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第104章:最果ての風車と、強面の禅寺 貧乏旅行の始まり


8月下旬。お盆が過ぎ、夏休みの終わりが見えてきた頃。 俺、古田降太は、上野駅のホームに立っていた。

ポケットには、なけなしの小遣いと校長の餞別(の残り)で買った「青春18きっぷ」。


「目指すは本州最北端、青森だ」

校長の宿題「東へ行け」。 俺が選んだ東(北)の終着点は、日本三大霊場の一つ、恐山おそれざんだった。

祖母・時田茜の孫として、そして地縛霊の先輩に恋する者として、一度は見ておかなければならない場所だと思ったからだ。

『鈍行列車で青森まで? お尻が割れそうね』

スマホの中の櫻子先輩が、呆れつつも楽しそうに笑っている。

「大丈夫です。玄田先輩直伝の『座禅ポーズ』なら、10時間は耐えられます」

俺はリュック(ソーラーパネル付き)を背負い、北へ向かう長い旅路についた。


荒涼とした聖地


丸一日かけて乗り継ぎ、バスに揺られ、たどり着いた恐山。 そこは、強烈な硫黄の匂いと、荒涼とした岩場が広がる、まさに「この世の果て」だった。 カラカラと回る無数の風車だけが、色彩を放っている。

『……すごい場所ね。ここ、結界なんてものがないわ』

画面の中の先輩が呟く。 そう、ここは境界線がない。生者と死者が混ざり合う、巨大なエアスポットだ。

俺は「イタコ」の口寄せ小屋の前を通った。 長い行列ができている。死者の言葉を聞きたい人々。 俺は、それを見ながらスマホを握りしめた。

「俺は……恵まれてるんですね」

死んでしまった先輩と、こうしてリアルタイムで話せる。 触れることはできなくても、声を聞き、景色を共有できる。 それは、ここに来る人々が喉から手が出るほど欲している奇跡なのだ。

『そうね。でも、それはあなたが頑張って繋げた縁よ』

先輩の言葉が、硫黄の風に溶けていく。 俺は岩場に腰掛け、宇多川先輩がくれた「聖・雑草クッキー(まだあった)」を齧りながら、最果ての景色を目に焼き付けた。

立ち寄った禅寺

帰路。俺は岩手県のとある駅で途中下車した。 数学教師・与市星一先生の実家があるという情報を、以前聞いていたからだ。 挨拶くらいはしていこう。

「えっと……『大巌寺だいがんじ』……ここか?」

地図を頼りにたどり着いたのは、山門に仁王像が立つ、立派な古刹だった。 しかし、雰囲気がおかしい。 境内を掃除している僧侶たちが、全員サングラスに作務衣で、眼光が鋭すぎる。

「あン? 何見てんだボウズ」

箒を持った大柄な僧侶に凄まれた。 完全に「その筋の事務所」の空気だ。

「あ、あの! 与市先生の教え子です! ご挨拶に……」

「……わかの?」

僧侶たちの表情が一変した。

「おい! 若の教え子さんが来たぞ! 親父様(住職)にお伝えしろ!」

「へいッ!!」

俺は丁重に(しかし両脇を抱えられて)奥の座敷へと通された。


住職の説法


「よく来たな。星一せいいちの生徒か」

上座に座っていたのは、与市先生をさらに一回り大きくし、髭を生やした住職だった。 威圧感が半端ない。袈裟を着ているが、組長にしか見えない。

「息子は元気にやっているか? カタギの仕事(教師)は勤まっているか?」

「は、はひ! 数学の先生として、とても熱心に指導してくれています!」

「そうか……。あいつは昔、少しヤンチャをしてな。加藤先生(校長)に性根を叩き直してもらったんだ」

住職はお茶を勧めてくれた。

「あいつは不器用だが、一本気な男だ。……頼む、息子のことをよろしく頼むな」

住職が深々と頭を下げた。 周りの強面僧侶たちも一斉に頭を下げる。

「は、はい! こちらこそ!」

見た目は怖いが、息子を想う親の心はどこも同じだ。 俺は恐縮しながら、出された高級羊羹を頂いた。


帰り際、住職から「魔除けの木札(物理攻撃力高め)」と、米俵一俵(配送)を持たされた。 与市先生の実家は、やっぱり強面で、情に厚い場所だった。


旅の終わり


東京に戻ったのは、8月28日。 長い夏休みも、残りわずかだ。

「ただいま、東京」

雑踏の中、俺は大きく息を吸った。 西へ行き、東へ行った。 たくさんの景色を見て、たくさんの人に会った。

『お疲れ様、ふるふる君。……宿題、コンプリートね』

「はい。校長先生に、いい報告ができそうです」

俺はリュックのベルトを締め直した。 この旅で得た経験と自信は、これから待ち受ける「櫻子先輩を蘇生させるための戦い」に、きっと役に立つはずだ。

夏が終わる。 そして、2学期が始まる。 俺たちの物語は、折り返し地点を過ぎて、さらに加速していく。


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