第十二話:白炎VS炎獅子
ムイタは震える手で証明書を手に取り、しばらく立っていた。
嬉しさよりも不安が先立つ、しかし逃げるなんて選択肢はない。
様々な感情が巡るムイタの横からユウサリが手を伸ばし、カウンターに自分のタグを置いた。
「……」
「ん? なんだい。お嬢ちゃんもここを拠点にするのかい?」
「……(コクリ)」
「俺に付き合う必要なんかないぞ、ユウサリなら中央の大手ギルドにだっていけるだろ」
ユウサリは無表情のまま動かない。その様子を見て老婆はため息をついた。
「嬢ちゃんは、巷で噂になっている『白炎』だね? ここに入りたいなら好きにすればいいさ。ただし、このタグには別のギルドが仮拠点として登録されてるね。解除しないとうちには入れないよ」
「……?」
理解できないとユウサリが首を傾げる。
「心当たりがないのかい? おおかたどっかのレイドか遠征に同行したんだろ。そこで仮登録で唾つけられたんだね」
その言葉を聞いて、無言でタグとムイタの腕を掴みユウサリは踵を返す。
その細腕からは想像もできないほどの強い力に、成すすべなくムイタは引きずられ、あっという間に外まで連れていかれ、それを見て、周囲の冒険者達は笑いながらヤジを飛ばす。
「おい、ちょ、待てよ。ギルドの案内とか、色々やることが」
「……後で」
「いや、一人で行けよ。俺関係ないだろっ!!」
「……ないの?」
唐突に止まり、紅い瞳がムイタを見る。
無表情ではあるが、その声色は微かに震えすがるようだった。
「ない……わけじゃない」
ハンチング帽を目深に被り、耳まで真っ赤にしてムイタはそう言った。
「……」
「おい、なんか答えろよ。引っ張るなって!」
「ニャス、ニャス」
まったくとルビーが鳴き。結局ムイタは顔を赤くしたままユウサリと街の中心街まで進んでいった。
街の中心街は、ダンジョンの入り口からほど近く、大手のギルドが軒を連ねている。
普段は、近づくこともない中心街にビクつくムイタを連れてユウサリは迷いなく、一際大きく派手な装飾が施された建物に入って行く。
ちなみに、引きずることはしてないが、ムイタの手は話していないため外で待っていようとしたムイタも問答無用に入っていた。
中は、ギルドというよりは高級なホテルのエントランスのようで、食事処や武器、防具、装飾を取り扱っている行商もいるようだ。冒険者達もきらびやかな防具を身に着け従者や奴隷に身の回りの世話をさせている。何もかもが中堅以下のギルドとは違う場所だった。
そんな中、油と煤まみれのムイタの姿は目立ち周囲の視線を引き付ける。
それが目が覚めるような美少女と一緒であるならなおさらだ。
「あん? おいなんでテメェがいるんだ。ムイタぁ!」
その声はムイタと同じ孤児院で育ち、ムイタより先に冒険者になったジグだった。
「ジグ、お前中堅ギルドにいたんじゃないのか?」
「俺は、このギルドを仮登録してんだよ。オメェみたいな落ちこぼれと違うからな」
「そうか、悪いが、急いでるんだ……コイツがな」
指さす方向には無表情で進むユウサリ、それを見てジグは息を飲む。
「そいつ『白炎』か!? なんでお前なんかと……」
「知ってんのか? まぁいいや、待てよユウサリ」
茫然とするジグを置いてムイタはユウサリに並ぶ。
ユウサリは受付の前に立ち、タグを叩きつけるように置いた。
その様子に受付嬢は困惑している。
「えと、ご用件は何でございましょうか?」
「……(ジー)」
ユウサリはここでなぜかムイタを見る。
「えっ!? 俺が言うのか?」
「……(コクコク)」
「自分で言えよ!?」
「………………」→(徐々に圧迫感が増している)
「わかった、わかったから!」
あっさりと陥落。なんだかいいように使われてないかと嘆息し、受付嬢に割って入ろうとすると。
スタッフをかき分けて、眼鏡をかけた女性が出てきた。いままで対応してくれていた受付嬢に変るようだ。
「失礼いたしました。ここからは私、ベスチカが対応します。ユウサリ様ですね。後ろの方は……」
「付き添いです」
「……(コクリ)」
先ほどとは逆の自己紹介をする。ベスチカはムイタには興味などないとユウサリに向き直る。
「お待ちしておりました、ユウサリ様。遠征での活躍による追加報酬が用意できておりましたので。すばらしい戦果を挙げた功績により、あなたに一流ギルドである『猛煙の宴』を拠点にする権利が与えられます。さぁすぐに手続きを――」
「仮拠点の解除」
それほど声量があるわけでないのに、不思議とよく通る声でユウサリはベスチカの説明をさえぎった。
「……解除、なるほど。仮拠点であることを止めると言ことですね。もちろんです。すぐに正式な拠点として契約を――」
「契約はしない。ムイタと一緒のギルドに行く」
「がっつり喋ってんな」
「ニャン」
はっきりと宣言するユウサリに、ムイタとルビーが突っ込みを入れる。
普段からこれだけ喋ってくれれば意思疎通も楽なのだが。
「正気ですか貴女!? ここはこの街でも最高とされるギルドです。ハッ、もしや、引き抜きですか? それなら私達にはもっと良い条件が提示できます」
「今すぐ、仮拠点の解除をして」
「くっ」
説得を試みるも、一切揺るがないユウサリの圧力にベスチカがたじろぐ。
「おいおい、ベスチカさん。どうしたんですか?」
優しげな、男性の声が響く。燃えるように逆立った金髪に金と黒の鎧を着込み、鎧には【ファオジール】の紋章が彫られている。
「『炎獅子』のレオ……」
この街で最も英雄に近いとまで評される、冒険者がそこいた。
ダンジョンから凱旋するレオを何度も見たムイタが思わず呟くと、レオは長剣の鞘でムイタを打ち付けた。
「グフッ」
対応することもできず、ムイタは数メートルは吹っ飛ばされる。意識はあるが、衝撃で体が動かせない。
「悪いが、この場では規律を守ってもらおう。君に呼び捨てされては僕の面子に関わるんでね。ところで……なるほど、美しいね。陶器でできた人形のようだ、君がユウサリだね?」
レオが笑いかけるが、ユウサリは無視しムイタに駆け寄り頬をつつく。
「……弱い」
「かける言葉はそれかよ!」
「ミャア~」
女性に声をかけて、無視されるというのはレオにとって初めての経験だった。
青筋を浮かべるも、笑みは崩さず、なおもユウサリに話かける。
「フフフ、どうやら。少し変わった娘のようだね。契約の解除をしたいって話に聞こえたけど、困るね。君のような有望な冒険者はこのギルドにいるべきだ。特別に僕のパーティーに入れてもいい、ちょっとサービスしすぎかな?」
「……誰?」
ここで初めて視界に入ったというような、言うようなユウサリの反応。
一瞬でレオの頭に血がのぼる。
「この僕を知らないだと、おちょくるのもその辺にしろっ!」
好青年の仮面を剥がし、ギルド内であるにもかかわず抜刀。
ユウサリに切りかかる。
甲高い金属音、ユウサリも長剣を抜き円を書くように受け流す。
「レオ様っ! ギルド内の私闘は禁止されています!」
ベスチカの悲鳴のような警告が響く。
「これはギルドに相応しいかの試験だっ。入り口を塞いで窓も閉めろ」
その指示にジグを始め他の冒険者が答え、外からは中が見えなくなる。
上段に剣を構えなおし、レオは笑みを浮かべた。
「切りたくなった女は久しぶりだ」
「ユウサリ、逃げろっ!」
ユウサリはレオに背を向けて、ムイタを見た。
その表情は、変わらず無表情。
しかし、ムイタにはなぜかユウサリが笑っているように感じたのだった。
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