道具屋会議 終
始めろと言われた所で何からどう手を付ければ良いのか分からず、まずはサンプルに目を通した。『疾風の剣・・・・・・』これは蓑口さんが教えてくれた武器だ。有名な武器なのだろうか。確か2回攻撃と言っていたっけ。『疾風の剣。攻撃力180。1ターンに2回攻撃が可能。ただし1回の攻撃力は1/2となる。価格は50,000ルナ。』
5万ルナって、随分と高いな。超高級品というか、うちの店のどの品よりも高いじゃないか。一応店売り商品では最高品質のものばかりだと聞いたぞ。攻撃力の180が目の飛び出る程高いかどうかは知らないが、1回の攻撃力が半分というのは意味がない気がするのだが、まぁ、いい。プレートの書き方は理解できた気がする。名称、特殊効果、価格、そして制約。
仮にもローグライク・ミーティング、道具屋会議という名称だろう。だのに。誰しも皆平等に、話もし易いようにということで円卓を用意したのではないのか。隣の同士と相談しようとした道具屋が注意を受けていた。どこからか盗み見ていtるようで、個人的に注意したのではなく、話そうとした絶妙のタイミングで警告が入った。私語は禁止、もちろんカンニングも駄目。ひたすら黙って搾り出せということらしい。であるならば一体全体、円卓を用意した理由を尋ねたかったが、変な目立ち方をするのも気が引けたので、行動には移さなかった。さっさと終わらせて帰ろう、こんなにも息の詰まる会議だとは想像していなかった。この会議が勇者一行にとってどれほど大切なものかは知らないが、俺はパスだ。ま、こんなの会議でもなんでもないけどな。何故、わざわざ一堂に集めたのやら。
ノルマは10とのこと。俺の知識は道具屋としての生活と酒場での盗み聞き。いささか頼り甲斐のない命綱だが、やってみるしかない。オーダープレートに記入し、白フードのやつから承認を得られれば1個クリアだそうだ。
さて、何からどう手をつけようか、なんて考えていたら、頭の中に政樹の母ちゃんが出てきた。現状を知ったらひどく悲しむだろうな。たとえ故郷に戻ることがあっても話せない。
「淳ちゃん、政樹、いいかい。じゃあ、『今までにないコップ』を考えるんだよ」
「ん~・・・コップって、ミルクを飲むコップのことでしょう。」
「そう。でもね、普通のコップじゃ、おもしろくない。でも2人はコップを売らなくちゃいけない。回りには同じようなコップが所狭しと並んでいる。それでも自分達のコップを売らなくちゃならない。」
「???」
「よし、ヒントを上げよう。ミルクを入れないコップ、手に持たないコップ、目に見えないコップ、口をつけないコップ、もしくは、そうねー、割れやすいコップに溶けるコップ。こんな所でどうかしら?こんなコップなら欲しくなっちゃうでしょう!」
「??????」
今思い出しても訳が分からない。まあ、いい。まずは道具だ。ヒントはある。この世界ではマジックポイントの回復手段が希少だということ。だからマジックポーションはとても重宝される。それならば、ここから手をつけてみよう。まずは名前。とりあえず適当にマジックヒール。効果はマジックポイントの回復。マジックポーションの回復量が50らしいから100にしてみようか。製薬は回使ったら無くなるということで良いのだろうか。価格は・・・1,000ルナにしておくか。とにかく、これで1度提出してみることにした。
驚いた。思わず息を飲んだ。もう少しで叫び声を上げてしまう所だった。人間、本当にびっくりすると息が詰まって呼吸が止まって、声が出なくなるんだな。そんでもって、こいつら人間じゃない。
「差し込み口にカードを入れて、査定のボタンを押して下さい。」
こいつら機械だ、ロボットだ。我に返った時には白いフードをチラッとめくっていた。顔の部分に差し込み口があってカメラだろうか、人の鼻の位置に一つ目があった。もしかしたらうちの店に来た奴もロボットだったのか。いや、しかし、会話をした限り何の違和感もなかった。会話に対する反応速度は人のそれと比較しても何ひとつ遅くなかった。ラビの接客や商品の並べ方を褒めてくれた。ロボットに数字やデータの分析はできても、現場の評価が瞬時に下せるとは思えない。もう何がどうなっているのかさっぱりだったが、言われた通り、音声ガイドに促された通り、プレートを挿入した。
数十秒後、プレートが返却された、一枚の紙切れを添えて。ピッピッピという機械音がしたかと思うと、まず目に入ったのは「不可」という赤色の文字。とりあえず駄目ということか。そしてその下には小さめの黒字で解説文みたいのがあって、不可となった理由が印字されていた。それによると、既存のアイテムに類似品が存在していること、制約の条件が弱いこと、価格設定要再考とあった。まとめると全部ダメだということだな。紙切れの下には真新しいプレートが用意されていた。やり方は何となく分かったぞ。10個か。これはのんびりしていたら帰れなくなってしまう。
どんなアイテムをプレゼンしたか、ざっと名前を挙げてみようか。そう、もうプレゼント言ってしまったが、道具や会議はプレゼンテーションの場だった。その為の準備がプレートの提出というわけだ。終血の剣、輪廻聖典、永絆の指輪、マジカルペンシル、頑丈な袋、マジックエクスプロージョン、記憶の種、トロルの手甲、神眼の石、魔竜の逆鱗・・・・・・
ひと段落ついて、現在休憩中。何枚のプレートを差し込んだろうか。ほとんど返却されたが。けれども、何枚かについては「可」とか「持ち越し」とか「保留」というメモ紙が返ってきて、プレートの提出が認められたり、まるで駄目というわけではないということが知らされた。結局10個というノルマを達成できなかったのだが、できなかったというか、6つか7つクリアした時に声が掛かった。白フードの機械からの返却を待っている時に後ろから肩をポンポンと叩かれた。はい?と振り返るといつの間にかひとりの男が立っていた。こいつは赤フード。
「うおっ!」
思わず手を振りほどいてしまった。こいつら普通に人と話すことができないのだろうか。それといきなりの赤は目にくるからやめてほしい。
案内されて初めて気が付いたのだが、この大部屋にはもうひとつの扉があった。部屋の壁と同色に塗ってあるのだから遠目には全然気付かなかった。俺と数名はそこに通されていた。機械ではなくフードを被った人間に。薄暗い部屋で椅子も机もない。俺と他3名は悪事のバレた子供の様に黙って俯いて、声の掛かる時を待っていた。この先、何が起こるか見当もつかない恐怖と戦いながら。
「長野さん、由良さん、武沢さん、如月さん、お待たせしました。どうぞ、大部屋にお戻り下さい。」
ここから2時間、結局合計10時間も軟禁された。収穫ゼロとは言わないが、願わくば2度と参加したくない。気が向いたらプレゼンも含めて、道具屋会議の全貌を語ろうか。酒を飲みながらで良ければ。
カラン、コロン、カラーン・・・
「お帰りなさい、如月さん。」
「ただいま戻りました。」
帰りは知らない奴とツーショット。帰る場所を聞かれ、ヨーギと答えると肩に手を置かれテレポーテーション。一応礼をと振り返った時には既に姿が消えていた。外は真っ暗だ。
「いかがでしたか、ローグライク会議は?」
「できれば2度目は御免被りたいですね。」
「フフフ・・・今、お夕飯の準備しますね。」
ヘトヘトだったが、蓑口さんの顔を見てほっとした。そして、成果のない会議ではなかった。とりあえずの充実感には満たされていて2次会、実の所の本会議なのだが、その参加者にも選抜された。話のネタには困らない。むしろ蓑口さんに喋りたい。
「そうですか、大変でしたね。でも、如月さんなら本会議まで進めると思っていましたよ。」
本日の夕食はすき焼き。小さ目の鍋を2人でつつく。物凄く緊張する。一挙手一投足に神経を使うので、道具屋会議の方がまだ楽なくらいだ。
「最初はちゃっちゃと終わらせて帰りたかったんですけれど・・・本会議で説明を受けて実際に道具を作っていったりすると、やっぱりその―少しでも冒険者一行の力になれれば良いのかな、と。」
心にも無かったことがベラベラと突いて出た。その間に蓑口さんが俺の皿にお肉、春菊、ネギなんかを装ってくれた、蓑口さんのお箸で(直箸でいいですかと訊かれた時にはもう疲れなんかどっかへ吹っ飛んだ挙句別の疲労が出てきたのか汗が止まらなくなってしまって大変だった)。
「それで、どんな道具を作ったんですか?」
卵のおかわりもくれた。新鮮なのだろう、殻を割ると黄身がこんもりと盛り上がっていた。
「実は、次回持ち越しが結構ありまして・・・実際に具現化できたアイテムは3つでした。」
「3つなら上々ですよ。」
は~、楽しい。
「ひとつ目が『マジックエクスプロージョン』。全マジックポイントを使って敵に大ダメージを与えます。でもこれは、同じ効果の魔法があるみたいですね。その魔法が使えない職業でも必要とあらば、という感じです。ふたつ目、『輪廻聖典』。これはステータスの減少を極力小さくして転職できます。ヨーギに行くことなくその場で使用可能ですが、転職後のジョブ選択はランダムとなります。それとみっつ目が『記憶の種』。これは単純に記憶を蘇らせるアイテムです。」
「ラビちゃん用・・・かな?」
「そう・・・かもしれません。他にも保留とか次回持ち越しというのが幾つかあったのですが、とりあえずは帰れるということで―」
申し訳ないな。今、俺は嘘をついている。
「いえいえ、立派ですよ。凄い、優秀です。3アイテムも具現化できて、持ち越し保留もあって。しかも初参加ですもんね。ただ残念なのは、次回の参加が確定しちゃったことですかね。」
騙しているのかもしれない。蓑口さんを。騙すのかもしれない、ラビを。自分の目的だけ為に。
【 道具屋会議 終 】




