独りじゃない⑥
「こんばんは~」
「おう、来たか如月。どっかその辺に座ってくれ~い。」
酒場デビューも果たした。17時に仕事を終えてそのまま顔を出すこともあれば、宿で1度シャワーを浴びてから出掛けることもある。今日は喉が渇いて仕方なかったので酒場へ直行した。酒場が開くのも夕方からのはずだが、それでも店内の席はいつも半数以上埋まっている。俺のような一般客もいるが、ほとんどは勇者御一行だ。いや、別に構わないんだけれど、いいのか、レベル上げしたり次の目的地を目指したりしなくて。二日酔いでモンスターと戦っていたりしないだろうな。さて、そんなことより、
「ヴァイチェンビール、下さい。」
「あいよ~~。」
俺のお気に入りだ。店のお勧めということで注文して以来、必ず頼んでいる。こいつを1杯、2杯飲んでオリベイラへ戻る。つまみの類はなし。食事は十分すぎるほどに準備されているから。それと、もうひとつの目的。
「東の洞窟・・・あれは厳しいぜ。モンスターが強すぎるんだよ。あと、毒持ち、麻痺持ちが多いから厄介だよな。」
俺は基本的に独りかつ短時間で酒場を出るのだが、
「最深部にある『ダイヤの紋章』を取って来いなんて言っていたが、本当にあるのかね、そんなモン。まぁ、王とか大臣が嘘ついているとは思わんけどさ。何度も出入りしてマップを覚えないと現在地が分かんなくなっちまうよな。迷子って奴だ。絶対に帰還の羽を忘れちゃいけない、命取りだぞ。」
もうひとつの目的は情報収集。確かに集めた所で品揃えを大きく変更することはできないが、絶対に切らせてはいけないモノ、客の需要を耳にできる良い機会なのだ。
「東の道具屋にしか置いていない鋼シリーズは重宝するぞ。仲間に重装備系がいるならば絶対に装備させたいな。ルナを貯めたらまずは武器。次に鋼シリーズで堅めたら、防具屋で魔道士系の装備品を購入する。時間をかけてでもちゃんと準備しないといけない。手を抜くと洞窟の中で痛い目を見るからな。」
上の話を盗み聞きできたときは嬉しかった。鋼シリーズが販売好調の理由が明らんだ。鋼の鎧、盾、兜は道具屋うどんこの独占アイテムなのだ。これがオリベイラに泊まれる、5,000ルナ貯められるという確信を導いてくれた。
ちょっとだけ本線を外れるけれども、酒場からすぐに宿へと戻る理由。俺は酒に弱い。ほろ酔い加減でただいま、と。ヴァイチェンビール1杯で気持ちよくなってしまう。
『五千ルナの報酬』を射程圏内に捉えるまで2週間とかからなかった。5,000ルナ支払ったら手持ちのルナが無くなりましたでは翌日の発注ができなくなってしまうし、宿にも泊まれなくなってしまう。5,000ルナプラスアルファを手元に置いて考える。アルファの部分が5,000ルナに近い。石橋を叩いて渡る性格らしいことを今更ながら自覚させられた。
どの報酬にするか。福引きの設置、レジスターの設置、原価1パーセント削減、他店舗との情報交換、勇者御一行の情報獲得、看板設置(照明付)、24時間営業、自動販売機の設置、従業員の採用、アイテム図鑑①配布、配達車両のレンタル。
本命は決まっていた。勇者に関することならとりあえずは何でも構わない。まだ政樹に再会できていない。そして俺の勘が告げる。もうしばらく会えね~んじゃね。どんな話が聞けるのか、それこそ個人的な情報が公開されるかは知らないが、ルナに余裕が出てくると気持ちにもゆとりが持てる。物は試し。問い合わせる奴は決まっている。
「五千ルナの報酬ですか?いつでもお伺いしますよ~。」
話が早くて助かる。
「そしたら・・・」
『五千ルナの報酬 項目一覧』という、以前渡されたペラ紙を手に例の項目を指差した。ただ、俺とて何も分からぬまま大金を注ぎ込む程に無謀ではない。
「勇者一行の情報とありますが、どんなことを教えてもらえるんですか?」
はっきり言って、勇者と言っても大袈裟ではなく、腐る程いる。興味のない情報ばかり集まっても困ってしまう。
「それはですね~・・・」
2階で鋼シリーズを納品しながら運び屋が答える。
「神父様しか分かりませんね~。」
「ん、神・・・父、様・・・・・・?」
妙な記憶しか頭を過ぎらない。
「はい。・・・よっこい、しょっ、と。やっぱり鋼の装備は重いですね~。勇者一行の情報は教会で神父様よりお話を頂くことになります。ただ、その間、お店を離れることになりますので、まずは1名アルバイトを雇ってからということになります。」
時間を貰うことにした。突然アルバイトとかそういう話まで飛ぶとは思わなかった。確かに現状ではおちおち昼飯も食べていられない。2階に商品を取りに行っている間、客を待たせることもある。トイレだって行く。ちょっとした休憩時間があってもいいだろう。人手の欲しい状況下ではあるが、問題はどんな奴が来るかだ。とんでもない奴を雇ったら地獄だ。店舗内で一日中一緒にいるのだから回避不可能。そんな大切な従業員はどうやって選ぶのだろうか。一般的には面接してから採用、不採用を決めるはずだが―
翌日。「アルバイトを雇うとしたら、どんな方がいらっしゃるんですかね?あれかな、自分で募集をかけたりするのかな?」
時給が幾らで、週に何日、何時間勤務するのかといったことも気になるが、どんな奴が来るのかが分からないと話が先に進まない。たとえ鋼シリーズを片手で運べるくらいの力持ちだったとしても、スキンヘッドで上半身裸のヒゲ親父が店番に立っていたら客が寄り付かなくなってしまう。一般的には募集をかけて面接をして、ふるい(・・・)にかけるはずだが。今日も遠慮なく2階に着陸した運び屋に聞いてみた。すると。
「そう聞いてくると思って準備してきましたよ~。候補は3人です。顔写真付きですので分かり易いかと思います~。」
きっと運び屋は仕事ができる。唐突に直感が同意を求める。異論はなかった。一歩、二歩先を見据えている。俺の次の行動も奴の頭の中に素描されているのだろう。小憎たらしい程に信用しているのだと気付いたが、もちろん微塵も悟らせない。
気持ちを切り替えて、俺は履歴書でも入っているであろう、大き目の封筒を3枚受け取った。
言葉に詰まった。客の切れ目、隙を見て封筒を開封。中身はやはり履歴書の様なものだったが、学歴、職歴、資格の類は一切記入なし。あったのは顔写真と六角形のレーダーチャート。その項目は、接客、勤務日数、勤務時間、勤務能力、特記1、特記2。片手間に目を通すものではないので、詳細は宿に戻ってから。
朝方、運び屋は「アルバイトさんが決まったら私奴にお申し付け下さい。即日お連れしますので~」と言っていた。面接とかやらないのだろうか。紙切れ一枚では性別と、ちょっとした個人情報しか分からないではないか。




