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番外編6:暴走する魔改造車と、父への告白

ガレージの秘密、発覚


12月31日。大晦日の夜。 加藤家のガレージからは、重低音のアイドリング音が響いていた。

「……ふふ。点火時期、完璧ですわ」

加藤菫すみれは、ツナギ姿でボンネットの中に顔を突っ込んでいた。 愛車『TE27レビン』。 外見は昭和の名車だが、心臓部には最新のモンスターエンジン**『G16E-GTS』**が移植されている。 父には「ちょっと修理してるだけ」と言って誤魔化していたが……。

「……おい、菫」

「ひゃっ!?」

背後から声をかけられ、菫はレンチを取り落とした。 振り返ると、そこにはアロハシャツにダウンジャケットを羽織った父・**加藤起太郎(校長)**が立っていた。

「お、お父様! これは違いますの! ただのオイル交換で……」

「隠すな。……その音、3気筒ターボだな?」

父はニヤリと笑い、ボンネットの中を覗き込んだ。

「なんと……! 名機2T-Gを下ろして、GRヤリスのエンジンをぶち込んだのか!? しかもこのパイピング……美しい」

「え?」

父は怒るどころか、少年のようなキラキラした目でエンジンルームを撫で回している。

「すげぇ……! まさか私の娘が、ここまでイカれた(褒め言葉)チューナーだったとは!」

「……引かれませんの?」

「バカ言え! 男のロマンだ! ……よし、菫。エンジンをかけろ」

父は助手席に乗り込んだ。

「初日の出を見に行くぞ。場所は**犬吠埼いぬぼうさき**だ! このモンスターの性能、私に見せてみろ!」

爆走、湾岸線

「行きますわよ、お父様!」

ドギャアアアアン!!

レビンが弾丸のようにガレージを飛び出した。 大晦日の高速道路。 菫は水を得た魚のようにハンドルを操る。

「ヒャッハー! 速い! 速すぎるぞ菫!」

「当然ですわ! 300馬力オーバーですもの!」

父は助手席で大はしゃぎだ。 窓を開け、夜風を浴びながら「最高だー!」と叫んでいる。 その横顔は、79歳の老人ではなく、裏世界で見る25歳の冒険家のようだった。

(……お父様、こんなに楽しそうに笑う方でしたっけ)

菫は嬉しくなった。 最近、父は少し元気がなかった(体調不良を隠していた)からだ。 親孝行のつもりで、菫はアクセルを深く踏み込んだ。


犬吠埼の夜明け


千葉県・犬吠埼。 関東で一番早く初日の出が見られる場所だ。 私たちは灯台の近くに車を停め、ボンネットに腰掛けてコーヒー(缶)を飲んだ。

水平線が白んでくる。

「……いい車だ。お前の愛情を感じるよ」

父がコーヒーを啜りながら言った。

「ありがとうございます。……私、車とパソコンくらいしか趣味がなくて」

「何を言う。自慢の娘だ」

父の言葉が温かい。 波の音が響く中、太陽が顔を出し始めた。 神々しい光が、二人を包む。

「……ねえ、お父様」

菫は、朝日に勇気をもらって、ずっと言えなかったことを切り出した。

「私……好きな人が、できましたの」

「ん?」

父がサングラスをずらしてこちらを見た。

「ほほう! それはめでたい! どこのどいつだ? IT企業の社長か? それともレーサーか?」

「いえ……。お父様の、よく知っている方ですわ」

菫は頬を染め、小さな声で言った。

「**与市星一よいち せいいち**先生です」

安心して逝ける

「……ブッ!!」

父がコーヒーを吹き出した。

「よ、与市だとォ!? あの強面の!? 元・私の補導対象の!?」

「ええ。……不器用ですけど、真っ直ぐで、男らしい方ですわ」

菫は、街中でタチの悪いナンパから助けてもらったことや、そのお礼に首都高でドライブデートをしたことを話した。

父はしばらく呆気に取られていたが、やがて、クックックと肩を震わせて笑い出した。

「傑作だ……! まさか、手塩にかけて更生させた弟子に、娘を奪われるとはな!」

「う、奪われるだなんて……まだ片想いですわ!」

「いいや、あいつなら安心だ。あいつは私が保証する、最高のおとこだ」

父は、眩しそうに初日の出を見つめた。

「そうか……。菫にも、いい人ができたか」

父の声が、ふと優しく、そして少しだけ弱々しくなった。

「学校も、お前も、与市も……。みんな、前を向いて歩いている」

父は、満足そうに頷いた。

「……これで、私も安心して逝けるな」

「!」

菫はハッとした。 それは冗談めかした口調だったが、父の背中から漂う**「終わりの気配」**を、敏感に感じ取ってしまったからだ。

「……何をおっしゃいますの! 縁起でもない!」

菫は父の腕を掴んだ。 その腕は、かつての冒険家らしく節くれ立ってゴツゴツとしてはいたが、服の上からでも分かるほど、驚くほど細くなっていた。

「……お父様?」

「ガハハ! 冗談だ冗談!」

父は豪快に笑い飛ばしたが、その目尻には光るものがあった。 菫は、父の肩に頭を預けた。 エンジンの余熱と、父の体温。 ずっとこのままでいたいけれど、時間は止まってくれない。

「……帰りましょうか、お父様」

「ああ。安全運転で頼むぞ」

帰り道。 助手席で眠ってしまった父の寝顔を見ながら、菫はアクセルを緩めた。 この人が作った学校と、この人が繋いでくれた縁(与市)。 大切にしなければならないと、強く思った元旦の朝だった。


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