第十一話:意地をはりな
扉を開くと、複数の視線がムイタ達に突き刺さる。
外見からは想像できないほどに広い部屋だった。複数の建物に挟まれるような入り口だったが内部は繋がっていたようだ。
煙草と酒の匂い、正面にカウンターがあり革製のズボンとジャケットを着た老婆が足を乗せている。
冒険者と思われる人が10人ほどその部屋にいたが、無言で左右に分かれて道ができる、その先には老婆が煙管を咥え紫煙を吐きながら二人を見つめていた。
ムイタはその中を真っすぐ歩き、ユウサリはその後ろについて歩く。
手汗をズボンで拭き、帽子を上げ冒険者の認定証を老婆の前に置いた。
「紹介されてきたんだ。……俺を冒険者にしてくれ」
静かにムイタはそう言った。老婆をカウンターから足を引っ込めることなく、ムイタを見ている。
「……遅かったね。コルトのジジイから話は聞いているよ。後ろの嬢ちゃんのことは知らないがね」
「……付き添い?」
ムイタを見ながらユウサリが首を傾げる。
「いや、聞かれてもこまるけどよ」
「ニャス!」
忘れんな、とでもいうようにルビーも帽子の上で鳴く。
「騒がしいのは大好きさ。それで、冒険者になりたいって話だね。確かにここは冒険者ギルドさ、極小規模だがね。あんたをここを拠点とする冒険者として登録することはできる」
「なら頼む。金ならあるんだ、魔石を換金して――」
ムイタの言葉は老婆の視線で遮られた。細身の老婆とは思えぬ気迫に動けなくなくなる。
ユウサリは静かに、ムイタを見ていた。
「わざわざこんな所で登録をするなんて、全うな方法じゃダメだったって話だよ。わざわざここに来た理由をいいな、一応あたしだってギルドマスターとしての責任ってのがあるからねぇ」
老婆の質問に息を飲む。いくつもの言い訳が頭をよぎるが、目の前に置いた認定証を見ると気持ちがそのまま口からでた。
「俺の守護神は【シュタール】だ。神殿で他の守護神から加護は貰えなかった。冒険者には向かないって、どこのギルドへ行っても仮登録もさせてもらえなかったんだ。でも俺は諦められなくて……」
「坊や、そんなことはどうだっていいのさ。例え【シュタール】が守護神でも冒険者になったやつなんて、いくらでもいるよ。……証明書には拠点とするギルドの名が刻まれる。ギルドの看板を背負うんだ、あたしを納得させてみな。三度は言わないよ『わざわざここに来た理由をいいな』」
街のギルドで聞いたジグや他の冒険者の嘲笑が脳裏に響く。
クジカタの罵声も、ムイタ自身の言葉も。
『お前は冒険者になれない』
その言葉がグルグルと耳の奥で回る。
「……逃げるの?」
背後からユウサリの声が聞こえた。
振り返ると紅い瞳がムイタを見ていた。
……あなた、なぜ冒険者をしてるの?
迷宮でのユウサリの問いかけを思い出す。
その時俺はどう答えたっけ?
歯を食いしばり、ムイタは正面を向き老婆を見据えた。
「……っ俺の守護神は【シュタール】だ。他のギルドでは仮登録すらしてもらえなかった。試験も受けれなかった。レベルが上がっても、一階層どまりだった。……だからなんだってんだよ!! 知ったことかよ!! 見てろ、俺は絶対強くなってやる。冒険者になって……ガキのときに憧れた英雄になって見せる。ここで俺を登録しないと絶対後悔するぞ」
部屋が静寂に包まれ、次の瞬間に笑い声が響き渡る。
だけどもそれはかつてムイタに浴びせられた嘲笑ではなかった。
「ガッハッハ、いいぞ坊主。気に入ったぜ。頑張りな」
「いいわねぇ、眩しいわ」
「ほっほ、【シュタール】が守護神の冒険者。よい詩が生まれそうです」
「ケッ、どうせすぐに死ぬぜ。……防具の手入れはしてやるよ」
それまで黙っていた周囲の冒険者達が次々にムイタの背中を叩く。
老婆は足を下げて、煙管を証明書に叩きつけた。
甲高い音が響き、煙管があげられると、金属片には文字が刻まれていた。
『ギルド:愚者の酒場』
「フン、下手くそな啖呵だね。酒のツマミにもなりゃしない、歓迎するよ坊や」
老婆の言葉が引き金となり、冒険者達のジョッキを合わせる音が部屋のいたるところ鳴らされた。
ここまでよんでくれた貴方に格別の感謝を。
ブックマーク&評価ありがとうございます。モチベーションがあがります。




