塵も積もれば 終
7時45分、店へ到着。直に運び屋がやってくるので納品準備。入ってくるアイテムと数は把握済み。運ばれた商品をすぐにしまえるようにスペースを確保。納品は段ボール箱に入ってくる。古い商品と言ったら聞こえが悪いが、今、入ってきた商品はとりあえず箱のまま保管。元々あった在庫から販売してくのだ。これにて朝の準備はおしまい。あとは客の来店を待つばかり。と言っても、クゴートの里同様に客数は多くない。暇な時間が圧倒的に長い。ということで、とある物を作り始めた。五千ルナの報酬を参考にしたのだが。
看板と異なり細かい作業となるので難儀しているが、どうにかこうにか完成までもっていけそうだ。目的は精算時の計算を速く正確にという事と、客の信頼。ちょろまかしていませんよと証するべく『算盤』を作成中だ。現状、暗算でも全く問題ないのだが、買い物客に安心感を与えられるかと思う。さすがにレジスターはどうにもできないが、数日でできあがるだろう。
肝心の売れ行きについてだが、先にも言っただろうか、毒消し草がバンバン売れた。各パーティーにひとりは毒に犯された奴がいるのではないかと思われる程、ステータス異常で中間地点に辿り着く奴らが多かった。購入するや否や、店先で使用するという光景は見慣れてしまった。単なる準備不足か、敵のステータス攻撃がよほど優秀なのか・・・前者だろうな、間違いなく。最初のダンジョンの毒攻撃なんか、たかが知れている。我先にとクリア、攻略を目指すのは勝手だが、無謀であろう。計画性がないと罵られても反論できまい。クゴートでも毒消し草は販売していたのに買っていくパーティーはあまりいなかった。よほど急いでいたのだとは思うが、予備という発想は生まれず。無理にでも先を目指している風に感じた。全財産を叩いて薬草を持てるだけ買って、早々にクゴートを発つ一行をしばしば目にした。勇者様の方針というか、性格にもよるのだろう。危険を顧みず先を急ぐタイプと、じっくりゆっくりしっかりとルナと経験値を溜めるタイプ。それはそうと、クゴートの里で、毒消し草を買っておいた方が良いという情報はなかったのだろうか。里の人間、誰も教えてあげなかったのかしら。
オメガの丘における最初の2週間の印象は、よく毒消し草が、そしてやっぱり薬草が売れたな。それはそうだ、準備不足のパーティーが多い上に、目の前の宿屋で休むこともできない。値段を倍にしたって売れただろう。対照的に棍棒、皮の盾、そしてターバンが全く売れなかった。武道着はたまに売れる。ダンジョンでルナが余り気味のパーティーが武道家用に購入していくのだが、ターバンには見向きもしない。だって、パーティーに商人がいないんだもの。そりゃいらないわな。商人は人気のないジョブというか、あまり目にしない。振り分けが少ないのかもしれない。もしくは酒場で待機していても勇者が仲間に誘わないのかな。近接戦闘力は中の下、魔法は使えない。戦闘における特殊能力もなし。モンスターを倒した際に獲得できるルナがいくらか増えるようだが、わざわざ仲間に誘うほどの能力ではない。やはり他のジョブと比較して魅力に欠ける。商人の評価はそんな所だろうか。冒険を進めていくと新たに特殊能力を身に付けるという沙汰もあるが、それを含めても選択肢から外されるのが商人。ターバンが売れる訳がない。商人もいないのにターバンを買おうとする奴がいたら聞かずにはいられない。
「あなたはこの防具を装備できませんが、宜しいですか?」
後半の2週間―実は、『道具屋うどんこ オメガの丘店』も1ヶ月で終幕を迎えるのだが、売上げは下降した。客数は前半と比較して横ばい。つまり、客が物を買っていかなくなった。ひとパーティー当たりの買い上げ点数がガクンと落ちたのだ。
「本日は発注ナシで宜しいですか~?」
ある朝は在庫十分の為、何ひとつ道具の発注を行わなかった。そして欠品の気配すら漂わず。そんでもってターバンは相も変わらずほとんど売れない。「ターバンください。」と注文を受けた時は驚きを隠すのに必死だった。1ヶ月間でひとつ売れた。武道着は時折買っていく客がいたが、棍棒と皮の盾はゼロ。置いておくだけ無駄。はっきり言って邪魔なだけ。俺が道具屋に売りたいくらいだ。
そして売上げに致命的な打撃を与える現実。それは、段々、段々と、勇者共のレベルが上がっていることだ。初ダンジョンに備えて、クゴートの里周辺でレベル上げをしたのだろう。先の奴等とは違って、ある程度余裕を持って攻略しているようだ。ダンジョン内を探索できるから宝箱も回収可能。わざわざ俺の世話になる必要はない。
レベルが上がると僧侶や勇者が回復魔法を覚える。覚えてしまう。当然の成り行きとして薬草の出番がめっきり減少する。これを機に、今後一切薬草に触れることのない奴もいるんだろうな。さらにもうワンランク上のレベルに到達したパーティーは、あろうことか解毒魔法まで習得していやがる。ステータス異常は厄介ではあるが、解除手段を習得していれば恐るるに足らず。となれば、毒消し草には目も呉れない。そうなると道具屋なんぞに用はない。売上げの上がる要因は全く見えないというわけだ。加えて、レベルの高いパーティーは装備をしっかりと整えている。武器も防具も申し分なし。現時点で入手可能な装備品で最も性能の高い物を身につけている。石橋を叩いて渡るかの如く、敵と戦って経験値を稼いでレベルを上げる。この作業でルナも同時並行に溜まっていく。ダンジョン突入前に武器、防具及び道具の支度は万端ということだ。ついでに言えばダンジョン探索によって消耗品を減らしたとしても、洞窟内で補充できてしまう。そこまでレベルの上昇したパーティーにとって、目新しいアイテムのない店に興味はない。品揃えだけ確認して先に進む奴等も多かった。
さて、オメガの丘での最後の朝。俺の全財産は720ルナ。生きていくことはできたが、あまり増えなかった。運び屋への支払いを終え、クゴート店の利益ということで250ルナ受け取った。アルバイトを雇った覚えはないが誰かが俺の代わりに店を回しているそうで、「今はお話できませんが、無難に仕事をしていますのでご心配なく。」だそうだ。
次の目的地は『ダイヤ・セガタ』。運び屋の荷馬車に乗り込み出発を待つ。5千ルナまでは程遠い。その道のりは先が全く見えなかった。
【 塵も積もれば 終 】




