勇者撲滅計画④
こんな広い会場でどうやって質問を受け付けるのかと不安だったが、そこは小田爺。挙手した者の元へ秒で達し、マイクを向ける。会場の人間はいささか驚いていたが、小田爺にとっては it's a piece of cake なのである。
「武器や防具の耐久度を回復させる方法を教えて下さい。」
冒険者にとっての最重要項目。あとどれくらいで武器が壊れる、どの程度防具がもつ、そんなことは数値を見れば分かる。強い武器、防具、そしてお気に入りのアクセサリ等。冒険を進めるほどに個性や好みが色濃く出てくる。武器であれば攻撃力もさることながら、特殊効果や種類、名前や見た目も考慮して好みの武器を選ぶ。また敵に合わせて使用する武器を替える者もいる。店売りの商品だけでなく、イベントアイテムや宝箱から入手した物、モンスターのドロップアイテムなど。一目で惚れることもあれば、使っているうちに愛着が湧いてくることもある。ずっとこの武器を使い続けたい、ちょっとやそっとの代替品が出たって、簡単には手放さない。そんな素志が耐久度というシステムによって邪魔されるのだ。だからこの質問が真っ先に挙がったことは妥当であろう。
「え~・・・防具―鎧、兜、盾に関しましては、現状、回復手段はありません。当面の間、防具は使い捨てになるとお考え下さい。特にダンジョンなどへ挑む際は、防具の耐久度にご注意下さい。
次に武器ですが、後半から終盤の道具屋において『妖精の粉』というアイテムが販売されます。これで武器の耐久値を全回復することができます。価格はひとつ50,000ルナとなります。値は張りますが、冒険を進める上で不可欠なアイテムですので、ご活用下さい。質問の答えは以上です。」
人の感情がまるでオーラのように色を持って、湯気みたいにふらりと上昇していく。そんな幻覚が見えた気がした。今日一番、会場が騒がしく揺れた。言いたいことは多々あるだろうが、とりあえずは高ぇよ、ってことだよな。最高クラスの武器が買えるじゃねぇかと。
「何故、耐久度というシステムを作ったのですか?」
質問者は勇者だろうか。耐久度システムははっきり言って、冒険者達には何も利点がない。手間と心配の種が増えるだけだ。一方で小売り側にとってはリスクなしで販売が伸びる。こんなおいしい話はない。実は各店舗ごとに手数料を毎月徴収することになっていて、その案内も送付しているのだが、その料金を差し引いても大幅に店舗の収益はアップするはずだ。そう、俺のプレゼンテーションに対して、客席の感想ははっきりと二分される。○or×。売る側からすればルナが落ちてくるし、買う側は出費がいくら増えるか分からない。不安と不満しか残らない。どうして耐久度なんて、そう疑問を覚えるのは当然の成り行きだろう。
「より多くのルナを流通させる為です。特に貧しい村や里、今後発展していく為に多くのルナが必要な所にルナを落とすことが第一の目的となっております。」
自分の答弁に観客の納得を期待した部分も心のどこかにあった。はっきり言って、でまかせなのだが。しかし不服を訴えたのはやはり勇者。一部の勇者。割合は不明ではあるが、一握りという訳にはいかない雰囲気が光のベールの向こう側で漂っていた。物語の主役が文句を付け始めた、俺達の不安が増すだけだと。実際その通りなのだが、日々戦いに明け暮れる冒険者達がこうもはっきりと不満を爆発させるとは少し意外だった。不遇を受け入れた上で冒険を進めているのではないらしい。さて、露骨に不服を申し立てる勇者に魅力は感じないが、騒動は収めなくてはなるまい。
「そこで、勇者に新しいアビリティを付与します。」
今回の道具屋会議(もはや聴衆はちゃんぽん状態だが)、目玉はこっちなんだよな。
「それは、モンスターを仲間にできる能力です。」
小田爺はこんなことを言っていた。発表の場で乱れた集中力を再び集約する方法は2つ。とてつもなく素晴らしいアイデアを披露すること。それを準備できない場合は、思いもよらない発言やイベントを起こすこと。視線、ベクトル、集中力を一点に集中させることができる。
「それではモンスターを仲間にする手順を説明致します。」
場慣れも大切だが、プレゼンを楽しめるかどうかの鍵は事前準備。理想的な展開は落として上げる。もしくは切り札となる武器、ジョーカーを用意すること。今俺は騒いだり静まったりと忙しい観客の挙動を楽しむことができていた。コントロールできていると。
「仲間にできるモンスターは原則として、一般モンスターになります。中ボス等は以下の方法を用いても仲間にできませんのでご注意下さい。まずは世界のどこかにある『魔法の馬車』を探して下さい。その後、通常の戦闘をこなして頂き、戦闘終了後に倒したモンスターが仲間にしてくれと言ってきたら成功です。招き入れるも断るも自由。好みのメンバーを集めて下さい。なお、パーティーメンバーは4ぷらす。人間4人に加えて、モンスターも4体まで仲間にすることが可能です。馬車に入りきらないモンスターは各地の『モンスター預り所』に預けておくことができますが、その際に費用がかかりますので、詳細は預り所にて説明を受けて下さい。」
真新しい情報提供が都合よく展開すると、質問や興味を新情報に集中させられるというメリットが生じる。俺が馬車システムの情報を開示した途端、客の関心が耐久度システムから離れたのが手に取るように分かった。コツは、消したいテーマの情報開示を完結させること。そして、集中させたいテーマについては意図的に質問の猶予を残して開示することである。
全ての雑魚モンスターを仲間にできるのか―全部ではない。およそ3分の1。
戦闘後に必ず仲間になるのか―仲間になる確率はモンスターによって異なり、16分の1から256分の1まで幅がある。
モンスターもレベルアップするのか―する。人間と同様にレベルアップし、ステータスも上昇する。また、装備も可能。
会話のキャッチボールが流れに乗るとこれほど楽な展開はなかった。緊張などいつの間にか消えてしまった。気持ち良く発表を終えられた。答えられなかった質問は1問だけだった。
あなたは一体、どこのどなたですか?




