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第116章:聖夜の市場と、飛び出すサンタクロース スマホの中のクリスマスイブ


12月24日。クリスマスイブ。 世間が浮かれるこの日、俺、古田降太は、自室でスマホの画面を見つめていた。


『ねえ、ふるふる君。「クリスマスマーケット」って知ってる?』

アプリの中の櫻子先輩が、サンタコスプレ(ミニスカ)姿で目を輝かせている。 部屋の内装もツリーやリースで完璧にデコレーション済みだ。

「知ってますよ。ドイツとかの祭りを模したイベントですよね」

『ネットで見たら、すごくキラキラしてて、ホットワインとかソーセージとか、素敵なものがたくさんあるみたいなの。……行ってみたいわ』

先輩が上目遣いでお願いしてくる。 断れるはずがない。 俺は防寒着を着込み、モバイルバッテリー(重装備)を確認した。

「行きましょう。俺たちのクリスマスデートです」

『やった! ありがとう、サンタさん!』


光の市場


電車で向かったのは、横浜の赤レンガ倉庫で開催されている大規模なクリスマスマーケット。 会場は、無数のイルミネーションと、木の小屋ヒュッテが立ち並ぶ、光の国だった。

「すごい人だ……」

カップルだらけだ。 俺は一人(+スマホ)だが、心は折れない。先輩がいるから。

『わあ……! 綺麗! 本当に宝石箱みたい!』

俺が掲げたスマホの画面で、先輩が歓声を上げる。 大きなクリスマスツリー、輝く装飾、そして楽しげな音楽。

「ホットチョコレート買いましたよ。匂い、届かないけど」

『いいの。あなたが「美味しい」って顔をしてくれれば、私にも伝わるから』

俺たちは人混みを歩きながら、幸せな時間を共有していた。


先輩カップルの目撃


「……ん?」

大きなツリーの下で、見覚えのある二人組を見つけた。

ロングコートを優雅に着こなす美女と、無骨な革ジャンを着た強面の男。 ボランティア部部長の本田キティ先輩(3年)と、副部長の溝渕福造先輩(3年)だ。

「あれ、キティ先輩と溝渕先輩?」

二人は並んでベンチに座っていた。 キティ先輩の手には、顔ほどもある巨大なターキーレッグ。 溝渕先輩の手には、ホットワイン。

「溝渕様。このターキー、骨の処理が甘いですわ。……ガブッ」

キティ先輩が豪快に(しかし優雅に)肉にかぶりつく。 溝渕先輩は、無言で紙ナプキンを差し出している。

「……ありがとうございます」

「……うむ」

会話は少ない。 でも、その空気感は、長年連れ添った夫婦のように落ち着いていた。 二人の間には、確かに信頼と、淡い恋心のようなものが流れている。

(……邪魔しちゃ悪いな)

俺は声をかけずに、その場を離れた。 ボランティア部の先輩たちにも、素敵な春が来ますように。


聖人のライブペイント


会場の奥、イベントステージの方からどよめきが聞こえてきた。 人だかりができている。

「なんだろう?」

『行ってみましょうよ!』

近づいてみると、そこでは「ライブドローイング」が行われていた。 巨大な白いキャンバスの前で、ペンキまみれになって筆を振るう男。

「……あれは」

ボロボロの作務衣に、ペンキで汚れた顔。 しかし、その背後には後光が差している。 宇多川茂麻呂先輩だ。

「見える! 見えるぞ! 聖なる夜の奇跡が!」

先輩は叫びながら、全身を使って描いている。 そこに描かれていたのは、サンタクロースとトナカイだった。 しかし、ただの絵ではない。

トナカイの筋肉の躍動感、サンタの袋から溢れ出るプレゼントの質量感。 そして何より、「今にも画面から飛び出してきそうな」圧倒的な迫力と生命力。 いや、実際に見ていると、絵が手前に浮き出ているように錯覚する。

『すごい……! まるで3Dね!』

「いや、これ多分、本当に飛び出そうとしてるぞ」

宇多川先輩の「聖なる描画力(現実改変)」が、絵に仮初の命を与えかけているのだ。 サンタの目がギョロリと動き、俺と目が合った気がした。

最高のプレゼント

「完成だ……! 名付けて『聖夜の突撃メリー・アタック』!!」

宇多川先輩が筆を置くと同時に、絵の中の鈴が「シャンシャン」と鳴った(幻聴ではない)。 観客から割れんばかりの拍手が巻き起こる。

「ブラボー!」 「神々しい!」

先輩は満足げに手を振り、そして群衆の中に俺を見つけてウインクした。

「メリークリスマス、迷える子羊よ。……君にも、祝福があらんことを」

先輩が指差した先。 空から、白い雪が舞い降りてきた。 ホワイトクリスマスだ。 (※予報では晴れだったはずだが、先輩の絵の影響かもしれない)

『雪……! ふるふる君、雪よ!』

「はい。……最高ですね」

俺はスマホの画面についた雪を拭った。 冷たくて、でも温かい。 俺たちのクリスマスは、奇跡のような景色の中で幕を閉じた。

帰り道。 俺はコンビニで、宇多川先輩への差し入れ用(鎮静用)に「胡麻クッキー」の材料を買って帰ることにした。 あの絵、放っておくと本当に夜中に動き出してプレゼントを配り歩きそうだからだ。



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