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道具屋会議④

 本日、『万屋うどんこ』店休日。お供するです~と言うラビには遠慮してもらい、単独で参加することにした。ラビに店を任せることもちらっと考えたが、五千ルナの報酬の時とは異なり、終わりの時間が見えないということもあり、閉めることにした。蓑口さんに聞いた所、「長くなると思っておいた方が良いですよ。下手したら1日じゃ終わらないかも・・・」なんて末恐ろしい答えが返ってきた。お尻の時間は決めておいて欲しいよな。

 送迎はもちろん運び屋だ。

「それでは会議が終わった頃合でお迎えに上がりますので。それでは~。」

バビューン!!

会議の終了時間は未定なのだよ、運び屋。ここがどこかは不明だが、目の前にでっかいお城がそびえ立っている。でかいというか高い。細長い。立派な古城がローグライク・ミーティング開催場所の模様。周囲にもちらほら人がいて、城へ向かって歩いていく。道具屋をやっていると服装というか、装備品でジョブを推測する癖が付いてしまうのだが、冒険者の類は見当たらなかった。皆、俺寄りの服装。その名の通り、各地の道具屋が集合するのかな。であれば、同職の者同士、情報交換でもできれば儲けものだ。ラビへの土産話も欲しいよな。

 「こんにちは。ローグライク・ミーティングの招待状を頂いた者ですが、会場はこちらで宜しいでしょうか。」

「遠方よりようこそおいで下さいました。どうぞ中へ。着席してお待ち下さい。」

門番と呼べば良いのだろうか。場内へ通された俺は長い廊下を歩き続け、突き当りの大部屋に到着した。別に急いだ訳ではないが、必要以上にのんびりしたつもりもない。4、5分かかったろうか。部屋に着くまで運び屋に付き添って欲しかったというのが本音。場内到着前にはゼロでなかった期待感や、ラビのようなドキドキですというポジティブな心境は完全に消失してしまった。今あるのは恐怖と緊張、そして帰宅願望。1度振り返った時の、あの入口までの距離は、あの遠さは駄目だ。絶望しかもたらさない。それが狙いだとしたら見事と言う他ないが、来た道を戻る意思が削がれる。さらには門番を始め、廊下の両隅に等間隔で立つ奴全員が白フードを目深に被っていたから、そう、招待状を渡しに来た人物と同じ格好だったから、もう、怯(ひる)み気圧(けお)され怖気(おぞけ)だった。

 薄明かりの灯る長い廊下。真紅の絨毯(じゅうたん)が敷かれ、壁には誰だか分からん肖像画が一定間隔で飾られている。このお屋敷のお偉いさんというか、歴代の城主なのだろうか。だとしたら現在何代目だ。この城は築何百年だ。それと、隅の奴等は言葉を発するでも会釈するでもない。ただひたすらに直立不動。行儀の良さも過剰となればこうも気味悪いのだ。

 さて、突き当りが会場の大部屋だったのだが、その前にもやはり白フード。扉は閉ざされていて、そいつが黙って開ける。どうぞともお入り下さいとも、頭を下げるでもない。声を発するまで待機してやろうかとも考えたが今日の所は勘弁してやった。

 広い・・・向かいの壁まで歩いて1分以上かかるんじゃないかしら。大は小を兼ねるというが、不便で仕方ないだろう。掃除が大変だ。時間と労力がかかりすぎる。そう思ったのも束の間、これだけ大勢の召使が

居れば屁でもないか。

部屋の中央にあるのは円卓という物か。バカがつくほどの大きな円形の机と、24もの椅子が置かれていた。既に着席している先客も数名いたのだが、その服装が一般的なものであったのは救いだった。これで一緒に座るやつまで白フードだったらノイローゼになってしまう。とは言え、気持ちを落ち着ける為にも、他の人物同様、独りぽつんと間を空けて腰掛けた。それにしても・・・実用性に乏しい使い勝手の悪い机だ。真向かいでは大声を出さないと話もできない。会議用の机としては全く向いていないと思うのだが、誰も何とも言わないのだろうか。

 数十分後、全ての席は埋まらなかった。出席者は全部で19名。到着が早かった俺は着席して以降やることもなく手持ち無沙汰で、ボールペンをクルクル回すか人数をチェックするくらいしかできることがなかった。俺と同じ普段着の人間が増えていくと同時に、白フードの奴らも徐々に会場内へ入室してきた。飽きもせず壁際に立って俺達を逃がさぬようにかは知らんが、沈黙を貫いていた。


 「お待たせ致しました。時間となりましたので、ローグライク・ミーティングを開始致します。」

何はともあれ始まるかという安堵が半分、どこから声がしているのか不明という恐怖が半分。目立たぬように一通りギョロギョロと見回した所、部屋の中にいる人間は誰ひとり口を開いていなかった。大方、別室から会議室の様子を伺っているのだろうが、パッと見スピーカやカメラは見当たらない。気色悪い。もう帰りたいと切望しているのは俺だけではないはずだ。ラビを置いてきて正解だ。この会場の雰囲気は幼子を泣かせるには十分の圧力を伴っている。って言うか、俺が泣きそうだ。

 「今日は初参加の方がメインとなっておりますので、まずは本会議の目的と規矩準縄(きくじゅんじょう)を説明致します。」

聞き慣れない単語ができてきたが、ルールという解釈で問題ないだろう。メモを取る準備をして、どこからともなく聞こえる声に耳を傾けた。こりゃ、字が安定しないな。

 俺の悪い癖なのだが、調子のバロメータが文字に出る。特に精神的な戸惑い、緊張、気だるさ等が自分の中を占める割合が高いと、己の字体が変わってきてしまうのだ。普段の俺の字とは異なる、誰か別の人間が書いたのではないかという文字がペンから繰り出されてしまう。そしてその字を俺は嫌う。何だこの字は、汚いないな。若干イラっとする。余計に文字が変形する、という悪循環だ。俺はメモを取ったりノートをつけたり、帳簿をつけたりする作業は苦にならない。ペンで紙に文字を書いている限り心が落ち着くのだ。眠くもならないし集中力も途切れない。けれどももしかしたら今日はそうはいかないかもしれない、という思いが『字が安定しないな』には込められていた。

 「はじめに本会議の目的ですが、至極簡単、強い武器、堅い防具、便利な道具を作ることです。作ると申しましても必要なのは鉄やオリハルコンではありません。より根源的なもの、皆様のアイデアです。さて、魔王討伐の域に到達した勇者の多くは最終試練、ラストダンジョンへ挑むこととなります。特にラストダンジョンの敵の強さと、冒険の長さはこの世界の比ではありません。生きていれば何度でも挑むことができますが、死亡すればそれまで。また1からのやり直し。そうならない為の少しでもラストダンジョンでの生存確率を上げる為に、皆さんのアビリティが必須なのです。」

確か、運び屋かクオーダが最終試練なんて単語を使っていた気がしたが・・・

「ラストダンジョンをクリアする鍵は、皆さんの独創的なアイデア。これから『オーダープレート』をお配り致します。こちらに商品名と、特質・特性を記入して下さい。記入例も一緒に配布致しますので、参考にして頂ければと思います。記入できましたら回りの者に提出して下さい。価格と制約が記入されたプレートが返却されればアイテム完成となります。不可と書かれた用紙が返ってきた際は再考願います。お独り様、ノルマは10品目と考えております。完了するまでは場外に出ることは一切できませんのでご了承下さい。それでは、始め。」

 配られたオーダープレートを前に腕組みして、じ~っと押し黙る。一緒に置かれた手本のプレートを眺めてみるが、どうもよく分からない。手のひらサイズのお手頃な札。待機する白フードが配布したのだが、その際どんな奴かとちょっとでもフードの下を拝んでやろうと目を凝らした。腕の一本でも曝け出せこの野郎と思っていたが、爪の1枚たりとも露わにしなかった。随分と大きなフードを着ているようで。

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