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第118章:七色のバナナと、放置された引き継ぎ書 大晦日の惨劇


12月31日、午後。 俺、古田降太は、商店街の撤収作業を終え、帰路についていた。


「ふぅ……。今年も終わりか」

来年は3年生。勝負の年になる。 そう決意して一歩踏み出した時だった。 俺の足元に、黄色い物体があった。

「あっ」

認識した時には遅かった。 足の裏がツルリと滑る。 俺の視界の中で、踏まれたバナナの皮が宙を舞った。 それは空中で回転しながら、七色に発光し、幾何学的な軌跡を描いている。

(……アーティファクトだ!)

第60章で見た「スリップ・フルーツ」。 物理的に滑るだけでなく、時間軸まで滑らせる厄介な果実。

「ぎゃあああああああ!!」

俺の絶叫と共に、意識がグルグルと回転し、大晦日の景色がノイズとなって消え失せた。


過去への着地


「……ッ!!」

ドサッ! 俺は尻餅をついた。 目を開けると、そこは裏世界の園芸部のテラスだった。 しかし、空気が違う。大晦日のキリッとした寒さではなく、少し湿った、晩秋の匂いがする。

「……戻ったのうか? 過去に」

俺が身を隠した時、部屋の中から話し声が聞こえてきた。 ニャルラトホテプと櫻子先輩だ。

「ついに決まったで。次の死神が」

「えっ」

「名前は雛菊ひなぎく 小径こみち。死神学校を出たばかりの、ピカピカの新人ちゃんや」

ニャルラトホテプはホログラムで小柄な少女の姿を見せた。

「で、引き継ぎはどうするの?」

「せん」

「は?」

「引き継ぎなんか、せん! 面倒くさい! 退職届はもう出した! あとは知らん!」

ニャルラトホテプは高笑いと共に消え失せた。 俺は重大な情報を手に入れた。来年の春、何も知らない新人死神がやってくる。これはチャンスだ。


戻れない絶望と、希望


「……ふぅ。困った人」

先輩がため息をつく。 俺は観念して姿を現した。

「ふるふる君? どうしてここに?」

「実は、大晦日にバナナを踏みまして……」

事情を説明すると、先輩はクスクスと笑った。

「未来から来たのね。……でも、いいこと聞きました」

「はい。春にチャンスが来ます」

俺たちは頷き合った。 さて、情報の収穫もあったし、元の時間(大晦日)に戻って年越しそばを食べなければ。

「先輩。帰りますね」

「ええ。気をつけて」

先輩が花を手渡してくれた。 俺はその香りを吸い込み、思い切りくしゃみをした。

「へっ、くちゅん!!」

視界が反転する。 俺は現実世界へと弾き出された。

「……痛たた」

尻をさすりながら立ち上がる。 場所は、旧校舎の裏だ。 空を見る。夕暮れだ。 寒さは……あれ? 大晦日にしては暖かい。

嫌な予感がして、俺はスマホを取り出した。 画面に表示された日付を見る。

『11月1日(金)』

「…………は?」

俺は目をこすり、もう一度見た。 間違いなく、11月1日だ。 大晦日じゃない。2ヶ月戻っている。

「うそ……だろ……?」

俺は震える手で、ポケットの中の「スリップ・フルーツ(バナナの皮)」を確認しようとしたが、そんなものはどこにもない。 ただ、過去に飛ばされたという事実だけが残っている。

「戻れて……ない……」

昨日は10月31日。ハロウィンの夜に、スマホの容量オーバーで大騒ぎして、安倍くんと冥道掃除をしたばかりだ。 その記憶はある。つまり、「昨日の苦労(第114-115章)」は無駄になっていない。

「でも……ここから……」

ここからもう一度、11月、12月を過ごさなければならない。 期末テスト勉強も、クリスマスも、大掃除も、もう一回やり直しだ。

「め、面倒くせえぇぇぇ!!」

俺は頭を抱えた。 しかし、ふと思い直す。

(……待てよ?)

これから訪れる12月。 クリスマスには、先輩と**「クリスマスマーケットデート」**に行ったはずだ(第116章)。 あの時は初めてで舞い上がっていたけれど、2回目ならもっと上手くエスコートできるんじゃないか? プレゼントも、もっと良いものを用意できるかもしれない。 期末テストだって、出題範囲を知っている俺なら満点が取れる!

「……これは、**『強くてニューゲーム』**ってやつか?」

俺はニヤリと笑った。 人生のリテイク。 悪くない。 俺は、この「2回目の冬」を完璧に攻略し、最高の状態で3年生(運命の春)を迎えてやる。

俺は拳を握りしめ、11月の夕暮れを歩き出した。 とりあえず、明日の小テストの答えを思い出すところから始めよう。


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