笑い、俺を店内の奥へと連行した。

「モバイルバッテリーなんて甘い考えは捨てろ。お前が必要なのは、『発電所』だ」

移動する発電所

玄田先輩が選んだのは、弁当箱サイズの黒い塊だった。

「まずはこれだ。ポータブル電源(700Whクラス)。これならスマホを何十回もフル充電できるし、コンセントも使える」

「で、デカいですね……。でも、これなら安心です」

「甘い! 旅先でこいつ自体の充電が切れたらどうする? コンセントが見つからない山奥だったら?」

「あ……」

「そこで、これだ」

先輩が取り出したのは、薄いシート状のパネルだった。

「フレキシブル・ソーラーパネル(100W)。これをリュックの表面に装着するんだ。歩いている間、背中で常に太陽光発電を行い、ポータブル電源に給電し続ける」

「すげぇ……! 歩く太陽光発電所だ!」

『まあ! エコで素敵ね!』

スマホの中の櫻子先輩も拍手している。 これで、晴れている限り電力の心配はない。最強のシステムだ。


野宿の心得


「電力は解決した。次は『衣食住』だ」

玄田先輩の指導は続く。

「校長の宿題は『行けるところまで行け』だろ? ならば、宿が取れない事態も想定しろ。駅のベンチで寝るつもりか?」

「うっ……」

「これを持て。超軽量一人用テント、シュラフ(寝袋)、そしてシングルバーナーとコッヘル(鍋)だ」

次々とカゴに放り込まれるガチなキャンプ用品。 ガス缶、携帯浄水器、サバイバルナイフ。

「待ってください先輩! 俺、ただの旅行なんですけど!?」

「バカ野郎! 知らない土地は何が起こるか分からん! 災害、遭難、野犬の襲撃……。備えあれば憂いなしだ!」

玄田先輩の目は本気だ。 確かに、俺は「巻き込まれ体質」だ。普通の旅行で済む保証はどこにもない。

「……分かりました。全部買います(校長の餞別があるし)」

装備完了

数時間後。 俺は、店の鏡の前で自分の姿を確認していた。

背中には、巨大なバックパック。 その表面にはソーラーパネルが展開され、サイドポケットにはポータブル電源のケーブルが伸びている。 腰にはシュラフとマットを括りつけ、手には頑丈なトレッキングポール(武器にもなる)。

「……特殊部隊か?」

中学生の夏休みの旅行スタイルではない。 完全に、「文明崩壊後の世界を旅するサバイバー」だ。

「完璧だ。これならアマゾンの奥地でも一週間は生きられる」

玄田先輩が満足げに親指を立てる。

『ふふっ。頼もしいわ、ふるふる君。背中がとっても広くなったみたい』

先輩も気に入ったようだ。 重さは……正直、かなりある。 でも、この重さは「先輩を守るためのライフライン」の重さだ。

「ありがとうございます、玄田先輩! これで、世界の果てまでだって行けます!」

「おう! どこへ行こうと、お前なら大丈夫だ。土産話、楽しみにしてるぞ!」

俺は最強の装備を手に入れた。 電力よし。寝床よし。 あとは、出発の朝を待つだけだ。

俺の初めての一人旅は、こうして重装備と共に始まることになった。


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