第138章:逆転のサイレンと、空を裂く大応援
1. 豪華すぎる応援席
灼熱の太陽が照りつける県営球場。
準決勝のスタンドは、異様な集団によって占拠されていた。
ドォォォォン!! ドォォォォン!!
腹に響く重低音。それは和太鼓ではない。
応援団長を務めるメカ校長が、持ち込んだドラム缶を**「空き缶プレスアーム」**で叩いている音だ。
「フレェーッ! フレェーッ! ア・カ・ギ!!」
その横で、声を張り上げているのは西野園櫻子だ。
今日の彼女はセーラー服ではない。黒の長ラン(男子の学ラン)に、白いハチマキ、白手袋という、**「硬派な昭和の応援団スタイル」**だ。
凛とした立ち姿と、ドスの利いた(でも美しい)掛け声に、周囲の観客がざわついている。
「差し入れよー! 高級肉まんを500個持ってきたわ!」
OGの本田キティ先輩(チャイナドレス+ジャージ)が、セイロを積み上げて配っている。
「……空き缶の回収は任せろ」
その横で、OBの溝渕福造先輩が、飲み終わった空き缶を瞬時にプレスしてリズムを刻む。
「……見えるよ。彼らの頭上に勝利の女神が」
スケッチブックを持った聖人・宇多川茂麻呂先輩が、試合を見ながらサラサラと「勝利の未来予想図」を描いている。
「な、なんですかこの集団は……。偏差値がおかしいです」
新米死神・雛菊小径がドン引きしているが、このカオスな応援こそが、俺たちにとって最強のバックアップだった。
2. 俺にしか捕れない魔球
試合は、壮絶な投手戦となっていた。
マウンド上の赤城烈兎は、汗だくになりながらも腕を振っている。
ズバァァァン!!
「ナイスボール!!」
キャッチャーミットを構える俺(古田降太)の手が、ジーンと痺れる。
今日の赤城の球は、重い。
ただ速いだけじゃない。**「最後だ」という執念(魂)**が乗っているせいで、ボールが不規則に揺れ動きながら突っ込んでくるのだ。
(……普通のキャッチャーなら、パスボールしてるな)
俺はしっかりとボールを抱え込んだ。
俺は野球のエリートじゃない。でも、1年の頃から「七不思議」や「怪物」相手に体を張り続け、赤城の暴投を受け止め続けてきた。
「どんな無茶なボールでも、古田なら捕ってくれる」。
その信頼があるから、赤城は迷わず腕を振れるのだ。
3. 最終回の悪夢と、継承された技
だが、ドラマは最終回(7回裏)に待っていた。
2-1でリードしていた俺たちだったが、連投の疲れが見え始めた赤城がつかまった。
ヒット、四球、エラー。
あれよあれよと言う間に、2アウト満塁の大ピンチ。
一打出ればサヨナラ負けの場面だ。
「はぁ、はぁ……くそっ、腕が上がらねぇ……」
赤城の呼吸が荒い。
ベンチ裏で、小径ちゃんがタブレットを見て青ざめた。
「ダメです! スタミナ切れ! 次のバッターは4番……被安打率98%! ここで打たれて逆転されます!」
絶体絶命。
マウンドに集まった俺に、赤城はニヤリと笑った。
「……古田。アレ、やるぞ」
「アレって……まさか」
「ああ。校長直伝の**『更生魔球』**だ」
俺は息を飲んだ。あれはメカ校長の「人外の握力」があって初めて成立する魔球だ。人間が投げれば肘を壊すかもしれない。
「一球だけだ。……お前なら、捕れるだろ?」
「……当たり前だ。どんと来い」
俺はマスクを被り直し、定位置に戻った。
赤城が振りかぶる。
握りはフォーク。バッターは「落ちる」と予測し、目線を下げた。
だが、赤城はリリースの瞬間、渾身の力でボールを切った。
ギュルルッ!!
ボールは低めに外れる軌道から、物理法則を無視してググッ!とホップした。
「なっ!?」
バッターが慌ててバットを出す。
ボールはバットの上っ面を叩き、真上に上がった。
ポーン……。
力のないキャッチャーフライ。
俺はマスクをかなぐり捨て、落下点に入った。
このボールには、赤城の、校長の、俺たちの全ての想いが乗っている。絶対に落とせない。
バシィッ!!
「アウトォォォーーッ!!」
ミットに収まった白球。
ピンチ脱出……かと思われたが、この回、押し出しと内野安打ですでに3点を奪われていた。
スコアボードを見る。
2対4。
俺たちは、2点を追う形で、最後の攻撃(最終回裏)を迎えることになった。
4. 繋がれた想い
最終回の攻撃。
応援団のボルテージは最高潮に達していた。
「かっとばせー! おーれーの、古田ー!!」
櫻子先輩が、学ランの袖をまくり、声を枯らして叫んでいる。
その声援に背中を押され、俺は執念の内野安打をもぎ取った。
続くボランティア部兼任部員(補欠)の安倍も、死神の確率計算を無視した「奇跡のデッドボール(お尻)」で出塁。
そして、2アウト満塁。
俺はセカンドランナーとして、赤城の背中を見つめていた。
バッターボックスには、4番・赤城烈兎。
一発出ればサヨナラ。アウトなら終わりの場面。
「ふぅ……」
赤城はバッターボックスで、静かに息を吐いた。
疲労はピークだ。腕も足も鉛のように重い。
だが、その目は死んでいない。
『赤城ぃぃ!! ワシの魔球を打ったお前が、そんなタマに負けるなぁぁぁ!!』
メカ校長の声が轟く。
(……ああ。聞こえてるぜ、校長。それに古田、櫻子さん、みんなの声も)
赤城はバットを構えた。
相手ピッチャーが投げた。渾身のストレート。
赤城は何も考えない。
ただ、後ろで待っている相棒(古田)と、スタンドの仲間たちのために。
**「直感」**だけで、バットを振り抜いた。
カァァァァァァァァン!!!!
5. 最高の夏
乾いた音が、青空に吸い込まれていく。
打球は、レフトスタンドの遥か上空、場外へと消えていった。
サヨナラ・逆転・満塁ホームラン。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
球場が揺れた。
俺は三塁を蹴り、一足先にホームベースを踏んだ。
そして振り返り、両手を広げた。
ダイヤモンドを一周し、ゆっくりと走ってくる赤城が見える。
その顔は、涙と泥でぐちゃぐちゃだった。
「赤城ぃぃぃぃ!!」
「古田ぁぁぁ!!」
ホームベースの上で、俺たちは正面から抱き合った。
汗臭いユニフォーム同士がぶつかり合う衝撃。
櫻子先輩が、なのはが、OBたちが、そしてメカ校長が、フェンス越しに涙を流して喜んでいる。
「測定不能……また測定不能です! なんですかこの学校は!」
小径ちゃんがタブレットを投げ捨ててバンザイしている。
スコアは6対4。
劇的な勝利で、俺たちの夏は、まだ続くことになった。
最高のバッテリーと、最強の応援団。
この夏は、一生終わらないんじゃないか。
そんな錯覚を覚えるほど、空はどこまでも青かった。
(第138章 完)




