勇者撲滅計画③
俺が舞台袖からステージ中央へ歩いて行くと、ざわついていた会場が水を打ったように静かになった。それがまた緊張の度合いを膨れ上がらせた。唾を飲み込んだら会場中にゴクリという音が響き渡るんじゃないかと思わせる程だ。会場中の視線が全て俺に向かっていると思うと、雷撃なり剣なりをこの場でぶっ放したい気分だった。
なぜ人数が激増したかということだが、当初は武器屋と防具屋の店主のみが参加するはずだった。そこに道具屋が加わり、勇者も出席可能となって、勇者の連れも1名ならば参加が許可された。その結果、会場は会議室からコンサート会場へ移さざるをえなくなった。けれどもこれは妥当な変化で判断。小売りはもちろん、冒険者にとっても重大な変更であることは間違いないから。
演説台に原稿を置く。小田爺が気を利かせてくれたのだろう、すぐ隣に水も置いてあった。小田爺の直前の助言は、強気にいきなさい。わざわざ下手に出る必要はなし。意見を求める場ではなく、単に決定事項を発表する為の場。来場者の声を訊く機会ではなく、如月 淳の声を届けてやる会議。堂々としていなさい、そんな感じだった。百害あって一利なし、そんな報告を受けて会場はどんな感じになりますかね。暴動でも起こらなければいいですが―そんな心配をする俺に、力でねじ伏せれば宜しいかと、そう答える小田爺。発表を受けて、どう行動するかは受け手の問題。魔王が頭を悩ませてやることではございません。
「時間も限られていますので挨拶は省きます。発表の後、質疑応答の時間も設けておりますので、ご承知おき下さい。」
ゆっくり喋る。噛まないように。これだけを念頭に発表を開始した。
「それでは単刀直入に申し上げます。今後、武器や防具に耐久度が設定されます。これによって、武器や防具を使い続けると壊れます。」
にわかに会場がざわついた。どうやら俺のこの短い説明で状況の変化を悟ったようだ。
「具体的に説明致します。まずは防具、例として『鉄の鎧』を取り上げます。ご存じの通り、鉄の鎧は序盤から中盤にかけて防具屋で取り扱われます。防御力は50。装備可能な職業は勇者や戦士などの、重装備可能な近接系の冒険者です。」
知っているぞ、の空気を漂わせながらも皆、再び静聴の姿勢をとってくれている。それだけ意外性の強い第一声だったということでいいのだろう。
「さて、ここに耐久度という要素が加わります。行ってみれば防具の体力ということになります。」
プレゼンテーションに慣れた人であれば核心に触れる直前で間を取ったり、声を潜めたりするのだろうが、あいにく俺にその余裕はない。淡々と練習通り原稿を読み上げるだけ。
「鉄の鎧の耐久度は300。これがどの程度のものかと申しますと、モンスター『アーマーナイト』、攻撃力75の攻撃を120回程耐えられる計算になります―」
耐久度がゼロになった防具は消滅すること、道具屋等では引き続き買い取り業務を行わない為、これまで以上に預り所を活用して道具の所持数を管理すべきこと。そして防具の耐久度を回復させる手段は現状、存在しないことなどを説明した。
俺の声が道具屋や勇者達にどれ位まで伝わっているのかは定かでないが、聴衆のひそひそ話や独り言、溜息までもが俺の耳に届けられた。不思議とよく訊こえるのだ。言うまでもなく、文句や否定的な意見が8割方なのだが、発表という場に慣れてくると、この段階で質疑応答の準備を始めるという。予期していない質問が飛んできそうな場合は、この時点から答弁を考えるそうだ。到底、俺には無理だ。そしてその必要もなかった。小田爺の予測が完璧だったから。
「続いて、武器に関して説明致します。武器も防具と同様に耐久度が設定されます。敵を攻撃する度に耐久度が減少し、防具同様、ゼロになると消滅してしまいます。防具と比較すると耐久性が高く長持ちします。『鉄の剣』を例に挙げますと、こちらの耐久度は500。アーマーナイトを300回程攻撃すると耐久度がゼロとなり壊れてしまいます。防御力の高いモンスター程、攻撃した際に耐久度が大きく下がるということはご承知おき下さい。」
防具の説明の時と比べて、観客の雑談の声量が明らかに大きくなった。最後まで訊かなくても言わんとすることは分かるということと、武器のコレクターが相対的に多いということ。心境は理解できる。強い武器、お気に入りの武器、ラストまで使いたい武器を手に入れても、そのうち壊れてしまう。そんなのありえない。苦情が押し寄せるのは分かっていた。その為の質疑応答である。




