第120章:陰陽師の初恋と、届かない視線
図書室の死角
12月上旬。期末テスト期間中。 俺たちは図書室で勉強会を開いていた。 メンバーは、俺、赤城、なのは、塩原、そして1年の安倍清和だ。
「先輩。ここの数式、霊的結界の構築理論に似てますね」
「そうか? 俺には呪文にしか見えないけど」
安倍くんは優秀だ。1年生ながら、俺たち2年の勉強も見てくれている。 しかし、俺は気づいてしまった。 彼が解説の合間に送る、チラチラとした視線の先に。
そこには、必死に英単語を覚えている綿貫なのはさんがいた。
「う~……単語が頭に入らないよぉ……。古田くん、助けて~」
なのはさんが俺に泣きついてくる。 いつもの光景だ。彼女の視線は、常に俺に向いている。 俺は苦笑いしながらノートを見せる。
その様子を、安倍くんがじっと見ていた。 彼の瞳には、普段の生意気さはなく、どこか切なげな色が浮かんでいる。
(……マジかよ、安倍)
守護霊の暴露
休憩時間。 俺は安倍くんを自販機コーナーに連れ出した。
「お前さ。……なのはさんのこと、好きなのか?」
単刀直入に聞くと、安倍くんは麦茶を吹き出しそうになった。
「ブッ!! ……な、ななな何言ってるんですか古田先輩! 違いますよ! 僕はただ、部長の霊的防御力が低すぎるから心配で……!」
『嘘だー。キヨ、図書室でずっと「先輩の横顔、可愛いな」って思ってたでしょー』
安倍くんの背後から、守護霊の九がニヤニヤしながら現れた。
「う、うるさい九! 黙れ! 術で縛るぞ!」
「……やっぱりか」
俺は缶コーヒーを開けた。 安倍くんは、顔を真っ赤にしてうつむいた。
「……敵わないな。古田先輩には、全部お見通しか」
彼は観念してため息をついた。
「最初は、危なっかしい人だと思ってたんです。霊感ゼロなのに怪異に突っ込んでいくし、無防備だし。……でも」
安倍くんは、自販機の光を見つめた。
「あの人、真っ直ぐなんですよね。古田先輩のことが大好きで、一生懸命で。……その姿を見てたら、なんか、放っておけなくなって」
陰陽師の矜持
「……知ってるだろ? なのはさんが、俺のことをどう思ってるか」
俺は残酷な事実を確認した。 安倍くんは、寂しそうに笑った。
「知ってますよ。痛いくらいにね。……だから、僕は何も言いません」
彼は、陰陽師としての誇り高い顔に戻った。
「僕は、彼女が危険な目に遭わないように守るだけです。それが、僕なりの……推し活(?)ですから」
「……そっか」
「それに、古田先輩。あなたが中途半端な態度を取って彼女を泣かせたら、僕は容赦なくあなたを呪いますからね。覚悟しといてください」
「怖いよお前」
俺たちは笑い合った。 片想いと知っていて、それでも守ろうとする後輩。 彼もまた、この一年で大きく成長していたのだ。
「戻りましょう。……あ、この話、部長には内緒ですよ? バレたら僕、学校来れません」
「分かってるよ」
俺たちは図書室へ戻った。 なのはさんは、机に突っ伏して寝ていた。 安倍くんは、自分のカーディガンをそっと彼女の肩にかけた。
その手つきは、とても優しかった。




