↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
49/94

ちょっと昔話を⑩

 「小田爺!?」

柳が珍しく大声を上げた。ヴォ~ンとダンジョン内に声が響く。名前を呼んだはいいが、次の言葉が出て来ない。本当に驚いたのだろう。大魔王のいる地下100階までもう少しという中、緊張感も高まっている状況で突然、顔見知りの爺さんが現れたら、心臓が一瞬止まったっておかしくない。しゃっくりは確実に止まるだろう。そしてやはり、疑ってしまう。何が起こるのかと。何をしに来たのかと。邪魔をするなと。

「小田爺・・・暇なのは分かりますが、こんな所に来たら危険ですよ。我々も忙しいですし。さっ、ケガしないうちにお帰り下さいな。」

やや道化て対応した柳を無表情に見つめる小田爺。嫌な予感が走る。そこにクォーダが割って入った。

「おい、爺さん。何しに来た。邪魔だ。消えな。」

「クォーダと言ったな。お主にも伝えねばならんことがある。」

「あん?」

 距離を取って歩いていた蓑口とラビが角を曲がって2人に追いつき、異変に気がついた。

「あら、小田のお爺さん?どうしてこんな所にいるのかしら?一体どうやって―」

蓑口の表情が曇る。叱咤激励に来たなどとは思えない。持ってきたのは悪い知らせに外なら二。けれども不安はさほど大きくなかった。何故ならば、何かあっても力づくでどうにかできる自信があったから。この4人ならば腕力と法術でどうにでもなるという確信。小田のお爺さんがまさかの中ボスということであったとしても恐れることはない。見た目や言動からは想像できない法力を持っていたとしても、返り討ちにできる経験と実力を兼ね備えていると自負している。ご希望とあらば、必要なれば、この場で披露することにためらいはない。

 「よくここまで来たの~。4人とも、本当に大したもんじゃ。無事で何より、何よりじゃ―」

 前置きから入った小田爺。心にもない前振り。嘘、偽りが見え見えの発言。労いの為だけに地下95階へ来るなどありえない。何をしに来た。この期に及んで俺達に何用だ。そもそもどうやってここまで来たのだ。俺達4人でも運が味方しなかったらどうなっていたか分からない。こんな爺さんがたった独り、誰の助けも借りずにここまで辿り着くことなど不可能。かと言って見たことも聞いたこともない道具を使って、ということも考えにくい。もしもそんなものがあれば、強引にでも奪い取る。それと、小田爺の魔法のレパートリーは知らないが、可能性があるとすればテレポート。4人の誰かを的に瞬間移動をしてきたというのが最も自然な解答。けれども、誰も魔光草を持っていない。色々とひっくるめて、あまりにタイミングが良すぎるのだ。 

 柳の頭の中を文字におこすとこんな風だった。


 小田爺が続けた。静かにゆっくりと。

「柳、クジャルカ。クォーダ、バードラック。蓑口、ミロン。ラビ、ココ。間違いないな。」

息を呑む4人。名前と共に挙げられたのは各々の故郷の名。

「小田爺、どうやってここまで―」

「今すぐに帰るのじゃ。」

柳の質問には答えず、続ける。4人の意志は統一されていて、場合によっては攻撃も辞さない。逃がしはしない。自然と4人で小田爺を囲む形で話を訊く。

「おぬしらがこの迷宮に入ってすぐ、魔王軍が進撃を開始した。各地、防衛線を張って対抗しておったが、魔王軍の攻撃は凄まじく・・・結界も役に立たず・・・壊滅状態となっている。すぐに故郷へ戻り、魔王軍を撤退させるのじゃ。これ以上被害を拡大させぬように。もはや、一刻の猶予も許されぬ。4人で行動を共にしていては間に合わぬ。各々、ひとりで故国へ戻られよ。では参るぞ。」

話を終えた小田爺は、法術を唱え始めた。選択の余地なく、粛々とイベントが進んでいった。

 そういう事か・・・強制イベント。この土壇場、終幕直前に入ってくるとは予想外だった。頭にはラスボスのことしかなかった。だから装備、所持品などの準備は万端。とはいえ、会話の流れからして、バラバラにされる。故郷という名の敵陣へ単騎突入することになる。どうなるのか―

 小田爺は策を練る時間すら与えなかった。

「まずはクォーダ、バードラック。」

暴れられては面倒だという配慮があったかは分からないが、最初に指名を受けたのはクォーダ。すっと掌をクォーダにかざした、ほんの一瞬。するとクォーダの全身が光り出し、ひと呼吸する間に青、緑、消失。クォーダを無理矢理に転送させた。

「次、ラビ、ココ。」

柳と蓑口の前で2人目、ラビも消えた。

 「小田爺、ちょっと待って下さい。単独ではなく4人で行動することは―」

質問の内容云々ということではなく目的は時間稼ぎ。そんな柳の思惑を知ってか知らずか、無視して自分の目的を遂行していく小田爺。

「蓑口、ミロン。」

「柳、向こうで会いましょう。」

「くそっ・・・」

向こうって一体どこだ、蓑口の故郷かあの世か、それとも別の場所か。

バイバイと悲しげに微笑み、手を振る蓑口に対して、全く反応を示せなかった柳。あまり全てが唐突だった。そして足掻こうと伸ばした手は簡単に振り払われてしまった。掴もうと握った指には何の手応えも感じられなかった。

「最後は柳。必ず戻って来い、4人でな。必ず・・・クジャルカ。」

柳の姿も消え去った。




 残念ながら、そこは見覚えのある風景。そうだな、見覚えがあるなんて言い方をしてはいけないか。見間違えるはずはない。故郷クジャルカ。小田爺によって一瞬で、ラストダンジョンから故郷に舞い戻らされた柳。

人の姿は見えない。敵の姿は至る所に。無意識のうちにぐっと歯を食いしばっていた。孫 悟空のように頭にはめられた輪っかが頭上に抜けていく感じがして、こめかみ辺りでバチバチっと音がした。生まれて初めて、頭に血が上るということを体感した。何がどうなろうと知ったことではない。

「殺す。」

ぼそりと、けれど意識して声に出し、吐き捨てた。駆け出す柳。手当たり次第に狩り出す柳。斬り出した腕が止まらない。圧倒した結果、クジャルカ中にモンスターの首が転がり、人の血とも魔物血とも分からぬ赤色に染まっていた。クジャルカを襲ったモンスター全てに対して有言実行を果たした。

「次・・・クォーダ・・・バードラック。」

柳が飛んで行った、バビューンと。

 バードラックは壊滅状態に違いなかった。違いなかったが、モンスター共は全滅していた。バードラックを守り抜いたのはクォーダ。力任せ、感情のままに暴れたであろうクォーダは教会の前にいた。助太刀の必要がないと分かればすぐに他の2人の所へ向かうつもりだったが、いつになく小さな背中のクォーダに引き寄せられる柳だった。

 「クォーダ・・・・・・」

届きそうもない清涼で呼び掛けた柳。そこから言葉を紡ぐことはできず、不自然な距離を残したまま足が動かなくなってしまった。クォーダの腕の中で眠る小さな女の子。不慣れな手付きで、けれども優しく、そして自分が触れることを謝るかの如く震え惑いながら視線を落としていた。

「柳よ・・・俺は残る。悪い。」

護国の華として散るなれば本望だった。その為に故郷を旅立ち、全てを片付けて帰ってくるはずだった。柳となら、4人なら可能だと―それが今、故郷は無残な姿で自分を迎えた。わざわざ出向く理由が見えなくなってしまった。もう、いい。俺はここに残り、ここを守る。

「クォーダ、ありがとうございました。俺は蓑口とラビの所へ行きます。」

後にも先にも、クォーダが謝ったのはこの時だけだった。

 蓑口、ミロン。蓑口の戦い方は先の2人とは異なっていて、守りを優先した。人的被害をこれ以上拡大させないこと。建物や家畜は二の次として、とにかく人命を最優先。人々を集め、全法力を使って結界を張る。こうしてモンスターが立ち去るのを待つしかない。そう思っていたが、幸運なことにその必要はなかった。いや、嘘だ。必ず柳達が来ると信じていた。だから希望を捨てることなく守りに徹することができた。そして勇者が助けに来てくれた。

「遅くなって済まない。そのまま結界の中で待っていろ。すぐに片付ける。」

頷く蓑口。素直に指示に従い、若干言葉遣いの悪くなった柳の背中を見つめていた。

 やがてミロン中の魔物を倒した柳に対して届けた言葉は、

「私、しばらくここに残ります。ごめんなさい。」

「どうもありがとうございました。俺は、ラビを助けに行ってきます。」

 ラビ、ココ。柳が目にしたのは全滅した村。人がいない。モンスターもいない。至る所で炎が上がっていて、無人の村をいまだに侵食していた。全てを滅ぼした張本人はラビ。ラビを探す柳。やがて村の中央付近で倒れているラビを発見。迷うことなく禁忌の法を唱えた。ラビの記憶が分断され、法力が抑制される封印石が有効化された。柳の強さと引き換えに。


 果たして強制イベントだったのか。小田爺が一体何者なのか。3年近く経った現在も謎のままだった。他にも理由の分からないこと、説明のつかないことがあって、例えばこの間、小田爺が柳一行の英雄譚(たん)を拡散した。嘘も事実も一緒くたにして。クレイジーソルトはともかく、伝説人はいわば作られたパーティーだった。

 柳達が再会を果たすのは当分先。如月を介してから。運び屋、宿主、鍛冶屋、そして道具屋のアルバイトとして。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。