第107章:校内SNS「櫻の樹」と、真空管の遺産
デジタルな修学旅行
9月中旬。 文化祭の準備と並行して、2年生は修学旅行のガイダンスを受けていた。 体育館のスクリーンに、担任の角田先生がスライドを映し出す。
「えー、今年の修学旅行には、新しい試みを導入する!」
『課題:校内限定SNS「櫻の樹」への投稿』
「各自のスマホを使い、班別行動の様子や発見したものを、このアプリにリアルタイムでアップしろ! 最も『映え』ていて『学び』のある班には、単位を与える!」
「おおーっ!」
生徒たちがどよめく。 スマホ持ち込みが公認されただけでなく、授業の一環として堂々と使えるのだ。 「櫻の樹」というネーミングも、この学校らしくて生徒には好評だ。
しかし、俺、古田降太の顔色は優れなかった。
(……マズいな)
SNSへの投稿。つまり、常にカメラを起動し、通信し続けるということだ。 ただでさえ燃費の悪い「櫻子先輩アプリ」をバックグラウンドで動かしながら、写真や動画を撮りまくる? 俺のスマホのバッテリーは、京都駅に着く前に蒸発するだろう。
「……やるしかない」
俺は決意した。 この問題を解決する「鍵」は、過去の冒険の中にあるはずだ。
再び、電脳宮へ
放課後。俺は電車に飛び乗り、秋葉原へと向かった。 目指すは裏路地のジャンクショップ『電脳宮』。
「ご無沙汰してます、博士!」
「む? ……おお、古田少年か」
店主の博士が、ハンダごてを置いて顔を上げた。
「どうした、またスマホのデータが飛んだか?」
「いえ、今回はハードウェアの相談です。……もっと、大容量のバッテリーが欲しいんです」
俺は事情(修学旅行で一日中起動させたいこと)を説明した。 しかし、博士は首を振った。
「無理じゃな。あのアプリの消費電力はスパコン並みじゃ。物理的なバッテリーを増やせば、重すぎてお前が潰れるぞ」
「そこをなんとか……! 何か、エネルギー効率を劇的に上げる方法は……」
俺は必死に食い下がった。そして、ふと思い出した。
「博士。……以前、『多言語ラジオ』を修理しましたよね?」
「む? ああ、あの真空管オバケか」
「あの時、博士は言いましたよね。『真空管は熱(念)を持つほど良い音を拾う』って。……あの仕組み、逆用できませんか?」
俺の提案に、博士のメガネがキラリと光った。
「……ほう?」
「あのラジオは、周囲の『霊的な雑音』を拾って、音声(電力)に変換していました。その『変換機構』を小型化して、スマホケースに組み込めれば……!」
「周囲の霊気を、電力に変換する……か」
博士はニヤリと笑った。
「面白い! 『霊力回生エネルギーシステム』じゃな! よし、やってやろう! あの真空管の解析データはある!」
真空管の遺産
博士は店の奥から、以前の修理で採取したデータと、予備の真空管パーツを取り出した。 そして、徹夜の作業が始まった。
「回路を焼き切れ! 呪術的バイパスを繋げ!」
俺も手伝い、微細な部品を組み込んでいく。 七不思議の一つ「多言語ラジオ」の技術が、最先端のスマホケースへと昇華されていく。
数時間後。 完成したのは、無骨な黒いスマホケースだった。 背面には、極小の真空管のようなパーツが埋め込まれ、鈍い光を放っている。
「名付けて『ファントム・チャージャー』。周囲の霊的磁場を吸収し、バッテリー残量を維持、あるいは回復させる」
「ありがとうございます、博士!」
「礼はいらん。……その代わり、京都の『心霊写真』が撮れたら見せてくれよ」
やはりこの人はブレない。
園芸部での起動実験
その夜。 俺は早速、ケースを装着して裏世界の園芸部へ向かった。
「先輩! 新装備です!」
俺はスマホをテーブルに置いた。 画面の中の櫻子先輩が、不思議そうに覗き込む。
『あら、ゴツイわね。……でも、なんだか体が軽いわ』
園芸部は、櫻子先輩と加藤先生の「想い」で満たされた、高濃度の霊的空間だ。 スマホのバッテリー表示を見る。
『85%』……『86%』……『87%』
「増えてる……!」
コンセントに繋いでいないのに、数字が増えていく。 霊気を電力に変換している証拠だ。
「成功だ! これなら、京都でも一日中持ちます!」
『すごいわね。……ふふ、まるでこの場所(学校)の空気を、お弁当箱に詰めて持っていくみたい』
先輩は嬉しそうに笑った。
「加藤先生、見てください! ラジオの技術が役に立ちましたよ!」
テラスで筋トレをしていた加藤先生(25歳)も、感心して寄ってきた。
「ほう。過去の遺産が、未来を切り開く鍵になったか。……まさに冒険だな、少年」
俺はスマホを握りしめた。 このケースがあれば、どこへだって行ける。 学校の課題(SNS「櫻の樹」)も、先輩とのデートも、両立できる。
「待ってろよ、京都」
俺はリュックに旅のしおりを詰め込んだ。 準備は整った。 いよいよ、2年生最大のイベント、修学旅行が幕を開ける。




