第139章:瞬殺の決勝戦と、泡沫の夏祭り
1. 決勝戦は3行で
翌日に行われた県大会決勝戦。
俺たち3年2組(野球部+応援団)は、歴史的な圧勝を収めた。
準決勝で「直感」を取り戻したエース・赤城烈兎は、ゾーンに入ったかのような投球で相手打線を封殺。
攻撃面では、スタンドのメカ校長と応援団長・櫻子(学ラン姿)の威圧感にビビった相手投手が自滅し、四死球と連打の山を築いた。
結果、15対0。
5回コールド勝ち。
俺たちは汗をかく暇もなく、あっさりと優勝旗を手にしてしまった。
「……つまんないです。計算するまでもありませんでした」
死神・雛菊小径が欠伸をする横で、俺たちは胴上げ(メカ校長含む)を行い、俺たちの「部活の夏」は最高の結果で幕を閉じたのだった。
2. 大正浪漫の浴衣美人
そして数日後。地元の夏祭り。
野球部の祝勝会も兼ねて、いつものメンバーで神社に来ていた。
「お待たせ、ふるふる君」
人混みの中から、西野園櫻子先輩が現れた。
その姿に、俺は息を飲んだ。
紺地に朝顔の柄が入った、シックな浴衣。
帯は赤でキリッと締められ、髪は簪でまとめられている。
そして、球体関節を隠すために、手には「レースの長手袋」を着用していた。
その姿は、まさに昭和……いや、「大正浪漫」の令嬢そのものだった。
「す、すごいです。似合いすぎてて、タイムスリップしてきたみたいだ」
「ふふ。ありがとう。この手袋、キティ先輩にいただいたの。『中華風と大正風の融合ね!』って」
先輩は嬉しそうにクルリと回った。
彼女は現在、「両親を亡くした校長の遠縁で、古田家に預けられた子」という完璧な戸籍設定を得ている。もう誰に遠慮することなく、堂々と俺の隣を歩けるのだ。
「古田、鼻の下伸びてるぞ」
後ろから、甚平姿の赤城と、浴衣姿のなのはが冷やかしに来た。
赤城の右腕には、まだ湿布が貼られているが、その表情は晴れやかだ。
「うるさいな。……ほら、行くぞ。校長たちが場所取りしてるはずだ」
3. 射的のスナイパーと、鋼鉄の場所取り
神社の境内は賑わっていた。
屋台の並びを歩いていると、人だかりができている場所があった。
「あ、あそこね」
行ってみると、「射的」の屋台の前で、櫻子先輩がコルク銃を構えていた。
その構えは、プロのスナイパーのように微動だにしない。
「狙うは……あの一等賞の『特大クマのぬいぐるみ』よ」
先輩は、人形の体(ブレない体幹)と、49年間培った集中力を発揮した。
パンッ!
コルク弾が正確にクマの重心を撃ち抜く。
巨大なぬいぐるみが、ドサリと落ちた。
「お見事ぉぉぉ!!」
「すげぇ! 姉ちゃん百発百中だ!」
子供たちから歓声が上がる。屋台のおじさんは涙目だ。
「はい、これ。小径ちゃんにあげるわ」
「えっ、いいんですか!?」
先輩は獲得したクマを、隣で綿菓子を食べていた小径ちゃんにプレゼントした。
「わーい! 私、こういうの貰うの初めてです! ノルマ達成より嬉しいかも!」
チョロい死神は、クマを抱きしめて満面の笑みを浮かべた。
一方、その隣の「金魚すくい」では、見慣れた鋼鉄の背中があった。
『ぬんっ! ……ああっ、また破れた!』
浴衣(特注サイズ)を着たメカ校長が、繊細なポイ(紙)を扱えず、水につけた瞬間に破壊していた。
「……ちょっと校長。場所取りはどうしたんですか?」
俺がジト目で聞くと、校長は振り返り、サングラスを光らせた。
『安心しろ少年。場所取りなら完了している』
校長が指差した先――神社の石段の一等地に、巨大な鉄骨(工事現場用)がドスンと置かれ、そこに油性ペンで『加藤』と書かれていた。
「いや邪魔だよ!! どうやって運んだんだ!」
『ワシのパワーなら造作もないことだ。誰も動かせんから安心だぞ』
「撤去されるわ!」
校長は悪びれもせず、屋台に向き直った。
『それより平賀! 例のモノを出せ!』
「了解です校長! 『超撥水・チタン合金製ポイ(破れない)』です!」
『よし! これで一網打尽……』
「おじさん! それルール違反です! 出禁にしますよ!」
屋台の兄ちゃんに怒られ、メカ校長はシュンと小さくなった。
4. 祭りの終わり、秋の気配
祭りのフィナーレ。
俺たちは(鉄骨をどかして)神社の石段に座り、打ち上げ花火を見上げていた。
ヒュ〜〜〜……ドォォォン!!
夜空に大輪の花が咲く。
ドン、ドン、と腹に響く音。火薬の匂い。
隣に座る櫻子先輩の横顔が、花火の光で七色に照らされる。
「……綺麗ね」
先輩が呟いた。
「ええ。……すごい夏でしたね。校長がロボになって、先輩が蘇って、野球部が優勝して」
「ふふ。本当に、夢みたい」
先輩は、レースの手袋をした手で、俺の小指をそっと掴んだ。
「ねえ、ふるふる君。……夏が終わったら、秋が来るわね」
「そうですね」
「戸籍のことは解決したけれど……次は受験ね。私、古田くんと同じ高校に行けるかしら」
先輩の声が少し真剣になる。
蘇った彼女にとって、初めて挑む「未来」への壁だ。
49年前の学力(優秀だったはず)が通用するかは未知数だし、そもそも人形の体で受験勉強に耐えられるのか。
「……大丈夫ですよ」
俺は、先輩の指を握り返した。
「俺たちがついてます。平賀もいるし、塩原さん(才女)もいる。……それに、先輩なら絶対受かります」
「根拠は?」
「俺の勘です。……赤城直伝の」
俺が言うと、先輩は吹き出し、それから柔らかく微笑んだ。
「そうね。……信じるわ、あなたの勘」
ドォォォォン!!
最後の一発、巨大なスターマインが夜空を埋め尽くした。
その光の中で、俺たちは強く手を繋いだ。
祭囃子が遠ざかっていく。
俺たちの「3年2組の夏」が終わる。
そして、少し大人びた、切なくも忙しい「受験の秋」が始まろうとしていた。
(第139章 完)




