独りじゃない⑤
「どうしても無理なんですか?」
「どうしても無理なんですよ~。」
「鍛冶屋さんに理由は聞いて頂けました?」
「いや~、一応は聞いたんですよ~。道具屋さんが鋼シリーズをバラで発注したいと仰っていますけどって。」
「そしたら何と?」
「その・・・あの~、鍛冶屋さんの仰っていたことをそのままお伝えしますね。」
「お願いします。」
「好き勝手に発注させたらチョロチョロ発注したり、大量発注かましたりすんだろう。面倒臭ぇからよ、ルール作って発注を管理すんだよ。」
ご丁寧に、胸にしまっていた手帳を読み上げてくれた。わざわざメモを取ってくれたらしい。厚意は有難かったが、声色まで真似せんで宜しい。
1週間とかからずに、オリベイラに泊まれるようになった。それだけの収入を得られるようになった。要因は客数増と単価増。難しくごちゃごちゃ考える必要はない。売上げを上げるにはこの2つと、買い上げ点数を増やすしかない。客数が増えれば基本的には売上げが上がる。それと、客の買っていくものが高価になればなる程、店に入ってくる金額も大きくなる。薬草と鋼の鎧を比べればその差は一目瞭然。加えて、客が沢山買ってくれれば言うことなし。客数、客単価、買い上げ点数、この3つが小売業の肝である。もちろん、売価10000ルナに対して原価9999ルナでは儲けにならないが、これは極論。いずれ原価率についても考える時期が来るかもしれないが、今の所は、高額な商品を売れば多額の利益に結びつくという考え方で問題ないだろう。そしてうちの高額商品は鋼シリーズ。コイツのおかげで売上、利益が劇的に伸長した。オリベイラに帰ることができた。
カラン、コロン、カラーン・・・
「お帰りなさい、如月さん。お待ちしておりました。」
俺が入ってくるのが分かっていたかのように落ち着いて、ゆったり何ひとつ慌てることなく、蓑口さんが迎えてくれた。
「今晩からまたお世話になりたいのですが。」
「かしこまりました。お部屋はご用意できております。こちらの鍵をご利用下さい。」
既に準備してある、というのが嬉しかった。信じて疑わなかったのだ、俺が戻ってくるのを。「来た客に、順番に部屋を割り振っているんだよ」という声が聞こえてきそうだ。俺の都合の良い思い込みだと。俺だってそう思っていたさ、部屋の扉を開けるまでは。随分と広くなった部屋の中にはタンスと、大きなのっぽの置き時計。ここ、505号室は俺の為に支度された部屋なのだ。 と、まぁ、めでたしめでたしなのだが、ここでの暮らしに関してはもうちょっと後回しで。
んで、先にも書いたが、もう少しお付き合い願おう。
「な~んで鎧だけとか、盾だけの発注ができないかな~。別に難しいことじゃなさそうだけどな~。」
やや嫌味ったらしい口調に変化した自覚はある。
「私に言われましても・・・・・・物流のルールというか規制と言いますか―それを決めているのは私ではありませんので、それではっ、また明日~!」
バビューン!!
逃げやがった。
運び屋にも伝えたが、困ったことはズバリ、鋼の兜の在庫がだぶつき始めていること。どういうわけか鋼シリーズは単品で発注できない。つまり、鋼の鎧だけ注文する、といったことが断られてしまうのだ。鎧が5つ欲しければ、もれなく盾と兜もついてくる。もちろん有料で。結果、俺の店では兜が余ってきてしまった。
それと、これは別に困ったことではないのだが、鋼シリーズが2階で保管されている理由が分かった。持ち運びが大変であれば1階に置いておけばいいじゃないか。俺もそう思った。もしくは防犯の為、高価な商品は1階に保管しない方が安心、安全なのかとも考えたが、真の理由は違う所にあった。もっと他愛のないもの。これまた運び屋が登場するのだが、信じられるか、2階に着地するんだぞ、運び屋の野郎。初めての朝は心臓が飛び出るかと思った。隕石でも落ちてきたのかと2階へ駆け上がると運び屋がいて、説明を受けた。ダイヤ・セガタでは2階で商品の受け渡しをするのが昔からの風儀だそうで―そんなことはどうでもいい。不便であれば変えればいいじゃないか。いや、分かるぞ、1階から2階に重量たっぷりの盾や鎧を運ぶのは重労働だろうという気遣いがあるのは。しかしな・・・おかげで店の一部の屋根がビニールシートなんだよ。運び屋の来る時間までに俺が手動で開ける。ちなみにビニールシートは急遽俺が取り付けた。運び屋がぶっ壊したままでは、雨が降ったら一発で鋼シリーズがずぶ濡れだ。尤も、シートを屋根替わりにした所で、雨漏りは避けられないだろうけど。
『道具屋うどんこ ダイヤ・セガタ店』はそんなこんなで始まったのだが、とりあえず忙し―
「いらっしゃいませ。」
客足があまり途絶えない。先の2店舗とは比較にならない。どこか店に活気が出てきたような気がしないでもない。
「帰還の羽を3つと、鋼の鎧ですね、かしこまりました。少々お待ち下さい。」
薬草や毒消し草の注文を受けることはさらに減った。魔法でいくらでも回復できますよ、ということなのだろう。ただし月見草はちょくちょく売れる。麻痺を治癒する魔法はいささか難しいとみた。習得するまでのレベルが先の2つよりも高いのだろう。もしくは必要なマジックポイントが高いので、道具を使ったほうが賢いということなのかもしれない。とはいえ、金額は雀の涙程度。なんてことを言ってはいけ―
「いらっしゃいませー。どうも、こんにちは。はい、鋼シリーズ一式と帰還の羽を3つですね。」
チッ、ツッ、タッと自作のそろばんを弾く。もう暗算では厳しい。
「全部で4,745ルナになります。ただいま鋼シリーズを用意致しますので、お待ち下さい。」
鋼シリーズの運搬は肉体労働だ。普段の運動不足も祟って、最初の数日は胸回りと二の腕周辺が筋肉痛になってしまった。直に体が慣れて―
「は~い、いらっしゃいませー・・・」
こんな具合でゆっくり巨大おにぎりを食べる暇もない。でも楽しいな。汗だくにはなるが、ルナが貯まっていく。成果が、結果が目に見える。
お店は忙しいほど活気があって疲れない。時間の経過も速い。ルナも儲かり、筋肉痛や草臥れなんかは成果が吹き飛ばしてくれる。




