勇者連盟vs道具屋連合➅
雨か・・・しかも本降り。舗装された道が少ないため、靴やら衣服がすぐに汚れてしまう。水捌け用の設備があるはずもなく、水溜まりもそこいらにできていて移動するのも一苦労だった。飛んだり足元だけでも結界を張ったりということもできなくはないのだが、目立って良いことはない。怪しまれるだけだ。怪しまれた結果、実は勇者でしたなら外も盛り上がるかもしれないが、正体が大魔王では洒落にならない。静かに過ごしたいんだ。
階段を昇る前に道具屋うどんこがどうなっているかを見に行った。結論から言えば新地のままだった。そういえば、前魔王の政樹が護衛軍を引き連れて襲来したんだっけ。その後里の復興は進んだが、家主がいなけりゃ、店主がいなけりゃ、再出発するわけがない。何て無理矢理に納得したが、やはり正直寂しかった。何かを期待していた訳ではない。何もないだろうと分かっていた。けれども頭の中のイメージと実際に目にしたものを摺り合わせると、これが現実を突きつけられるという事なのかもしれないが、俺の道具屋としての原点が消えてしまった。
久々に見上げる長すぎる階段。誰が何の目的で作ったのかは解らんし、その頂きで飯屋を営もうなど、無謀ではないか。で、石段の終着先は雨雲の中に隠れて見えない。雨の止む気配もない。滑って転倒しないよう注意を払いながら1歩1歩昇っていく。さすがに道具屋の時のように息は切れ〃、汗はだらだらということはなかったが、やはり大変だ。その一方で雨の為に人が疎らなこと、視界も悪いし、傘で身を隠せるおかげでひっそりと歩けるのは有難い。
「いらっしゃいませ。」
「ひとりなんですが―」
「カウンター席、空いている所へどうぞ。」
母親と娘だろうか、店内は空いていて、客はカウンターで食事をしている2人だけであった。俺は反対側、右隅に腰を下ろした。
「雨の中、ありがとうございます。ご注文、お決まりですか?」
「えっと・・・『特葱うどん』、できますか?」
「あら、珍しいメニューをご存じね。かしこまりました、特葱ね。」
「特葱一丁ー!」
奥さんから厨房の旦那さんへ俺の注文が伝えられた。あの頃と同じように夫婦で切り盛りしているようだ。お2人共元気そうで何より。クゴートを去る前日、気を付けて行くんだよ、と出してくれた裏メニュー。思い出の品の再注文を受け付けてくれた。そして奥さんは、俺が道具屋の人間だと、多分、気付いているのではないかと思う。でも名乗らないということは何か理由がある、そういう所まで察してくれている。今、何しているんだい?俺が最も困る話の切り出しだ。記憶にあったうどんと寸分違わぬ商品が出てきた。麺もつゆも見えなくなる山盛りの葱。何も知らずに出されたら、うどんだなんて思わない。何がどうしてどうなったらこうなるんだ。自然と手が合わさって、いただきますと言っていた。その時。
「淳ちゃん?」
俺をちゃん付けで呼ぶ奴を俺は2人しか知らない。久し振りに聞いたなと思いながら声のした左側に顔を向けた。いつの間にか、反対側で食事をして親子連れの娘が、すぐ隣に立っていた。この俺に気配を感じさせないとはなかなかやるな。そうか、大きくなったじゃないか。間違いない、毎日店に遊びに来ていたフィオだ。懐かしいな、俺のことを覚えてくれているのか。
「道具屋さんは、もうやらないの?ずっとお店、ないまんまだよ。」
再開を待ってくれているのか、嬉しいな。そして、ごめんな。
「淳は僕の弟で、僕はユウと言います。君はフィオちゃんかな?」
「うん。えっと・・・淳ちゃんじゃないの?そっくり・・・・・・」
「よく間違えられるんだ。」
「声も一緒。」
「兄弟だからね。」
俺は心のどこかでこの虚言を用意していたのかもしれない。まっすぐこちらを見上げながら勇気をもって俺に話し掛けてきた少女に対して、よくもまあ滞りなく嘘を吐けるものだ。けれども絶対に正体は明かせない。
「淳は今、別の所で道具屋をやっているんだ。」
必死に耳を傾けているのは分かるが、瞬きはした方がいいぞ、フィオ。
「そうそう、フィオちゃんに淳から伝言を頼まれているんだった。」
「伝言?」
「必ず帰ってくるから、そしたらまた、店を手伝ってほしいってさ。」
「うん、いいよ。それまで待っているねって言っておいて。」
「分かった。必ず伝えるよ。」




